Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
KEYWORDS
この1年か2年の間に、ニューヨークでときどき耳にするようになった「Food Hall」という言葉がある。日本語に直訳すると「食堂」になるけれど、もともとはイギリス英語で、百貨店の中で食事をができるエリアを指すという。
アメリカには、それに似た「Food Court」という言葉がある。大型ショッピング・モールの中にあるカフェテリアスタイルの大型ホール、外周に外食業者があり、並べられたテーブルで購入した商品を食べることができるようになっている。多くの場合、「Food Court」に参加する外食業者はファストフードのチェーンだった。だからアメリカ英語の「Food Court」という言葉には、いつの間にか、カジュアル、早い、安いといったちょっぴりネガティブな意味合いが付帯するようになってしまっていた。
巨大な空間に、肉屋、パン屋と、それぞれの業者がブースを持つスタイルの<Eataly>が登場したことで「Food Hall」というコンセプトが登場した。
マディソン公園の北側に<Eataly(イータリー)>がオープンしたのは2010年のことだった。かつては銀行だったという巨大な空間をパビリオンのように改造した<Eataly>には、イタリアの食材やクッキング用品を扱う業者が多数入っているのに混じって、レストランが点在している。その他のスペースとの仕切りは最小限で、忙しく行き交う人たちがいる中の間で食事をするという、それまでとはちょっぴり違う外食体験を提案して、大成功をおさめた。
グランドセントラル駅近くのオフィスビル街にオープンした<アーバンスペース・ヴァンダービルト>には、<オーブンリー>のように独自の成功を収めたインディペンデントの食のアルティザンたちが参加している。
「Food Hall」という言葉が使われるようになったのは、<Eataly>が登場して以来、この手のスペースが増えたからだ。いくつもの外食業者がカウンターを構え、その中心にテーブルがある。多くの場合、客席があるのはテーブルはコミューナル(共同)のテーブルやカウンターで、見知らぬ人たちと肩を並べて食事をするというスタイルだ。
カウンターを構える業者は、グルメ系や、少量生産系の人気レストランの支店であることが多い。デザイン性が高くカジュアルな<ガンズボート・マーケット>や<シティ・キッチン>など、次々と新しい空間がオープンしている。食のクオリティは高いけれど、通常のレストランで通常のサービスを受けるより時間はかからないし、気軽なのも人気が上昇した理由だ。
グループで訪れても、それぞれが好きなものを食べることができる。今、ニューヨークの食文化に新しい食べ方を提案する場所が「Food Hall」なのである。
Navigator
佐久間 裕美子
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
MAJOR KEY/メジャーキー
MODELIZER / モデライザー