CORNERS

VARET STREET


Sep 13th, 2016

Text_Azumi Hasegawa
Photo_Lisa Kato

「ヴァレット」(Varet)の「V」の発音が難しくて、よくイエローキャブの運転手を困らせた懐かしのヴァレット・ストリート。私が住んでいた2009年当時は、アーティストのスタジオが点在する工場と倉庫街で、治安も決して良いとは言えない場所だった。それが今では、ブッシュウィック地区の中心地として、レストランやバー、ギャラリーが数多く建つスポットになり注目を浴びている。 不良少年だった甥っ子が、突然更生して立派な社会人にでもなったような感じか。ちょっとこそばゆい。

マーティン・グリーンフィールド親子。

アーティストの友達みんなと住んでいた、ヴァレット・ストリートのロフトの目の前にあるのが「Martin Greenfield Clothier(マーティン・グリーンフィールド・クローディア)」。 ここは、テーラードスーツを中心としたメンズウェアの工場。歴代大統領やハリウッド俳優、映画の中のスーツを仕立てていることでも有名で、工場は1917年創業の老舗中の老舗。HBOのドラマ「ボードウォーク・エンパイア」の劇中のスーツ制作も担当した。フィッティングの時に試着するスーツが少ないと、次の回で自分の役が殺されてしまうことがわかり、泣き出す俳優も多かったという話を聞いたことがある。

ひっそりとした佇まいのRoberta's。 提供写真:Roberta's

私が住んでいた頃の地元の星、唯一のハングアウトスポットだったのが、ブリックオーブンのピザ・レストラン「Roberta’s(ロベルタス)」。拡張したり、テレビドラマに登場したりする前は、夏の間の日曜日だけ、客寄せのためのディスコナイトを開催していた。お世辞にも盛り上がっているとはいえなかったし(失礼)、今でこそ、待ち時間2時間なんて言われる人気スポットになったけど、 昔のガラガラな感じも良かったな。

バーガーやサンドイッチが豊富なTutu’s。

そんなレストラン不毛地帯に、2012年にオープンしたのは「Tutu’s(トゥトゥズ)」。ヴァレット・ストリートと交差するボガート・ストリートにある。ガストロパブスタイルのレストラン/バーで、昼間でもぼんやりと暗い店内はボヘミアンな雰囲気が漂う。ウェイターと客の見分けがつかないほど、ユル〜い接客もいい。

アップスケールな映画館バー。

そしてこの一画の今昔物語を象徴するようなスポットが「Syndicated(シンジケーテッド)」だ。2016年1月にオープンした 映画館/バー/レストランで、プロジェクターを使ったスクリーンもある。シアターはピカピカで本格的だけど、放映しているのは「ロビンフッド」や「アダムスファミリー」などの昔の映画で、値段も3ドル程度。暇つぶしには最適かも。

今ではたくさんオプションがあって、遊ぶ場所に困らないブッシュウィックだけど、昔は遊ぶ場所が限られていた。頻繁に訪れた分、個人的な思い入れが強い。そういう場所が残っていくことを祈って。

VARET STREET


Navigator
Azumi Hasegawa

ニューヨーク在住のライター。メンズ誌、カルチャー誌を中心に執筆する傍ら、ホラー映画の『PAN』の製作を手がける。訳書に『The One Hundred』(It Books/2010年)がある。2004年からアメリカに在住。
www.azumihasegawa.com

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