ELECTION AND STYLE
第三回 ポップカルチャーと大統領選。
ファッションと政治、音楽と政治、笑いと政治…、アメリカ大統領選を知れば知るほど、アメリカと日本のカルチャーと政治の距離の違いを思い知らされます。佐久間さんと速水さんの対談最終回。最後に速水さんから佐久間さんへのお願いもあったりして、ふたりの対話はまだまだどこかで続きそうです。
ベースボールキャップと政治。
速水
ちょっと気になっていることがあるんだけど、トランプってベースボールキャップ被っていることが多いよね。共和党支持者ってベースボールキャップ率高くない?
佐久間
高いですね(笑)。
速水
なんで?
佐久間
正しいかはわかりませんが、田舎に行けば行くほど、おじちゃんはみんな帽子を被っているんですよ。そして、そこに何かのスローガンがよく入っている。「釣りのために生きています」とか。
速水
あるある(笑)。
佐久間
Tシャツに主義主張を書いているのと同じ。車で田舎をずっと走っていると、停まる所はガソリンスタンドしかないんだけど、そこに必ず売っているんですよ。
速水
あれってガソリンスタンドで買うんだ(笑)。
佐久間
そう。Tシャツとか、バンパーステッカーとか。あとトラッカーハットとか。
速水
『オーバー・ザ・トップ』でスタローンがかぶっていたやつね。
佐久間
そうそう。それをミシガン出身の子たちとかがニューヨークで被るようになって、ファッションアイテムになったんですよ。
速水
一周してファッションアイテムに(笑)。それ、面白いね。
佐久間
だから、共和党で被っている人もいるけど、ヒップスターでもファッションアイテムとして被っている人もいる。この間、「Strand Book Store」(※1)に行ったら、トランプのスローガン「Make America great Again」に引っかけて、「Make America read Again」って書いている帽子を見つけて、本屋を応援する意味も込めて買って被っていたら、3時間ぐらいで10人ぐらいのヒップスターに「YES!」って話しかけられたりした(笑)。
速水
(笑)。着るメディアなんだね。
佐久間
そう。一種の主張みたいな感じで。アメリカではいろんな場面で見られるんですよ。車を運転していても、前の車に「うちの息子は米軍です」って掲げていたり。日本ではどこの政党を支持していますとかって公言するのもどうかって感じですよね?
速水
なるべく隠すよね。
佐久間
でも、アメリカ人は言っていきたい。トランプ支持のステッカーを貼っていたら文句を言われたりするんだけど、「それもよし!言っていこう!」みたいなところがある。
速水
それはきっと「釣りのために生きています」の延長線だよね。
佐久間
変わらないですよ。きっと。
※1)「Strand Book Store」
1927年創業のニューヨークを代表する老舗ブックストア。ストアロゴのトートバックは人気アイテム。
「ずっと好きだったのに」byベット・ミドラー
速水
僕、小説家のスティーヴン・ハンター(※2)がすごく好きなんですが、彼の小説の中に出てくる人気の主人公にボブ・リー・スワガーというキャラクターがいます。彼は南部アーカンソーの山の中で犬と暮らしていて、獣と馬を愛しているベトナム帰りのスナイパー。愛国心と郷土愛に溢れていて、家族と自分の身は自分で守るのが信条な保守主義者です。アメリカ的なリバタリアン。こういう保守主義者のヒーローって日本だとあまり理解されない気がする。クリント・イーストウッドなんかも典型だけど。でも日本だとその枠ってない気がするんですよ。彼は、トランプ支持を打ち出しているし。政治思想を含めて、ライフスタイルを表に出すこと、生き方をすべてフラットに表に出すみたいなことって、素直にかっこよく見える。でもいざ自分はできるかというと難しい。
佐久間
国民性なんでしょうね。クリント・イーストウッドが共和党支持で、ある選挙で共和党大会の時にオバマを馬鹿にした芝居をしたりして。
速水
無人の椅子にオバマがいるように振舞って会話するやつ、あれは面白かった。
佐久間
ただやっぱり共和党は人種差別意識があるというのがリベラル層の批判じゃないですか。
速水
今回は完全に。そんなのは綺麗ごとであって、俺の時代にはあのくらいじゃ人種差別なんて誰も言わなかったって擁護してた。
佐久間
そうです。そして、この間、クリント・イーストウッドに対して、トランプのある発言は人種差別か?を誰かが聞きに行ったら、イーストウッドは「もうそんなことはもうどうでもいい」って言っていて、それに対してベット・ミドラーが「ずっと好きだったのに」みたいなツイートをしたりとか(笑)。
速水
セレブ達が政治的な立場を表明しながら論戦を繰り広げる(笑)。
佐久間
みんな、もう言いたくて、言いたくて(笑)。
速水
態度表明するエンターテイメントだね。だけど、敵か味方かというのが政治の一番の本質なのに、日本人は敵でも味方でもないですよって本質を隠しながら言うのが当たり前のコミュニケーション。日本人をひとことで表すと、表でニコニコして裏で横領するような人種だよね(笑)。戦時中だって、上の人から下の人まで、アメリカに勝てるとは思ってなかったけど、「勝てるんだ!」って言いながら負けたときのことしか考えてなかった。ちなみに、これは悪いとかではなくて、日本人のコミュニケーションの在り方だと思う。処世術。自分の利益を前面に出さない方が功利的にうまくいくことが多い社会だから。
逆にアメリカがそうではないのは、フェアネスの問題というよりも、自分の利益を前面に出さないと、取りっぱぐれる社会だからだと思う。敵か味方かをハッキリさせることを最初にやる。だから、ベット・ミドラーが出てきて、イーストウッドに対して「ずっと好きだったのに」とか言うのが成立するのって、すごくうらやましいんだけど、日本で似たようなことをやると、石田純一が出てきて、政治的なことを表明したら、すげえタブーを踏んだってことになって……。
佐久間
確かに。
速水
ろくなことにならないからね。
佐久間
ならない、ならない(笑)。
(※2)スティーヴン・ハンター
1946年ミズーリ州生まれ。小説家、エッセイスト。2003年、ピューリツァー賞批評部門受賞。
ユーモアと政治。
速水
今回、蓮舫が民進党の岡田代表について「まじめでつまらない男」みたいことを言って、面白いじゃん、それ。だけど、その後、やっぱり撤回しなきゃいけないわけ。
佐久間
日本だと責められる。
速水
岡田さんは「まあ、いいよ」って感じで許したんだけど、やっぱり謝ったりするんだよね。それ、ジョークで言ったんだから、台無しじゃん。冗談って撤回すると「本当に思っていたんです、すいません」に等しいことになっちゃって……。
佐久間
日本の政治を見ていると、もうちょっとユーモアがあってもいいと思う。アメリカだと、ジェイ・レノ(※4)、ジョン・オリバー(※5)とかのコメディアンによる政治を扱う番組がいっぱいある。それはテレビのカテゴリーで言うと政治番組ではなくて、コメディ番組なんですよ。
速水
笑わせる対象として、政治家がいるんですね。
佐久間
そう。コメディアンと一緒に政治家も出てきて、一緒に笑うし、一緒にこけにするし、みたいな。それがエンターテイメントのマーケットの中でも大きい存在で、プライムタイムにみんなでそれを見るカルチャーがあるんですよ。そして、必ずしも見ながら笑っているだけじゃなくて、笑いながらすごく真剣な話をしたりとかして。笑いと政治みたいなのを行ったり来たりする感じが、すごくアメリカっぽい。日本でももうちょっとその感覚があればなあって思う。
速水
政治家はやっぱり権力者っていう以前に、偉そうに振る舞うし、周りにはそれを持ち上げようとする人ばかりなわけで、本当はツッコミを入れてあげないといけない。今の小池百合子さんとか、「どや!」が服を着て歩いているくらいの勢いだから、誰か突っ込んであげた方がいいと思う。でも、今メディアがそれをやったら、突っ込まれるのはメディアでしょうね。今って、政治権力、国民、メディアとあったら、一番人気がないのがメディアになっている。メディアが政治家を叩くと「メディア、お前、叩く権利ないでしょ」って、それぐらい信頼を失っているよね。
今、メディアが政治に対して批判的でいられないのって、別に安倍政権がすごい締めつけをしているからではなくて、それをやっても世間から支持されないから。ネットだけでなく、若い世代なんか特に心底「マスゴミ」が信用できないと思っている人たちの層が厚くなってきている。そこは本当にまずい。アメリカではどう?
佐久間
どうなのかな……。トランプ陣営はマスコミに対して厳しいんですよ。
速水
FOX(※6)の番組で司会やっている女性に対して、ものすごく攻撃してたりしてる。
佐久間
FOXはどちらかといえば、保守よりだけど、容赦がない。あと、自分に対して批判的なことを書いているメディアの記者を入れないとか、ラリーに参加できないみたいなことをしていて。で、「マスコミは嘘ついている」みたいなことをよく言っているし、マスコミを攻撃することで支持を伸ばしている感もある。
マスコミはマスコミで、トランプのやり方には反発せざるをえないし、反トランプ色が強くなってしまう。そもそもアメリカだとメディア自体が左と右でどんどん分かれていっていて、FOXなんかは完全に右傾化しているし、CNNは左に寄っていて、他にも、主張が偏った新興メディアが出てきたりしていて、それが本来のメディアのあるべき姿って思う部分と心配になる部分がありますね。正直。
(※3)スティーヴン・ハンター
1946年ミズーリ州生まれ。小説家、エッセイスト。2003年、ピューリツァー賞批評部門受賞。
(※4)ジェイ・レノ
1950年ニューヨーク州生まれ。コメディアン、テレビ司会者、作家、プロデューサーといくつもの顔を持つ。
(※5)ジョン・オリバー
1977年、イギリス生まれ。コメディアン。風刺番組「ジョン・オリバーのラストウィーク・トゥナイト」が人気。
(※6)FOX
21世紀フォックス傘下にあるアメリカのテレビネットワークのひとつ。三大ネットワーク(「ABC」「CBS」「NBC」)に加え、4大ネットワークと呼ばれることもある。
佐久間裕美子にお願いしたいこと。
佐久間
大統領選がいよいよ最終局面を迎えます。私はこれからアメリカに戻って、大統領選を現場で見届けて、このサイトでレポートしていこうと思っているんですが、速水さんは何が気になります?
速水
僕はやっぱり、単なる政治的な主張合戦ではなく、音楽とかファッションとかアメリカのポップカルチャーも含めての総力戦が面白く映ります。向こうのミュージシャンの多くは、左派寄りが多いと思うんですけど、トランプが、実はニール・ヤングが大好きだったりするのが面白かったり。だから例えば、左側のミュージシャンばかりが話題になるけど、そうじゃないミュージシャンの話とか、党大会では何の音楽で盛り上がっているとか、そういうことを知りたいな。
佐久間
なるほど。
速水
ファッションの話もいろいろあるよね。ニクソン対ケネディの62年の選挙のテレビ討論のときに着ていたスーツの色で勝敗が決まったとよく言われるじゃないですか。
佐久間
はい。
速水
戦いが政治主張だけなく、文化含めての総力戦になるってところが僕の好きな大統領選のお祭り感。だからキャンペーンTシャツみたいなものが生まれたりして。アイゼンハワー(※6)の 「I Like Ike」Tシャツは最初のメッセージTシャツって言われていますよね。みんなで同じTシャツ着て。政治と言っても “Occupy Wall Street”の人たちがどんな音楽をかけているのか、どんな服を着ているのか、そういうことを知りたいな。
佐久間
いいですね。そういうのをウォッチしてきますね。
速水
あと、やっぱり生活と結びついた部分。例えばヒラリーの支持者の典型的な服装ってどんなだとか(笑)。
佐久間
では、それもぜひ(笑)。
(※6)アイゼンハワー
ドワイド・デヴィッド・アイゼンハワー。1890年、テキサス生まれ(1969年没)。第34第アメリカ合衆国大統領。
次回より、佐久間裕美子さんによるニューヨーク大統領選レポート連載がスタートします。そちらも、ぜひ、お楽しみに。