FEATURE

TALK ABOUT TRAD & PREPPY      
完全収録! トークイベント「トラッドとプレッピーのこと」〜後編〜


Jul 1st, 2015

photo_satomi yamauchi
text_yuichiro tsuji

6月7日にニューヨーカー銀座店で開催され、多くのお客様にお越し頂いたトークイベント「トラッドとプレッピーのこと」。当日はゲストスピーカーに服飾評論家の遠山周平さんとデザイナーの尾崎雄飛さん、司会にmurofficeディレクターの中室太輔さんを迎え、ファッションに対する熱いトークが繰り広げられました。そんなイベントの全容を前後編に分けてレポート。

後編は、遠山さん、尾崎さんによるアメリカントラッドの着こなし指南や、来場者からの鋭い質問も飛び出した質疑応答の様子をお送りします。前編はこちら

PROFILE

遠山 周平

遠山 周平
服飾評論家。1951年東京生まれ。日本大学理工学部建築学科出身。取材を第一に、自らの体感を優先した『買って、試して、書く』を信条にする。豊富な知識と経験をもとにした、流行に迎合しないタイムレスなスタイル提案は多くの支持を獲得している。天皇陛下のテーラー、服部晋が主催する私塾キンテーラーリングアカデミーで4年間服づくりの修行を積んだ。著書に『背広のプライド』(亀鑑書房)『洒脱自在』(中央公論新社)などがある。ICON OF TRAD 連載中。

尾崎 雄飛

尾崎 雄飛
2001年セレクトショップのバイヤーを経て、2007年〈FilMelange〉を立ち上げる。2011年からフリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。2012年自身のブランド〈SUN/kakke〉、2015年〈YOUNG & OLSEN The DRYGOODS STORE〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。尾崎雄飛の珈琲天国 連載中。

中室 太輔

中室 太輔
2000年 株式会社ベイクルーズ入社。<EDIFICE>ショップ販売員を経て、2003年より同ブランドのカジュアルプレスを担当。2007年退社後、フリープレスを経て2008年7月より『muroffice Promotion Planning』代表兼プランニングディレクターを務める。

色柄に遊びを取り入れた尾崎流アメリカントラッド。

中室: これまでアメリカントラッドに関する歴史や、それに繋がる話題を中心にお話を聞いてきましたが、これからは実際の着こなしについて語っていただこうと思います。おふたりには事前にトラッドをテーマにコーディネートを組んでいただいていますが、尾崎さんのコーディネートからご解説いただけますか?

尾崎: 僕はブレザーをメインに組みました。白シャツをインナーに、細かい千鳥格子が入ったトラウザーを合わせています。これから夏になるということも考えて、ブレザーを羽織っていても涼しげに見えるような着こなしを意識しました。

中室: と、いいますと?

尾崎: コテコテなトラッドの着こなしだと、タイはカレッジっぽいテイストのレジメンタルタイを取り入れると思うんですが、日本の高温多湿な気候のことを考えると少し清涼感のあるレジメンタルタイのほうが栄えるし、お洒落だと思ったんです。それに加えてさり気なく華やかさも演出したかったので、ポケットチーフをマドラス柄にしています。仕上げは黒いタッセルローファーで引き締めて、ちょっとだけケネディっぽく(笑)。

中室: 正統派トラッドを少しハズして、気候などを考慮した色彩にしているわけですね。いわゆる基本的なアメトラの着こなしからすると、こういった“ハズし”というのはルール的にアリなんでしょうか?

遠山: ブレザーを使ったアメトラの着こなしというのは制服から端を発していると思うんです。毎日のように制服を着ていると次第にその着こなし方を把握してくる。そうしたら次は、そこから一度離れてみようと思うじゃないですか。

中室: なるほど。確かにそうですね。

遠山: 日本の伝統芸能で使われている用語に「守破離」(しゅはり)という言葉があって、これは人が芸を身につけるための過程を表しているんです。「守」というのは基本を守るということ。それを続けて基本が身に付いてきたら、次は自分らしさを研究したり感性を磨く。これが既存の型を破るという意味で「破」に当たる。そして最終的に自分らしい型を作るため、基本から卒業して離れていく。これが「離」です。

中室: そんな言葉があるんですね。

遠山: この言葉をトラッドに置き換えると、白いシャツにレジメンタルのタイを締めてグレーのスラックスを穿く。その上からネイビーのブレザーを羽織って、ポケットには白いチーフを差す。つまり正統な着こなしを身につけるという意味で「守」ということになります。尾崎さんが日本の気候を考慮して清涼感のあるレジメンタルタイを締めたり、華やかさを出すためにマドラスチェックのチーフを差したのは「破」に該当しますよね。このコーディネートはアメトラのベースを捉えながら、尾崎さんらしい柄使いのエッセンスがしっかりと加えられていて、センスが伝わってきます。これが「離」となると、トラッドをも離れた達人の領域で、ぼくはそこまで到達できていません。

中室: 着こなしのルールを守ったうえで尾崎流トラッドスタイルがしっかりと表現されているということですね。

尾崎: サイズ感やタイの結び方、ジャケットの袖からシャツが何センチ見えているかなどといった最低限のルールさえ守っていれば、アイテムの色柄の選択は自由だと思うんです。あとは自分らしさを加えられたらOKなんじゃないかと。

中室: ルールを踏襲したうえで自分らしさを加えるというのは、簡単なように思えて実は難しいことですよね。

尾崎: オズワルド・ボーテングっていう黒人のデザイナーがいるんですが、彼が緑色のジャケットに黄色いシャツを合わせて、オレンジ色のタイを締めていたことがあって。黒人なのでヴィヴィッドカラーがよく似合うんですよ。要するに、シャツの色やタイの色って、個人の容姿や体型によって似合う色が変わってくる。その色を把握することが大事なんじゃないかと。あとはサイズ感もすごく重要なファクターで、サイズに関してはどこの国の人も気にしていましたね。

遠山流“シック”な着こなし。

中室: では、続いて遠山さんのコーディネートのご解説をお願いできますか?

遠山: 僕が普段カジュアルな格好をするときは、大抵このコーディネートのように白かブルーのシャツを着てボトムはチノパンを穿いていて。ある種先程話した制服的な感覚の着こなしをしたうえで、僕の場合はシックな要素を入れたいなと思っています。

中室: 尾崎さんが色柄で遊んでいたのに対して、遠山さんは“シック”な要素を入れているんですね。

遠山: そうです。それで、「シック」という言葉の本質をみなさんお分かりになりますか? エレガントとは違うし、ノーブルでもない。「シックって一体なんだろう?」って考えたことがあって。調べると、フランス語に由来しているそうなんです。それで、あるときフランス人デザイナーのエディ・スリマンさんが来日したときに会う機会があったので、思い切って聞いてみたんですよ。「シックってなに?」って。

中室: あのエディ・スリマンですか!? すごいですね。

遠山: 彼がまだ若い頃ですけどね(笑)。僕が質問したあと、彼はしばらく悩んでいました。僕はメモを取りたかったので、彼が悩んでいるあいだに鞄から筆記用具を取り出してペンケースを開こうとしたんです。当時僕は金属でできたアンティークの眼鏡ケースを流用していて、中に毛皮のような布を自分で貼付けていた。それを開いてペンを取り出したら、「それがシックだよ!」と言うんです。

彼によると「一見するとボロボロのペンケースなんだけど、中にはゴージャスな毛皮が貼ってある。その意外性がシックなんだ」ということだったんです。僕にはそれが目から鱗で、それ以来「シック」を心掛けるようにしているんです。今日の僕自身の着こなしでいうと胸のポケットがそれに当たります。

中室: 胸のポケットにビーズが付いていらっしゃいますよね

遠山: そうなんです。普通こんなところにインディアンビーズなんて飾らないですよね。でも、スタンダードなアイテムに常識外のデザインを取り入れているところに自分の感覚と合うものを感じていて。

中室: エディ・スリマンさんがおっしゃっていたシックを体現されていますね。

遠山: 冒頭から少し話がずれてしまったんですが、僕が組んだコーディネートに話を戻すと、いま話したシックな要素をネクタイで表現しています。

中室: 一見すると黒い無地のニットタイですが、小剣がボーダーになっていますね。

遠山: 白いオックスフォードのB.D.シャツにチノパンを合わせて、シューズはスニーカーというベーシックな着こなしなんですが、ネクタイはシックという。あと、コートやジャケットの代わりに柄入りの大判なタオルを羽織ったりするのも良いかなと。これは僕の「こういう生活がしたいな」というちょっとした憧れも入っています(笑)。

中室: ライフスタイルが垣間見えるスタイルというのは素敵ですもんね。

イケていない着こなし例。

中室: それでは3つめのコーディネートのご解説をいただきたいのですが、これはおふたりで組まれたんですか?

尾崎: そうですね。僕と遠山さんで考えた、あまりイケていない着こなしです(笑)。トラッドスタイルではあるんですが、ちょっとやり過ぎ感がある。

中室: 具体的にはどのあたりが?

遠山: 例を挙げるといっぱいあるんですが…。分かりやすいところだと、マドラスチェックのB.D.シャツにシアサッカーのトラウザーを合わせているところ。どちらも夏の代表的なアイテムですが、両方とも柄があしらわれている。柄と柄の組み合わせがマズいのではなく、マドラスチェックとシアサッカーのコンビがいただけないなと

中室: 素材感が重要ということですね。

尾崎: もしかしたらこの組み合わせが似合う人がいるかもしれないけど、無難に言えばこれは真似しないほうがいい着こなしですね。マドラスチェック、シアサッカー、ホワイトバックスは典型的なアメトラのアイテムですが、僕たちの考えからするとこれを全部一緒くたに合わせてしまうのはナンセンスだなと。シアサッカーのパンツにホワイトバックスは合わせてもいいけど、トップスには他の選択肢がありますよね。白いB.D.シャツやポロシャツの方が相性が良いと思います。

中室: このコーディネートはシャツの中にポロシャツを着ていますよね? この組み合わせはどうなんでしょうか。

遠山: この着こなしにしたのには、2つの理由があります。ひとつは着こなしの間違いを示すため。もうひとつは、80年代のトラッドブームのときにポロシャツの上にB.D.シャツを着るというのが流行ったことがあって。いまはほとんど見かけなくなったので、こういう着こなしもありますよ、というのを紹介したかったからなんです。

中室: ポロシャツとB.D.シャツを合わせること自体はOKなんですね。間違いというのはどこにあるんですか?

遠山: もともとこのスタイルが流行ったのは、ポロシャツというのはTシャツに襟がついたアイテムだから、インナーにTシャツを着るよりもポロシャツにした方が上品さが強調されるという発想からなんです。でも、このコーディネートで使っているポロシャツは台襟がついていて襟が高くなっている。そういったポロシャツの上からB.D.シャツを着ると、台襟に台襟を合わせることになって首元がうるさくなってしまう。それが良くない。こういった着こなしをする場合、台襟のないポロシャツを選ぶのがマストです。

尾崎: それとサイズ感にも気を付けて欲しいです。オーバーサイズでゆるく着こなしてしまうと本質と離れてしまいますから。遠山さんが話してくれたように、もともとはノーブルな感覚を強調するためにやっている組み合わせなので、ジャストサイズで着ないと意味がない。でも、正しく着こなせればとても素敵になると思います。それこそ意外性があってシックなんじゃないかと。僕自身もたまにこのスタイルをすることがありますし。

アメリカントラッドの魅力。

中室: おふたりにうかがいたいんですが、アメトラの魅力ってどんなところにあると思いますか?

尾崎: いままでの話と重複するんですが、アメトラというフォーマットがあって、そこに塗り絵をするように色や柄のついたアイテムを合わせて楽しめるところ。そしてごく僅かな違いでも見え方に大きな変化が現れるというのが几帳面な日本人の感性に合っていると思うんです。僕が魅了されている理由はそこにあります。要するに、アメトラは細かなこだわりが表現しやすいということ。そこが魅力ですね。

中室: 個性が演出しやすいですもんね。続いて遠山さんお願いします。

遠山: 「トラディショナル」って日本語に訳すと「伝統」と出てくるじゃないですか。でも、それに違和感をずっと感じていて。自分でどんな言葉が当てはまるか考えたら、「温故知新」という四字熟語を思いついたんです。古きを温めて新しきを知る。他にも考えたけど、やっぱりこれに尽きますよね。自分が行き詰まったときに昔のことを少し振り返ってみたら、そこに新しくて新鮮なものがあるかもれない。それに気づかせてくれるのがトラディショナルなんじゃないかなと思います。

中室: 温故知新。素敵ですね。

遠山: で、本題のアメリカントラッドの良さというのは普遍性にあると思うんです。

中室: 普遍性というのは?

遠山: 僕は海外に旅行へいったとき、その国の大学に行くのが好きなんですよ。それで、イギリスやアメリカの大学はその国の有名な建築家がデザインを手掛けていることが多く、建物に国柄が出ていて面白いんです。特に興味深かったのが学生食堂。

イギリスの場合、教授のスペースと生徒のスペースのあいだに段差があって前者のほうが高くなっているんです。つまり階層社会の文化がそこに表れていて、教授をリスペクトする気持ちを食事中でも大切にしている。一方でアメリカは教授も生徒もフラットに同じ目線で食事をしている。アメリカの場合、常に自由を重んじていることが見て取れます。僕はそこにアメトラの普遍性と通じるものを感じるんです。誰でも楽しめるとでもいいますか、それがアメリカントラッドの魅力だと思いますね。

アメリカントラッドの入門として揃えるべきアイテムとは?

中室: さて、今回トークショーということでお客さまにお集りいただき、せっかくなのでここで質疑応答に入りたいと思います。おふたりに質問がある方いらっしゃいますか?

お客さま A: 今回おふたりのお話を聞いてアメリカントラッドに対する興味が一段と深まり、自分もこのスタイルを体現したいと思ったのですが、トラッドへの入門としていちばん最初に買うべきアイテムはどんな洋服なのでしょうか?

尾崎: いろいろと迷うところですが、いちばんは自分の体にフィットするネイビーのブレザーですかね。それも仕立てがそれなりにきちんとしているもの。僕も普段からお店で探していますし、たまに仕立て屋さんでオーダーすることもあるので。個人的に好きだから、というのが一番の理由なんですが、インナーに幅広いものを合わせやすいですし、やっぱりブレザーがおすすめです。

中室: 遠山さんはいかがですか?

遠山: 僕も迷ったんですが、おすすめはカーキパンツです。つまり、チノパンですね。実は今日、僕と中室さんの格好が似ているんですが、よく見るとボトムに違いがあるの分かりますか? 中室さんが穿いていらっしゃるのは「45-カーキ」ですよね。アメリカ陸軍が1945年に作ったヴィンテージのチノパンで、丈を中室さんらしい長さにロールアップして上手に穿きこなしている。

中室: 褒めていただいてありがとうございます(笑)。素直に嬉しいです。

遠山: 一方、僕が穿いているのはオーダーメイドで作ったタイトフィットのトラウザーで、丈のバランスなどをミリ単位で調整してこだわって作ったもの。どうしておすすめにボトムを選んだかというと、昨今のファッションシーンを見ているとボトムの重要性というのが非常に高まっている気がしているからで、ただそれだけなんです。

たったいま尾崎さんがおっしゃったように、自分の体型に合ったベーシックなアイテムを見つけるという点では僕も同意見です。それが尾崎さんはブレザーで、僕の場合はカーキだっただけで、本当はB.D.シャツでも何でもいいと思うんですよ。ただ、素材やサイズにこだわるという点は忘れないでください。

尾崎さん、遠山さんにとってのファッション・ヒーロー。

中室: 他にいらっしゃいますか?

お客さま B: ファッションの造詣を深めたいときに、昔の映画などに出ている俳優さんの着こなしやその人のもつスタイルや雰囲気を参考にすることがあると思うんですが、おふたりにとって、そういったアイコンとなった人物がいれば教えて欲しいです。

尾崎: 僕はアメリカントラッドに惹かれてトラッドの扉を開いたわけですが、そのルーツでもあるイギリスにも強い憧れがあったんです。それはどうしてかというと父親に「007」の映画をたくさん見せられて育ったから。中でも特に強い憧れをもったのが、ショーン・コネリーが出ていた60年代の作品です。その当時のブリティッシュトラッドを華麗に着こなしている姿かすごく格好良かった。

中室: もう文句のつけどころがないと。

尾崎: そうなんですよ。映画ってシーンによっていろいろシチュエーションが変わると思うんですが、そのたびに衣装が変わっていて。ショーン・コネリー自身の所作が格好良いものだから、必然的に洋服も活きて見えるんです。なので、ファッション的にいちばん好きなのは「007」のショーン・コネリーですね。

中室: 素敵ですよね。映画って色んな洋服を使っているから、ファッション的な視点で見ると違った面白さを味わえますよね。

遠山: 僕も映画からファッションの影響をすごく受けていて。映画の話をしだすと止まらなくなっちゃうんですけど(笑)。僕のヒーローはスティーブ・マックイーンなんです。彼はいつの時代も普通の格好をしているんだけど、不思議なことに古さを感じないし洗練されて見えるんですよ。革ジャンにホワイトジーンズを合わせてサングラスをかけたり、カットオフしたスウェットシャツにタイトなボトムを合わせたりしていて。どんな格好をしてもクールなんですよね。

尾崎: 「華麗なる賭け」という映画の中でスーツを着ていますが、それはアメトラの着こなしなので、ぜひ皆さんに観て欲しいです。音楽も格好良いので。

アメリカントラッドの足元事情。アメリカの靴をあわせるべきか?

お客さま C: アメリカントラッドの着こなしをした際に合わせる靴についてうかがいたいです。「アメリカン」というところにこだわってアメリカブランドのシューズを履くべきなのか、それともイギリスやフランスの靴を履いても良いのでしょうか? 合わせる靴のセオリーのようなものがあれば教えてください。

中室: とても興味深い質問ですね。僕も聞きたいです。尾崎さんいかがですか?

尾崎: 基本的には「なんでもアリ」というのが僕の答えです。アメリカ人はイギリスへの憧れを持っていたりするので、イギリスの靴は合わせやすいんじゃないかと思います。トッド・スナイダーという知り合いのデザイナーがいて、彼はアメリカントラッドの愛好家なんですが、いつも〈トリッカーズ〉を履いていますし。中室さんが今日履いているように〈J.M.ウェストン〉なんかも良いですよね。僕自身も紺のブレザーを着るときはよく履いています。

中室: 遠山さんはいかがですか?

遠山: アイビーが日本に入ってきた頃に刊行された海外のファッションに関する書籍を翻訳していたことがあったんですが、そこには「~しなければならない」という教訓めいた言葉がたくさん載っていたんです。「B.D.シャツの後ろのプリーツはボックスでなければならない」とか、お仕着せのように強制的にファッションの教育をしていた時期がむかしあったようで。そういった教育をしていた人たちのことを僕はアイビー原理主義者と呼んでいるんですけど、彼らの足元はアメリカの靴に限られていたようですね。

中室: そんな人たちがいたんですね。驚きです。

遠山: でも前に話したように、トラッドというのは色んな国で根っこが繋がっているから、僕も尾崎さんと同じように「なんでもアリ」だと思います。アメリカ、フランス、イギリス、色んな国の靴を僕自身履いていますから。さっき大学にお国柄が出ていると話しましたが、靴にもそれが出ていて面白いんですよ。アメリカはイメージ通り武骨なものが多いし、フランスは節制する人種なのでソールが固くてなかなか減らない。イギリスの靴を買うならオーダーメイドがおすすめです。〈トリッカーズ〉は僕は履いたことがないんですが、アメリカと相通ずるものがあるのかちょっと武骨なイメージですよね。

尾崎: どこかのブランドが別注した〈トリッカーズ〉は、ライニングが外してあって細いんですよ。ただ残念なことに生産が終わったって聞きました…。