ELECTION AND STYLE
COLUMN/佐久間裕美子の政治と女性
アメリカの文化と政治を見つめる佐久間裕美子さんの「ELECTION AND STYLE」のコラム。今回のテーマは「政治と女性」。トランプ憎しを通り越し、フェミニストにとってはトランプの恵みの悪役になったのかもしれないとのこと。その真意やいかに。カルチャーの中に政治があり、政治の中にカルチャーがある。アメリカも徐々に変わりつつあります。
これほど「女性である」ということの意味を考えさせられた大統領選挙は、いまだかつてなかった。
そもそも二大政党の候補のひとりが女性であるということ自体が歴史上初めてなうえに、緑の党のジル・スタインも入れると、全4人の候補のうち2人が女性という珍しい展開になっている。
民主党のヒラリー・クリントン候補とドナルド・トランプ候補の間での戦いの醜さがたびたび取りざたされてきた今回の選挙で、潮目が確実に変わった瞬間のひとつに、特に「女性問題」がクローズアップされたのは、トランプ候補が「美しい女性を見るとすぐにキスしてしまう」「プッシー(女性器の俗称)もつかめる」などと発言したビデオの流出事件があった。そしてその事件によって、両陣営の脇を固める女性キャラクターたちのあまりに対象的なスタンスが浮き彫りになった。
トランプ家側の反応としては、娘のイヴァンカが「父の発言は不適切」と言いながらも「謝罪してよかった」と一件落着を示唆する一方で、妻のメラニアは、上の発言は司会者のビリー・ブッシュに「導かれたもの」と擁護。余談だけれど、メラニアはビデオ流出直後のディベートに、「プッシー・ボウ」と呼ばれるタイプのブラウスを着て登場し、失笑を買った。トランプ陣営は、ワードローブの選択は意図的なものではなかったと。ちなみに襟元でリボンを結ぶこのタイプのブラウスを「プッシー・ボウ」と呼ぶのだということはこの件で知った。猫の首につけるリボンに起源があるとされ、1977年に刊行されてベストセラーになった「The Woman’s Dress for Success Book」という本のなかで、大企業で出世したいのであれば着るべきアイテムとして紹介されるなど、フェミニズム志向と結びついていた時代もあったけれど、そのルーツはいつしか忘れ去られ、その名前だけが残ったということも。
一方、民主党側の情勢たちは猛反発。現ファースト・レディのミシェル・オバマが、トランプ候補の名前を出さずに「この事件で、私自身も予想以上に芯から動揺している」と声を震わせ、女性としてこの件に関する感情を露わにしたスピーチは、世の女性たちから拍手喝采を浴びた。(渡辺葉さんによる日本語全文訳:http://watanabe-yo.sorairoan.com/?eid=30)
また、マサチューセッツ州のエリザベス・ウォーレン上院議員は、10月19日の最後の討論会で、トランプ候補がクリントン候補のことを「ナスティ・ウーマン(汚らしい女性)」と呼んだことを受けて、「Nasty Women Vote」(ナスティな女性たちが投票する)」と怒りのスピーチをした。こうやって写真を並べてみると、両陣営まわりの女性たちのキャラクターの対照的なこと!
多くの女性を敵にまわした感のあるドナルド・トランプ候補だが、フェミニズムにとっては、恵みの悪役になったという意見も少なくない。下品な発言を「ロッカー・ルームでのおふざけ」と片付けようとしたところ、アスリートや男性たちからも反発を買い、「僕たちは違う」と表明する写真をソーシャル・メディアにアップする動きが拡散している。選挙以降のアメリカを想像するとき、アメリカと女性たちの関係が一歩前進していると思うのは楽観的すぎだろうか。