Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
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ニューヨークでウェイトスタッフの稼ぐ平均は年収7万5000ドル。超有名店であれば10万ドル稼ぐような人もいるようだ。The Modernのバー。photo_Nathan Rawlinson
「うちは『Gratuity Free』のレストランです」。
今、ブルックリンのワイスホテル内にあるレストラン<レイナーズ>で席に着くと、まずサーバーがこう教えてくれる。グラテュイティとはチップのこと。つまりチップなしのレストラン、サービス料は料金に含まれます、ということだ。
これまでニューヨークで外食をすると、食事の代金のほかに、サービスを担当してくれたウェイトスタッフに、代金の15~20%程度のチップを残すことが慣例になっていた。というのも、「チップワーカー」(チップをもらうレストラン・スタッフ)の賃金は、チップのない(ファストフードのような)外食店舗よりも低めに設定されていて、1時間9ドル。それも近年になってじわじわとあがったけれど、2000年までは1時間の時給は5ドル以下だった。とはいえ高級な店になればなるほど、食事の料金をベースに計算されるチップは上がっていくし、場所によっては一晩で何百ドルを稼ぐことも夢ではなく、チップ制度は、夢を追いかけてニューヨークにやってきたばかりの若者たちの力強いヘルプになってきた。
Photo_Matthew Williams
けれど、近年になって、このチップ制に疑問を呈する声がだんだん大きくなってきた。というのも、物価やレストラン運営のコストが上がるとともに、レストランのフロント(バーテンダーやウェイトスタッフ)とバック(シェフ以下厨房のスタッフ)との賃金の差がどんどん大きくなってきたのだ。しかもチップというものは、担当したウェイトスタッフが受け取るもので、再分配は法律で禁じられている。
このジレンマを解決すべく立ち上がったのは、セレブシェフのダニー・マイヤー。2015年に、経営する<ユニオン・スクエア・ホスピタリティ・グループ>に属するすべてのレストランからチップ制を廃止し、メニュー全体の料金をあげて、スタッフの給料体系を抜本的に改革したのだ。
チップ廃止を業界全体に呼びかけるダニー・メイヤー。 photo_Melissa Hom
MoMAの<モダーン>を含め13軒の有名店を経営し、 ニューヨークのレストラン文化を築いてきたレストラン王が出したキューに続けと、今「チップ廃止」を決めるレストランが少しずつだけれど増えてきている。
ブルックリンで6軒の店を経営するアンドリュー・ターロウも、これに続けと、まずはワイスホテル内のバーとレストラン、フォートグリーンのレストラン<ローマンズ>で、他店に先駆けてチップを廃止し、環境の整備に着手している。またアンドリューは、ウェブサイトを開設し、「グラテュイティ・フリー」のロゴを作成して、レストラン業界全体に呼びかけている。
アンドリュー・ターロウが開設したウェブサイト
これまで自分たちの腕で稼いできたウェイトスタッフからは反感もあるのでは?という声も聞こえるが、冒頭の<レイナーズ>のスタッフは「店の混雑ぶりに振り回されずに賃金が安定する」「厨房スタッフに申し訳ない思いをしなくてすむ」とチップ廃止に前向きだった。
Photo_Matthew Williams
Navigator
佐久間 裕美子
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
Femvertising/フェムバタイジング
Clubstaurant/クラブストラン