UNSUNG NEW YORKERS

Vol.21 こんなことができて、人々が喜んでくれる場所


Mar 28th, 2017

Text and photos_Yumiko Sakuma

This is a place where something like this can go down and people get excited about it.
こんなことができて、人々が喜んでくれる場所

2000年代にはいくつもあった、ブルックリンのDIYスペースが、グリーンポイントやウィリアムズバーグから少しずつ姿を消すようになってずいぶん久しいけれど、今でもごくごくたまに、「新しいスペースが開いた!」と心躍るチャンスがある。リッチ・アウンが開いた<マジック・シティ>は、久しぶりにグリーンポイントに訪れた朗報だった。

そもそも病気の友人の娘を助けるために発酵食を研究した母親の影響で、学生時代からコンブチャ(紅茶キノコ)をつくるようになったという。

「長くないと言われたその友達は、今も元気に生きている。免疫を高める、消化を促進するなどの効用があるんだ」

大人になってからもコンブチャづくりを「趣味」として続けていたが、今の食ブームの先駆け「グリーンポイント・フード・マーケット」にブースを出したことがきっかけで、人気のショッピングサイトに紹介され、<モンブチャ>というブランドを立ち上げた。

<モンブチャ>、ブルックリンを中心にヘルスフードショップなどにも卸している。

何年もコンブチャの生産を自宅でやってきたけれど、温度や湿度を緻密に制御する必要があるうえ、生産量が増えた。それで見つけたのが現在の<マジック・シティ>の物件だ。スペースの半分を「コミューナル・キッチン(共同台所)」として数人の食メーカーとシェアし、半分をイベントスペースとして使っている。

「初めて訪れたときは衝撃的に汚かった。それを少しずつ改良して使えるようにしてきた。友人で建築家のナンシー・キムにスタンド、収納としても機能するスペースをデザインしてもらった」

建築家のナンシー・キムがデザインしたモジュール式のコーヒー・スタンド。裏から見るとこんな感じ。

最近、コーヒーショップとしても営業するようになった。リッチがいないと開店しないから、平日の昼間に通りかかっても開いていないこともある。昔はそこここに存在していたけれど、最近少なくなったいい意味でのいい加減さが、今だからなんだか愛おしく思える。コーヒーを買いに出かけて店が開いていなかった、また出直すか、というペースで生きられたらいいなと思うから。

寄付を募るためのイベントが行われた翌日、こんなポスターがまだ残っていた。

<マジック・シティ>で行われるイベントは、音楽、アート関係から、ディナー・パーティ、ポップアップショップ、トレード・ショーまで様々。大統領選挙のときには討論会を見る夜もあったし、最近ではトランプ時代になってから助成金を削減された女性団体に寄付を募るためのミュージック・ショーもあった。

「ニューヨークは、こんなことができて、人々が喜んでくれる場所。他の都市でもやりたいと思う一方で、他の都市では不可能だと思う自分もいる」


Navigator
佐久間 裕美子

ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。

Vol.01 魂に触ることができたらどんな感じがするだろう?

ニューヨークはプレシャスでかけがえのない都市


FEATURED ARTICLES

Mar 2nd, 2017

ICON OF TRAD

Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。

サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...

Mar 9th, 2017

HOW TO

ジップアップ パーカ Vol.01

氷雪地帯で生活をしていたアラスカ先住民のイヌイット民族が、アザラシやトナカイなど、動物の皮革でフード付きの上着(アノラッ...

Oct 20th, 2016

HOW TO

ストライプ スーツ Vol.02

Vol.01のディテール解説に続き、Vol.02ではストライプスーツを着こなすスタイリングを提案。Vゾーンのアレンジで印象はぐっと変え...

Mar 2nd, 2016

ICON OF TRAD

Vol.39 女性がほんらい男物だったトレンチコートを着るとき

そもそも男性服であったトレンチコートは、どのようにして女性たちの間に浸透していったのだろうか?

Aug 25th, 2016

HOW TO

ネイビーブレザー Vol.01

アメリカントラディショナルファッションの代名詞ともいうべきネイビーブレザーは、日本では《紺ブレ》の愛称で親しまれている。...

Jan 12th, 2017

HOW TO

トレンチコート Vol.01

トレンチコートが生まれたのは第一次世界大戦下でのこと。イギリス軍が西部戦線での長い塹壕(=トレンチ)に耐えるために、悪天...


YOU MAY ALSO LIKE

Mar 14th, 2017

NEWYORK LIVES

川村真司「出る杭が謳われる都市ニューヨーク」

最初にニューヨークに移ろうと決めたのは、猫に引っ掻かれたから。アムステルダムの運河沿いの家で、いつも窓から入ってくる野良...

Feb 28th, 2017

UNSUNG NEW YORKERS

Vol.20 ニューヨークはプレシャスでかけがえのない都市

 ラーキン・グリムは、もう何年も前に、アーティストの集団を通じて知り合ったシンガー・ソングライターだ。 ごくたまにライブ...

Feb 21st, 2017

NEWYORK LIVES

重松象平 「Newがつく都市」

「New」ということばを故郷の街にくっつけて世界のどこかに全く新しい街をつくるというのはいったいどんな感覚なんだろう。それは...

Jan 31st, 2017

UNSUNG NEW YORKERS

Vol.19 ここが好きなのは、人々がコトをやり遂げるから

ジェイミー・ウォンのことは、ブルックリンで行われていたヴィンテージのトレードショーで知った。今ではすっかり友達になったけ...

Jan 17th, 2017

NEWYORK LIVES

SADA ITO「自分を傷つけ、癒し、受け止めてくれたニューヨーク。」(1999.10-2001.02)

 1999年10月、20歳の自分はニューヨークへ渡りました。目的は語学留学。海外に住んでみたい(すでに東京でメイクアップの専門学...

Dec 27th, 2016

UNSUNG NEW YORKERS

Vol.18 他の場所には存在しないこの街のエネルギーとエキサイトメントに魅了される。

何年か前にイベントの仕事で知り合ったジェニーは、ベトナム系のオーストラリア人だ。いきなり仕事でお金の交渉をする立場になっ...