HISTORY OF

第1回「トラッド」とは?


Sep 12th, 2012

Text_NEWYORKER MAGAZINE

トラディショナルの歴史を、時代背景や流行など様々な視点で考察する「HISTORY OF」。 第1回はズバリ「トラッド」について紐解きます。


和製英語「トラッド」。

「アメ・トラ」などと呼ばれ多くの方に知られているアメリカン・トラディショナルスタイル。具体的にどのようなスタイルを指しているのかご存知でしょうか。トラディショナルという言葉は日本では「トラッド」とも言われますが、「トラッド」は和製英語。もともとトラディショナル=伝統的という、流行に左右されない伝統的・保守的なスタイルを「トラディショナル・クロージング」と呼んでいたところから派生しています。

アメリカン・トラディショナルスタイルは、源流をたどると英国に辿りつき、その伝統的・保守的な要素を守りながらも時代とともに変化していったことが見て取れます。

一言で説明するのは難しいアメリカン・トラディショナルスタイル。今回は、アメリカから日本にそのスタイルが受け入れられてきた歴史を交えながら、解説します。

アイビーリーグへの憧れ。

「BLAZER」1970 NEW YORKER INC.

1950年代から60年代にかけて日本では戦後の混乱も収まり、人々の暮らしには余裕も出始めました。また、GHQや海外の映画などを通して欧米へのあこがれが高まっていた時期でもありました。

そのころ、1950年前後からアメリカにおいて注目されていた、東部にある有名私立大学8校が構成する団体「IVY LEAGUE(アイビーリーグ)」に所属する大学の学生たちのスタイル「アイビーリーグルック」が日本でも紹介されます。そのスタイルは有名雑誌などメディアに取り上げられたことにより、欧米に憧れを抱いていた日本の若者に浸透し流行。1964年ころには、アイビーリーグルックの要素を取り入れたスタイルの学生たちが銀座のみゆき通りに集まるようになり、「みゆき族」と呼ばれ社会現象ともなりました。

アイビーリーグルックの特徴的なアイテムは、ナチュラルショルダーの3つボタンジャケット(寸胴型)、ボタンダウンシャツ、チルデンニット、レタードカーディガン、バミューダパンツなど。もともとは学生の生活に根ざしたスタイルでしたが、卒業したOBなどにより、ビジネスシーンにもナチュラルショルダーの3つボタンスーツやレジメンタルタイなど、アイビーリーグルックのエッセンスが浸透していきます。

このころ設立されたニューヨーカーは、日本の若者に「アイビー」として流行していた装いとは一線を画す、大人のための装い、日本のビジネスマンのためのアメリカン・トラディショナルな装いを「Traditional」というブランドで提案。日本で初めてファッションに「トラディショナル」という表現を用いたのがニューヨーカーであったとも言われています。ニューヨーカーという社名も、アイビーリーグの卒業生が多く働くビジネス街ニューヨークへの想いからつけられました。

女性が主役の新しいトラディショナルスタイルとは?

70年代後半になると日本では、ニュートラ(New Traditional)、ハマトラ(横浜Traditional)などと呼ばれる、女性が主役の新しいトラディショナルスタイルが流行します。すでにこのころ雑誌などでは「トラディショナル」を「トラッド」と表記し始めています。アイビーのエッセンスを上手に取り入れた女性たちは、ネイビーブレザーやポロシャツ、スウェットに、巻きスカートやキュロットを合わせたスタイルに身を包みました。

NEWYORKER 1982 Spring&Summer

男性における70年代のスタイルは、アメリカで自然回帰・エコへの関心が高まったこともあり、アウトドアスポーツが流行、ヘビーデューティとよばれるアウトドアアイテムをタウン化し取り入れた装いがうまれました。ダウンジャケットやマウンテンパーカなど、今では定番のアイテムがこのころ登場します。

女性にもトラッドスタイルが受け入れられたことにより、このころニューヨーカーの製品を多くそろえていたショップ「バークレイ」でも、男性のみならず多くの女性の姿が見られるようになります。


流行はプレッピースタイルへ遷移。

1980年代に入ると、プレッピースタイルと呼ばれるアイビーリーグ所属の大学進学を目ざすプレパラトリースクール(予備学校)に通う学生たちのスタイルが流行。60年代に流行したアイビー世代の子息世代にあたり、アイビーリーグルックよりも少しルーズな、上質な服をさりげなく着崩したカラフルなスタイルになります。代表的アイテムはチノパンやスウェット、デニムなど。

NEWYORKER 1990 Spring&Summer

その後プレッピースタイルは日本にも入ってきますが、一方で80年代後半には、渋カジと表現されるような、ポロシャツやデニム、チノパン、コインローファーなどトラッドアイテムをカジュアルに着こなしたスタイルが流行します。1990年代初頭にはトレンディドラマで主演女優が着用していたことがきっかけとなり、「紺ブレ」が流行語大賞になるほどWブレストの紺のブレザーがブームに。きれい目なカジュアルスタイル「キレカジ」が流行し、ブレザーにデニムパンツを合わせたり、ワンピースなどを合わせたりといったコーディネイトが多くなりました。

ニューヨーカーでも、ウィメンズショップで紺ブレが完売し手に入れられなかった方が、メンズショップを訪れ、メンズの小さいサイズを購入するという光景が見られるほどの人気でした。

NEWYORKER 1980 Fall&Winter

トラッドスタイルの今・昔。

アイビーリーグルックが日本で広まった当初、そのスタイルにはコーディネートに関するルールが数多く存在しました。しかし、時を経るとともにそのルールはだんだんと緩やかになり、トラディショナルなエッセンスを取り入れたカジュアルなスタイルへと変化し受け継がれてきました。

以前は、全身を1つのテーマでまとめた装いが多かったのが、現在は好みが多様化し様々なテイストのアイテムをその人なりに組み合わせるコーディネートファッションが多くなっています。その結果、全身の装いとしてのトラッドの流行はあまり見られませんが、ブレザーやチェックアイテムなどトラッド要素のあるアイテムを取り入れた装いの人も多く見られます。より幅の広がったトラッドスタイルが広まり、息づいているといえるでしょう。

トラディショナル=伝統的と言えどルールにとらわれず、トラッドのエッセンスをうまく取り入れた自分らしいコーディネートを楽しむことが、「変わらぬ良さ」というトラッドの最大の魅力を引き立たせてくれます。


第2回「ブレザーについて」

第3回「オックスフォードシャツ」


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