TRADITIONAL STYLE

Vol.30 田中 圭


Feb 10th, 2015

photo_ayumi yamamoto
hair&make_norio kitamura
stylist_takashi yamamoto
text_maho honjo

数々の映画やドラマで、タイプの違う役柄を伸びやかに演じる田中圭さん。そのナチュラルな存在感は強い個性となり、今年デビュー15周年を迎えます。この世界に入ったきっかけから、役者としての心構えと理想、そして少し意外な“脱皮したい自分”まで、言葉をていねいに紡いでいただきました。

人が好き。だから現場にいるのが好きだった

―― この世界に入ったのは、オーディションがきっかけとか?

田中圭 15歳のとき、母親が応募していたんです。当時は「連れて行かれた」という感覚でした。

―― この世界に興味があったわけではないんですね?

田中圭 俳優になりたいとか、テレビに出たいとか、そういう気持ちはなかったですね。そのオーディションも結局は落ちたんですけど、縁があって今の事務所に入り、現場に出るようになって徐々に楽しくなっていったんです。だからもっと長く現場にいられるためにはどうすればいいかと考えて、脇役だとあまりいられないけど、主役なら長くいられる。うん、もっとがんばろうと。最初のモチベーションはそこでした。

―― 現場のどんなところが好きだったんですか?

田中圭 おもしろいものをつくりたい人たちが集まって、同じ目標に向かっている、その雰囲気が大好きで。それぞれに思いをすり合わせつつ、最終的に“いいもの”に向けて、みんなで走る…それがすごく新鮮で楽しかったんです。

―― その空気感の中にいるのが心地よかったんですね。

田中圭 とにかく、僕、人が好きなんですよ。というより、ひとりでいるのがダメで。休みの日とか家にいられなくて、マンガ喫茶に行ってたぐらい。あそこ、だれかしらは人いるじゃないですか(笑)。やってることは家と一緒なのにね。あと、お芝居の先生に恵まれたというのもあります。16歳のときに出会った先生なのですが、「演技って楽しい!」ということを教えてくれた人でした。

ジャケット(3月入荷予定)シャツパンツ(3月入荷予定)タイ/NEWYORKER BY KEITA MARUYAMA
ベルト/NEWYORKER、その他/スタイリスト私物

「役柄とも出会いだよ」そう恩師が教えてくれた

―― 貴重な出会いだったんですね。

田中圭 その先生の人柄がとにかく大好きでした。人好きの僕が、ますます人を好きになったのは先生のおかげ。技術的なことよりも、心構えを語ってくれて。何より「役とも出会いなんだよ」という、芝居の根本を教えてくれたんです。

―― それは偉大な教えです!

田中圭 それが今でも生きてますね。僕、「演じる」という言葉があまり好きではなくて、その役を「生きる」と考えるんですよ。“役と出会って、役を生きる”のが芝居。あー、これ、かっこつけてるわけじゃないですよ。今でこそ僕が「この役を生きてうんぬん」って言っても「ふむふむ」なんて聞いてくれますけど、昔は「このかっこつけが…」って目で見られてましたから(笑)。

―― でも昔も今も、その考え方がしっくり来るんですね?

田中圭 しっくりくるというより、理想ですね。「演じるんじゃなくて、生きる」。これはいつも課題です。

―― 「演じる」と「生きる」の違いを聞いてみたいです。

田中圭 演じているときは自分で演じていることを理解しているけど、それを忘れて自分がどこかにいなくなるときがあるんですよ。それが「生きる」。ちょっと言葉は悪いかもしれないですけど、たとえるならば、この演技という世界はお金をかけて質の高いおままごとをしているようなもの。ならば、それをどれだけリアルに見せられるかが僕らの仕事。となると、役を「生きられた」なら、それこそリアルですよね。

「こうしなさい」と言われると「やだねっ」と思っちゃう

―― 今、たくさんの同世代の俳優さんが活躍していて、みんなで切磋琢磨しているように見えます。

田中圭 たとえば山田孝之くんの芝居への愚直さとか、小栗旬くんが表現する男らしさとか、最近では『軍師官兵衛』で共演した岡田准一くんのストイックさとか、共演して刺激を受ける人はたくさんいます。僕は青春ものや学園ものには縁が薄くて、先輩方の中に若い自分がひとり、みたいな現場が多かったので、同世代に関しては、作品を見て刺激を受けることが多いですね。

―― 転機になった作品や役柄はありますか?

田中圭 うーん、たくさんありすぎて、絞れないです。現場ごとにお手本にしたい人がいて、まだまだ影響を受けている最中なので。ただ僕ね、「こうしなさい」って言われると、「やだねっ」って言っちゃうタイプ。でもそのアドバイスはもちろん的を得ていたりするから、内心「やだねとか言ってる場合じゃねぇよなぁ」と(笑)。今はその繰り返しです。

―― 役柄に入っていくときは、どうやって入っていくのですか?

田中圭 えーと、ふわ〜っと入っていきます。

―― ええ! ふわ〜っとですか?

田中圭 いやいや、現場に入る前は、すべて考えて決めてあるんですけど、いざ現場に入ったら全部忘れます。「こう言いたいな」と思っていても、相手が違うイメージで来たらそれに呼応するし、「ガツンと言うぞ!」と思っていてもカメラが引いていたら別の効果的な方法を考えるし。じっくり考えて組み立てるタイプなんですけど、壊せるタイプでもある。なんとかなるし、どうにかするという感じですね。

―― それができるって、強みですよね。

田中圭 ただ最近は、そういう「受け芝居」だけではなくて、「自分発信の芝居」をしたいという欲も沸いてきています。ただ僕、空気を読みすぎるクセがあって。これはもうね、生まれもっての“下っ端気質”がね。いやいや、言い方を変えましょう、“人好き気質”が僕をそうさせる(笑)。でもこれからは、もう少し自分本位に動いてもいいのかな、そう思い始めているんです。

役柄を愛してもらいたい。その努力は惜しまない

―― 1月にスタートしたテレビドラマ『びったれ!!!』では、伊武努という主役を務めています。お人好しのシングルファーザーが、切れ者の司法書士にも、伝説の極道にもなるという…。すごい設定です。

田中圭 この男がね、もうむちゃくちゃなんですよ。問題を法で解決するならいいですけど、できなければ暴力で解決するんですから、完全にあかんヤツ(笑)。でも「弱きを助け強きをくじく」正義に燃える男なんです。だから現場のみんなにも、観る人に向けても、どうすれば愛してもらえるか、それを考えて取り組んでました。

―― 人格の違う3役は、どう演じ分けるのですか?

田中圭 確かに3つのキャラクターはかなり違うし、分けて演技はしますけど、極端に演じ分けることは重要ではないと思ってました。もちろん3つの顔があるんですけど、伊武努という男の核をつくるほうが大切。わかりやすく演じ分けたほうがメリハリはつくのかもしれないけれど、「ひとりの男が3つの顔をもっている」というより、「こんなに幅広い顔をもっているけど、それがひとりの男なんだ」というほうを表現したかったんですよね。漫画が原作で、実在しないキャラクターだからこそ、「こんな男、どこかにいるかもしれないなぁ」というリアリティをもたせたい。その思いのほうが強かったですね。

―― なるほど、そのほうが伊武努を「生きる」ことができますよね。

田中圭 僕自身が好かれる嫌われるというのはどうしようもできないけれど、やはり役柄は愛してもらいたいですから。あとは…そうですね、共演者とスタッフをモノで釣りましたね。今回、お菓子の差し入れをたくさんしました(笑)。

リラックスできる、着心地のよい服が好き

―― オフの日はどう過ごしているのですか?

田中圭 基本的に、体を鍛えるようにしています。実は昨日まで4連休だったんですよ! これは鍛えるチャンスだぞ、と意気込んでいたのですが、えーとね、毎日おいしいご飯食べて、小太りになって戻ってきました。だめじゃん、おれ!

―― ああ、耳が痛い話です…。

田中圭 でもね、『びったれ!!!』の撮影は朝が早くて、5、6時スタートがあたり前。それでも撮影後深夜にジムに駆け込んで体を鍛えて、少し寝て、また現場へ、なんてやってましたから、要はやる気なんですよね。ああ、オレのこの“やる気”ってヤツ、なんですぐ引っ込んじゃうんだ…(笑)。ということで反省を込めて、基本、休みはジムに通う。あとバスケもやってるんで、それもやれたら理想ですね。

―― ちなみにプライベートでは、どんなファッションを?

田中圭 まずは着心地重視です。かっこいいなと思うシャツがあっても、着てみてパリッとしてると「うーん」みたいな(笑)。味わいがあったり、風合いがやわらかかったり、リラックスできるというか、えーと要は着ていてラクなファッションが好き(笑)。最近は、シルエットがかっこいいスウェットパンツも多く出ているので、愛用してます。

―― とはいえ、今日のジャケットもすごくお似合いで、スーツを着こなしているイメージもあります。

田中圭 洋服って不思議ですよね。男はスーツを着ると、「よし、行くぞ!」ってなるじゃないですか。現場での衣装チェンジは、僕の中でパチンとオンのスイッチが入る瞬間。だから洋服の力は偉大だと思うし、いつもそのパワーをもらっています。

今の自分を脱皮して、次のステージへ

―― では、今後の田中さんがめざす俳優像について教えてください。

田中圭 これはちょっと真剣にね、“この世界から消えない俳優”なんです。

―― ええ? それはどういうことですか?

田中圭 「どんな役でもかかってこい」というのが今までの僕だったし、それが強みだと思ってたんですけど、これからは少し自分のカラーも追求してみたいなと。「なんでもできる」はメリットだけど「器用貧乏」とも言えますから。

―― そこに気づいたのはすごいですね。

田中圭 長所だと思っていたところが、弱点でもあったわけで、そう気づいたときは少しショックでした。ただ、あらためて人から「じゃないと消えてくよ」と言われる機会があって、グサッと刺さったんですよ。自分でも薄々気づいていたけど、やっぱりそうだよなって。的を絞るとか、方向性を定めるとか、そういうことを意識していくし、ここ2、3年は勝負の時期だと思ってます。

―― 将来を見据えて、逆に今やるべき課題が明確になったんですね。深みを増していく姿が楽しみです。

田中圭 な〜んて言いつつ、今は次に控えている作品のことしか頭にないんですけどね。基本は「こうしなさい」と言われたら「やだねっ」って言っちゃうタイプだし、遠い将来よりも今の気持ちを大切にする人間だし、場の空気を読むところも変わらないと思う。ただ「向かうべき方向にビシッと焦点をあわせる」、今後はそこに意識的な自分でいたいなと、そう考えています。


Vol.30 田中 圭

今月のトラディショナル スタイル
田中 圭(たなか けい)さん
1984年7月10日生まれ、東京都出身。2000年デビュー。近年ではNHK大河ドラマ「軍師官兵衛」(’14/NHK)で石田三成役を熱演。主なTVドラマ出演作に連続テレビ小説「おひさま」(’11/NHK)、「負けて、勝つ 〜戦後を創った男・吉田茂〜」(’12/NHK)、「ビブリア古書堂の事件手帖」(’13/CX)、映画では『東京大学物語』(’06)、『包帯クラブ』(’07)、『しあわせのかおり』(’08)、『TAJOMARU』(’09)、『ラブコメ』(’10)、『ランウェイ☆ビート』(’11)、『アフロ田中』(’12)、『レンタネコ』(’12)、『みなさん、さようなら』(’13)、『図書館戦争』(’13)、『相棒シリーズ X DAY』(’13)など出演作多数。1月よりNHKBSプレミアム「徒歩7分」やCX「残念な夫」にも出演中、ほか待機作品にWOWOW「十月十日の進化論」、『図書館戦争 THE LAST MISSION』(2015年10月公開)がある。
ドラマ『びったれ!!!』
公式サイト http://www.bittare.jp/
2015年1月よりtvk、KHB東日本放送、テレ玉、チバテレ、静岡朝日テレビ、メ~テレ、KBS京都、サンテレビ、広島テレビほか放送中!!!
【出演】田中圭、森カンナ、岩崎未来、日向丈、藤咲ともみ、高橋かおり、国広富之 ほか
【原作】原作:田島隆/漫画:高橋昌大(別冊ヤングチャンピオン)
【スタッフ】監督:吉田康弘・水波圭太 脚本:門間宣裕・吉田康弘 製作:「びったれ!!!」製作委員会

Vol.31 丸山 敬太

Vol.29 野村 忠宏


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