Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
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(出典 wwd.com)
80年代の映画を見ていると、俳優が着ているスーツに驚くことがある。時として、あまりにもブカブカで、話の筋よりもついついスーツの形に気をとられてしまう。映画「スカーフェイス」は、アル・パチーノの迫真の演技よりも、大きな肩パッドについ目線がいってしまうのだ。そんな時代を感じるシルエットが大きいスーツは、「ビッグスーツ」と呼ばれ、今年返り咲きだという。と言っても、滑稽なほど大きなシルエットではなく、ゆったりとした少しオーバーサイズなくらいの型がトレンド。ジャケットの型が大き過ぎるだけだと、チンピラ風に見えてしまいがちだが、クラシックな形をした上で、フィットが若干大きいくらいなら、カジュアルでファッショナブルな要素がプラスされ、スタイリッシュな印象を与える。
1980年代に一斉を風靡したドラマ「特捜刑事マイアミ・バイス」。主演の2人はいつもパステルカラーのビッグスーツを着ていることで知られていた。 (出典 nbc.com)
〈バレンシアガ〉ではデザイナーのデムナ・ヴァザリアが2017年春夏から「ビッグスーツ」を打ち出し、2017年秋冬のアイテムにも同様のスタイルを起用。ツイード素材などを使用し、フォーマルな雰囲気がありながらゆとりのあるジャケットとパンツは、急進的なデザインで話題を呼んでいる。今年の1月に開催された、ニューヨークのメンズファッションウィークでも、多くのデザイナーが「ビッグスーツ」を発表した。
そもそもいかにして「ビッグスーツ」は生まれたのか。1970年代には程よくフィットしていたスーツは、80 〜90年代になるにつれ、どんどん大きくなっていく。この期は「ゴーゴー80s」と呼ばれ、株価は上がり基調のバブル景気の真っ最中。権威を持っていること、欲張りなこと、そしてそれを示すことは良いこととされ、人は自分をよりパワフルに見せようと、スーツのシルエットはどんどん大きく、肩パッドも分厚くなっていった。仕事で着用する勝負スーツの「パワースーツ」や、重要なクライアントとのランチである「パワーランチ」という言葉が生まれたのもこの頃だ。
ニューヨークのメンズファッションウィークで発表された〈ラフ・シモンズ〉2017年秋冬のコレクション。80年代を彷彿させる、ルーミーなカットのスーツ。 (出典 rafshimons.com)
映画「スカーフェイス」(1983年)のアル・パチーノ演じるトニー・モンタナ。クリーム色のスーツの中に着た赤いシャツも派手。(出典 bamfstyle.com)
そんなトレンドが2017年に戻ってきた理由は、やはり80年代前半に大成功を収めたあの人が、トップの座に就いたことも少なからず関係しているかもしれない。米国の新政権が「アメリカファースト」を掲げて、巨額のインフラ投資計画を発表。これが実現した場合は、アメリカの景気が軌道に乗る見通しだ。米国経済がどう世界経済をリードしていくかはさて置き、スーツのシルエットの大きさと景気の先行き予想は比例しているのかも。今後どれくらい「ビッグスーツ」が浸透するか、期待が高まる。
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Azumi Hasegawa
ニューヨーク在住のライター。メンズ誌、カルチャー誌を中心に執筆する傍ら、ホラー映画の『PAN』の製作を手がける。訳書に『The One Hundred』(It Books/2010年)がある。2004年からアメリカに在住。
www.azumihasegawa.com
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