Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
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CORNERS
ブルックリンの最北、クイーンズとの境目に、歴史的にはポーランド人地区としても知られるグリーンポイントがある。ここを通る地下鉄はGラインのみで、交通が不便なため再開発はゆっくり。それでも、かつてマイペースな下町だったこの地区は、今や若者やクリエイターの活気に溢れるヒップな場所になっている。駅からグリーンポイント・アベニューの緩やかな坂を西に下ると、キラキラとイーストリバーが見えて来て、フランクリン・ストリートとの賑やかな交差点にたどり着く。
このあたりでは、工場跡や、労働者移民の住居など、20世紀半ばまで続いた工業地帯全盛期のなごりが残されている。中でもこのグリーンポイント・アベニューの<Pencil Factory(ペンシル・ファクトリー)>は有名だ。ここは全米ナンバーワンだった鉛筆メーカーの工場跡で、今は一部をイラストレーターやデザイナーの利用するスタジオ・ビルディングに、また一部はクラウドファンディング時代の先駆者<キックスターター>の本部になっており、アイデアの生まれる場所として機能している。
そんな地元のクリエイター達の作品も見つかるショップ、<Homecoming(ホームカミング)>では厳選されたインテリアやキッチングッズ、観葉植物が並び、ドーナツショップ<Dough(ドー)>のドーナツや、紅茶専門店<Bellocq(ベロック)>のブレンドティーなどブルックリン発祥の味も楽しめる。地域を大切にし、良いものを丁寧に集めるショップだ。
その他にも、ギターショップの<Pentatonic Guitars(ペンタトニック・ギターズ)>や、地域密着型のブックショップ<WORD(ワード)>など、ライフスタイルが感じられる店が並ぶ。この<WORD>はタイムリーなセレクションが棚に並ぶ小さな本屋で、詩の朗読や新書の著者を招いたイベントも盛んだ。読み物を買ったら道をはさんで隣の<Little Neck Outpost(リトル・ネック・アウトポスト)>というカフェでゆっくり楽しむのも良い時間。
この一角は、日中の休憩場所やショッピングはもちろん、1日の終わりにクリエイター達を癒すための飲み屋も充実している。<Homecoming(ホームカミング)>の隣の<Broken Land(ブロークン・ランド)>や、<Pencil Factory Bar(ペンシル・ファクトリー・バー)>は、軽食も楽しめるスタンダードなバー。後者は工場地帯時代に港湾労働者達が集う場所だった歴史もあり、今でも安価で無駄がなく、その頃の風情を大切に受け継いだ飲み屋という印象だ。また、グリーンポイント・アベニューをもう少し下ると<Brouwerij Lane(ブルワリー・レイン)>というビールバーもある。フライトメニューやグラウラーでのテイクアウトができるなど、楽しみ方も豊富で、ビール好きにはたまらない場所だ。
このあたりをぶらぶらするなら、最後にはイーストリバーまで下りて、インパクトのある巨大なミューラル(壁画)や、マンハッタン・スカイラインの眺めを楽しみたい。夏になると<The Brooklyn Barge(ザ・ブルックリン・バージ)>という、その名のとおりバージ(※荷船)の上で食事と飲み物を嗜むレストラン・バーも水上に現れる。眺めとアトラクション性を考えるとなかなかリーズナブルで貴重なスポットで、他にもカヤックなどのレクリエーションに、イーストリバーの生態系や環境保護を考えるワークショップなど、地域に貢献する取り組みにも積極的だ。
移民や労働者の歴史が根強いからこそ、地域を大事にする姿勢や、流れに負けない強さも感じられる活気の詰まったグリーンポイント・アベニュー。今でもマイペースな印象のこの地区でさえ、最近は、ウイリアムズバーグなどのウォーターフロントでも目立っている高級住宅ビルがちらほらと現れ始めている。だが、トレンドを押し付けず、コミュニティーやそれぞれのフレーバーを大切にしているお店が並ぶこの一角には、誰もが心地良く過ごせる居場所が用意されている。
Illustrator,Writer
リース恵実
京都で生まれ育ち、2008年より主にブルックリンを拠点に活動している。著書に「ビール語辞典」(誠文堂新光社)がある。
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