RUOKALISTA=フィンランド語で
メニュー(献立)という意味。
SIPULIの"料理"に欠かせない、
厳選された素材は、どこからやってくるのか。
その素材には、どんなストーリーがあるのか。
SIPULIが追い求める
「伝えることのできるものの良さ」
と共にご紹介していきます。
本日のメニューは
”マトラッセ”。
スポーティな表情ながら、シプリらしい品の良さと、
クリーンなイメージを携えた
マトラッセのブルゾンとジレワンピース。
特集では、織物の生産地として
歴史の長い山形県米沢市を舞台に、
マトラッセの製作背景にフォーカスして
ご紹介いたします。
Matelasse(マトラッセ)とは
Matelasse(マトラッセ)とは、「詰め物をする」というフランス語が由来の言葉。ジャカード織機を用いて凹凸柄に織り出した二重織の生地の事を言い、日本では着物の帯などに使用される「ふくれ織り」という名称で呼ばれています。
今シーズン、シプリ別注で製作したマトラッセの舞台は、絹織物の生産地として歴史の長い山形県米沢市。江戸後期の米沢藩第9代藩主・上杉鷹山の奨励により絹織物産業が栄えました。明治以降は時代の移り代わりとともにレーヨンなどの化学繊維品も発達し、現在は呉服だけでなく、服地の産地にもなっています。そのため米沢市には機屋や縫製工場をはじめ、撚糸屋や染色工場など織物に関わる工場が数多く点在しています。 今回は織物産業の盛んな米沢市で機屋を営んでいるタケダ実業さんにマトラッセの生地を製作してもらいました。
昭和から代々続く「老舗の機屋」
タケダ実業は昭和10年に創業。それから3代に渡って機屋を営んでいます。創業当初の資料は残っていませんが、呉服・座布団生地の製作から始まり、昭和の中頃より呉服用から洋装生地用の織機に変わったそうです。洋装生地用の製作を始めた当初は紗や羅など、夏の着物などに使われるからみ織りが中心でしたが、現在では高品質のフォーマル向け素材として、表面に変化の富んだ生地を主に製作しています。
ジャカード織生地の製作は1つの工場だけで行うわけではなく、織りに入る前の多くの工程を専門の職人さんにお願いします。タケダ実業は依頼されたデザインを実現させるために全体の構想を練り、各工程の職人さんに依頼する具体的な指示書を作成していきます。指示を元に出来上がった糸や紋紙を用いてジャカード織機で織り、その後必要に応じて加工を行います。
シプリで例えるなら機屋さんは、新しい料理の創作する料理人に似たところがあります。イメージされた料理を実現させるために調合などの試行を重ねて、大人数に提供する適切な食材を調達、そしてその食材を使って料理をします。材料や調合を少しでも間違えてしまうとイメージした料理にはならず、そこには緻密な計画が必要とされます。
今回はジャカード織りの工程の中から、タケダ実業の生業である「織り」の作業をはじめ、生地の品質を左右する「整経」や、マトラッセの生地製作には欠かせない「糸の収縮差」についてご紹介いたします。
生地の品質を左右する「整経」
ジャカード織で生地の品質を左右するのが「整経」です。整経とは、織物に使用する経糸を整える工程のことを言います。織物はタテ糸とヨコ糸で構成されていますが、タテ糸の設計はジャカード織りの生地を作成する上で時間と労力を費やし、一度作ってしまうと簡単に変更ができない為、機屋にとっても非常に神経を使います。
「整経」はその設計を元に、整経を専門としている熟練の職人さんが、タテ糸を一定の力で均一に張ったり、長さなどをそろえて必要な本数分用意します。ここでタテ糸の張り具合が均一でなかったり、本数や長さがバラバラだと、織っている最中に様々な不具合が生じてしまうため重要な工程になりますが、さらにマトラッセには、「整経」の作業をする上で欠かせないポイントがあります。
マトラッセに必要不可欠な
「糸の収縮差」
マトラッセを作る上で重要なポイントは複数の糸による収縮差です。マトラッセの独特な凹凸を作る為には下準備として、熱で収縮する糸と収縮しない糸を一定の割合で混ぜて、タテ糸を整経しなければいけません。今回製作した生地は、染色し熱を加えて収縮させた糸と、収縮させてない糸を3対1の割合で設計しました。
この下準備に加えて、織りの工程の後に施す「乾燥加工」の温度管理により、マトラッセのふんわりとした立体感や風合が表現されます。タテ糸の準備が完了したら、次は「織り」の工程に入ります。
紋紙を使った「ジャカード織り」
複雑な模様を織り上げるジャカード織物では、タテ糸を操って織るためのセッティングが必要となります。織機には、綜絖(そうこう)と筬(おさ)があります。綜絖はジャカードの指示に基づいて、タテ糸を上下させ、ヨコ糸を通す杼道を作るための重要なしかけです。筬はタテ糸が絡まないようにする事と、タテ糸の間に通されたヨコ糸を強く織り込む役割があります。
タテ糸は約1万本近くありますが、綜絖と筬には以前のタテ糸がすべて通じている状態であり、そこに用意したタテ糸を繋いでいきます。《画像01》は綜絖の後ろでタテ糸を繋ぎ、筬の手前から引き出している作業になります。約1万本近くあるタテ糸を1本1本繋げなければならず、時間を要するので、職人さんの熟練した手さばきと根気が必要です。その後《画像02》の作業で、繋いだタテ糸を機械によって、前のタテ糸と繋ぎ替えて、織りの作業へ入ります。
タケダ実業では紋紙を使ったジャカード織機で生地を織り上げていきます。紋紙の作成は、「紋切屋」と呼ばれる専門の職人さんに依頼します。紋紙はジャカード織機で図柄を織るために用いられる型紙で、段ボール紙のような厚紙に穴が無数に開いています。織機がその紋紙の穴の情報を読み取ると、先ほど触れた綜絖がタテ糸の上下の動きを制御してヨコ糸が1本ずつ通り紋様が織られていきます。
織機は紋紙を少しずつ読み取って送っていくごとに「ガシャン、ガシャン」という大きな音を立てます。外に響くその機械音は古き良き織物工場のノスタルジックな原風景として、どこか温かな気持ちにさせてくれます。
こうして織られた生地は、汚れや不純物を落とし「糸の収縮差」で触れた最終加工を経て、ようやくマトラッセの生地として完成します。
※写真はすべてマトラッセ生地の作業風景ではございません。
幾何的モチーフを柔らかく
温もりのある表情に
2022年秋冬の企画が始まり、素材の選別時に初めてマトラッセの生地見本に触れた際、品の良さを感じると同時に、どこかスポーティーな印象を持ちました。シプリではこのようなテクスチャーの素材を採用した経験はなかったものの、「シプリの新たな一面」を引き出せるきっかけになることに期待がふくらみ、生地の製作に臨みました。
マトラッセはふくれた生地にする為に化学繊維を使用します。そのため糸の素材はポリエステルとコットンの混紡糸。ブランドコンセプトでもある「素材にこだわったものづくり」を実現するために、ポリエステルは環境に配慮したエコペットと呼ばれるリサイクルポリエステルを採用しました。
ダイヤ柄を選んだ理由は、アルバース夫妻が描いたスクエアのペインティングのように、幾何的なモチーフながら柔らかさと温かみのある趣を表現したかった為。出来上がった生地は空気を含み、イメージしていたシプリらしい優しい表情が垣間見えます。
このマトラッセの生地で仕立てたのは、ニュアンスのある淡いグレージュ・カーキのジレワンピースとブルゾン。長く愛用できるように、素材を活かしゆとりを持ったプレーンなシルエットにデザインしました。纏う人が各々でアレンジしてスタイリングを楽しめるような余白を残しています。秋から冬、そして春先まで。合わせるインナーを変えながら、日常に寄り添う一着になっていただければ幸いです。
絹織物の生産地として歴史の長い山形県米沢市で、ジャカード織機を用いて製作したマトラッセの生地。素材は、エコペットと呼ばれるリサイクルポリエステルとコットンの混紡糸を使用。ふっくらとしたダイヤ柄をポイントに、軽さと上品な光沢感を備えた生地に仕上げました。アイテムはブルゾンとジレワンピースの2型をご用意いたしました。
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Matelasse / フーデッドブルゾン
スポーティーな印象のフーデッドブルゾン。Aラインでゆったりとしたシルエットのため、インナーに肉厚な素材を重ね着しても、もたつかずにお召しいただけます。
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Matelasse / ジレワンピース
ワンピースとしても、羽織りとしても2wayでスタイリングをお楽しみいただけるジレワンピース。しなやかですっきりとしたIラインシルエットに仕上げました。