NEW YORKER

Special Contents

Spring / Summer 2019

GENTLE COTTON

VOL.07

心を繋いだ特別な糸
ジェントルコットン」ができるまで。

大正紡績 赤松一人さん × ニューヨーカーデザイナー 兼清紘成 対談

柔らかさと膨らみ、そして上品な光沢を持つオリジナルのブレンド糸を使用した、ニューヨーカーの新たな顔「ジェントルコットン」シリーズ。そのスペシャルな糸は、ある紡績会社との出合いから生まれたもの。開発を手がけた2人が、その過程について語る。

VOL.07

もの作りへの情熱にシンパシーを感じた

── 両社のお付き合いはいつから?

兼清
「ジェントルコットンが生まれた2018年の春夏シーズンからです。大正紡績さんの存在を知り、興味を持ったのがきっかけでした。原料の仕入れから自社で行い、綿について熟知されていて、さらにロットやコスト重視になりがちなこの時代、上質なもの作りにこだわりを持っていらっしゃる。その姿勢に感銘を受け、一緒に取り組みができたらと思いました。いま、オリジナル糸の紡績は非常にハードルの高いことなんですが、思いをぶつけたところ、ご協力いただける運びとなりました」
赤松
「兼清さんと打ち合わせをする中で、スペシャルなものを作りたいという熱意を感じました。こういった話はたくさんいただくのですが、実際のところなかなか前進することは少ない。ニューヨーカーさんの努力があってこそ実現できたと思います」
兼清
「私たちも元々は毛織から始まった会社なので、繊維は違いますが、同じようなアイデンティティを感じたんです。世に自信ある商品を送り出す、という目標を共有し話が大いに盛り上がったのを覚えています」

── ジェントルコットン誕生に至るまでの経緯はどのようなものでしたか?

兼清
「もともと、大人のお客様に満足いただけるカジュアルウエアを作りたいという思いがあって。ニューヨーカーといえばスーツなどの重衣料にスポットが当たりがちですが、よりカジュアルにも力を入れたかった。最初は『高級タオルをまとっているようなポロシャツっていいね』という抽象的な話から始まり、そのアイデアを具現化していきました」
赤松
「普通はひとつの綿でひとつの糸を作るのが一般的ですけど、うちはいろんな綿を扱っているので、ニューヨーカーさんの求める風合いをブレンドで表現しようと。そこで提案したのが、アメリカ産のスーピマとメキシコ産のフォアレスの組み合わせでした」
兼清
「大正紡績さんには綿のプロフェッショナルと呼ばれる方がいて、世界各地からあらゆる綿を厳選し仕入れている。そして赤松さんはこちらのニーズに合わせて綿をコーディネイトしてくれる、ソムリエのような存在なんです」
赤松
「育つ地域によってまったく表情が違いますからね。面白いんですよ、綿は」

── 赤松さんがこのふたつをチョイスした理由は?

赤松
「スーピマはしなやかで繊細なタッチ、そして絹のような光沢が特長の超長綿です。フォアレスは膨らみがあるのに柔らかく、さらに発色性にも優れた純白の綿花。最初にキーワードとしていただいたタオルにも使われているものなので、これをスーピマに加えたら面白くなるのではと思いました。あまりメジャーではないですが、キャラクターのある糸なので」
兼清
「素材の選定とブレンド比率は最も工夫したところですよね。生地自体は柔らかくて気持ちよくても、服に仕立てるとだれてしまったり、ドレープが出ることで女性的に見えてしまったりする。それだとニューヨーカーのトラッドなイメージではないですし、メンズウエアは少し張りがあるほうが美しいので、着心地と大人の男性にふさわしい見映え、そのあたりのバランスは試行錯誤しました」
赤松
「風合いを考えると糸は細いほうがいい。が、非常に丈夫なスーピマに比べ、フォアレスはあまり細くできないんです。そこでスーピマをベースとしてフォアレスを加えることに。糸の強度を保持しながら、程よい風合いと膨らみを出そうという狙いです。また撚り方でも仕上がりが違ってくるので、撚る回数などにもこだわりました」
兼清
「ジェントルコットンはきれいな目面と膨らみが特長ですが、このふたつは実は相反するものなんです。それを両立させた、というのが黄金比率と言わせていただいている所以で。いくつか試作品を提出していただいてこの黄金比にたどり着いたんですが、開発段階では赤松さんに随分わがままをぶつけてしまいました(笑)」
赤松
「私たちにはお客様と対峙したもの作りをしようという気持ちが根付いていますから。営業の私にとっても、工場には無理を言いやすい体制になっているので大丈夫です(笑)」
兼清
「そうやって我々の思いを汲んでいただきながら試作を続け、『これだ!』という糸ができた。ポロシャツにはじめて袖を通した瞬間、これは説得力があると思いました。実際、お客様もこのクオリティを実感してくださったようで、新製品にもかかわらず多くの反応をいただきました」
赤松
「私もポロシャツを着ました。柔らかくてとても心地いいですよね」

心地よさとともに、感謝や作り手の思いも届けたい

赤松
「ジェントルコットンって、いい名前ですよね」
兼清
「カジュアルを紳士的に着こなしていただきたい、というメッセージを込めました。ジェントルマンを喚起させてくれる、大人にふさわしい名前ですよね」

── 製品には「Thank you」の下げ札がついていますが、これはどういった思いで?

兼清
「これには二つの意味がありまして、まずは手にとっていただいたお客様への感謝。そして、誰かに贈る際にはメッセージカードとして使えるようにしています。私自身、はじめて袖を通した時に自分の大切な人にも着てほしいと感じたので、お客様にもそんな気持ちになっていただければと。そういった感謝のサイクルもこのプロダクトのテーマのひとつですね」

── 当初、この下げ札は予定になかったそうですが。

兼清
「ジェントルコットンを生む過程で、赤松さんたちのもの作りに触れ、そういったストーリーや作り手の思いまでお客様にお伝えしたいと思ったんです。ちなみに大正紡績さんは20年以上前からトレーサビリティやサスティナビリティといったポリシーを掲げていらっしゃって、そういった点も素晴らしいですよね」
赤松
「現地から直接仕入れることは原料の追跡もできますし、いいクオリティのものが安定して手に入る。あとは働く人を大切にするとか、そういった考え方がずっと前からありますね」
兼清
「ジェントルコットンはこういった背景も含めてできあがった糸ですから。お客様にこうしたもの作りのストーリーや価値を感じていただき、期待されることで私たちもいっそう成長できるのではないかと考えています」

── 今後も楽しみですね。

赤松
「原料を自ら選び、アパレルさんとともに進めるもの作りは思い入れも強いです。だから私たちの糸をひとつの製品にしていただいて、それが好評だと聞くと嬉しくなりますし、またそれを伝え継続していただけるのはとてもありがたいことですね」
兼清
「ニューヨーカーにとっては特別な糸なので、大切に、いろんな製品に派生していけたらと思います。今季は新たにニットソーが加わりましたが、ポロシャツとはまた違った雰囲気で楽しんでいただけるのではないでしょうか」
赤松
「すでに次のプランも進んでいますしね。これからもこのジェントルコットンを軸に、さまざまなアイテムをたくさんのお客様に届けられたらと思います」

Company Profile

大正紡績株式会社

大正7年創立。アパレル企業へ向け、素材提案からカスタムメイドでの糸生産を手がける。大量生産ではなく、独自性やストーリーを大切にしたもの作りを実践。近年は糸からの商品開発にますます注目が集まっている。

オフィシャルサイト https://www.taishoboseki.co.jp/



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