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UNSUNG NEW YORKERS
This is a place where something like this can go down and people get excited about it.
こんなことができて、人々が喜んでくれる場所
2000年代にはいくつもあった、ブルックリンのDIYスペースが、グリーンポイントやウィリアムズバーグから少しずつ姿を消すようになってずいぶん久しいけれど、今でもごくごくたまに、「新しいスペースが開いた!」と心躍るチャンスがある。リッチ・アウンが開いた<マジック・シティ>は、久しぶりにグリーンポイントに訪れた朗報だった。
そもそも病気の友人の娘を助けるために発酵食を研究した母親の影響で、学生時代からコンブチャ(紅茶キノコ)をつくるようになったという。
「長くないと言われたその友達は、今も元気に生きている。免疫を高める、消化を促進するなどの効用があるんだ」
大人になってからもコンブチャづくりを「趣味」として続けていたが、今の食ブームの先駆け「グリーンポイント・フード・マーケット」にブースを出したことがきっかけで、人気のショッピングサイトに紹介され、<モンブチャ>というブランドを立ち上げた。
何年もコンブチャの生産を自宅でやってきたけれど、温度や湿度を緻密に制御する必要があるうえ、生産量が増えた。それで見つけたのが現在の<マジック・シティ>の物件だ。スペースの半分を「コミューナル・キッチン(共同台所)」として数人の食メーカーとシェアし、半分をイベントスペースとして使っている。
「初めて訪れたときは衝撃的に汚かった。それを少しずつ改良して使えるようにしてきた。友人で建築家のナンシー・キムにスタンド、収納としても機能するスペースをデザインしてもらった」
最近、コーヒーショップとしても営業するようになった。リッチがいないと開店しないから、平日の昼間に通りかかっても開いていないこともある。昔はそこここに存在していたけれど、最近少なくなったいい意味でのいい加減さが、今だからなんだか愛おしく思える。コーヒーを買いに出かけて店が開いていなかった、また出直すか、というペースで生きられたらいいなと思うから。
<マジック・シティ>で行われるイベントは、音楽、アート関係から、ディナー・パーティ、ポップアップショップ、トレード・ショーまで様々。大統領選挙のときには討論会を見る夜もあったし、最近ではトランプ時代になってから助成金を削減された女性団体に寄付を募るためのミュージック・ショーもあった。
「ニューヨークは、こんなことができて、人々が喜んでくれる場所。他の都市でもやりたいと思う一方で、他の都市では不可能だと思う自分もいる」
Navigator
佐久間 裕美子
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
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