Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
UNSUNG NEW YORKERS
I love it here because people get shit done in New York
ここが好きなのは、人々がコトをやり遂げるから
ジェイミー・ウォンのことは、ブルックリンで行われていたヴィンテージのトレードショーで知った。今ではすっかり友達になったけれど、最初は笑顔を安売りしないタイプだと思った。ヒゲを生やした白人男性たちがわんさかいる業界で、LAでひとりで熱烈なファンの多いヴィンテージショップを経営している、それも当然だなと頼もしかった。
知り合った翌年、ブルックリンのウィリアムズバーグにあったヴィンテージショップをジェイミーが引き継いだ。屋号も彼女のLAの店と同じ<ラゲディ・スレッズ>になった。ニューヨークに第2の店をオープンし、徐々にニューヨーク生活に慣れつつあるジェイミーに話を聞いた。
「子供の頃から、いつも古いものが好きだったのが高じて、スリフトショップで見つけたヴィンテージを、1997年にLAのフリーマーケット<ローズボール>で売るようになった。そこでオールドスクールのディーラーたちに質問をすることで、ヴィンテージの知識を身につけた」
大学に通いながら、飛行機の部品を売買するディーラーにフルタイムで務め、週末はフリーマーケットでヴィンテージを売る、という生活をしていたある日、朝起きて「自分の店をやろう」と決めた。応援してくれたのは母親だった。LA郊外で経営していた印刷ショップの一角を、貸してくれたのだ。
この数年間で母親から会計や税金といった、ビジネスを営むことのいろはを学んだが、前の勤め先で得た売買の交渉術と、フリーマーケットで得たヴィンテージの知識が役に立って、2005年にはLAのアート・ディストリクトで自分の店をオープンするまでに。
「その後には、空前の不景気も経験して、もっと狭い店への移転も余儀なくされた。自分がこの商売に向いてるかどうかはあまり考えなかった。やり続けたのは、ヴィンテージのディーリングを愛しているから」
LAのリトル・トーキョーに移転オープンした今の店が落ち着いた頃、新しいことを始めたくなった。そのときに考えたのがニューヨークでのデビューだ。けれど店を探していた2012年、ハリケーン・サンディがニューヨークを襲った。「タイミングが悪い」と一度は諦めたニューヨーク店だけれど、昨年、ニューヨークからかかってきた一本の電話が運命を変えた。
「すぐにこの店を見に来て、決断した」
今<ラゲディ・スレッド>のニューヨーク店は、もうすぐ1歳になろうとしている。そしてジェイミーもニューヨークの生活に慣れようとしている。
「天気も違うし、人の感覚も違う。街のエネルギーが違う!順応するのは簡単じゃない。でもニューヨークが好きなのは、誰もがコトをやり遂げるから。LAだといつもいろんなことが先送りされている。こういうふうには進まないの」
Navigator
佐久間 裕美子
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
ニューヨークはプレシャスでかけがえのない都市
他の場所には存在しないこの街のエネルギーとエキサイトメントに魅了される。