変化を楽しみながら、大らかに。
観月ありささんの美の秘訣
10代、20代、30代にわたり“朝倉いずみ”役を演じる
――15歳のときにテレビドラマに初主演、以降今に至るまでたくさんの役を演じてこられました。なかでも思い入れの強い役や転機となったドラマはありますか?
本当にこれまでさまざまな役を演じてきました。あるときは防衛省秘密組織の一員として、あるときはサザエさんになって(笑)。どれも思い入れはありますが、印象深かったと言われるのは、『ナースのお仕事』の“朝倉いずみ”役でしょうか。先日12年ぶりに復活しましたが、19歳のころにスタートしたドラマなので、思えば10代、20代、30代と演じ続けていることになります…。
――12年ぶりの復活は話題でした。現場はどんな雰囲気でしたか? みなさん違和感なく?
まったくありませんでした。松下由樹さんとも「12年ぶりだって! とりあえず、思い出しながらやってみようか」と和気あいあいと始まりました。メインのスタッフさんもほとんど変わらなかったので、撮影が始まったらすぐに「あぁこんな感じだった!」と体が反応して、すんなりと役に入れました。
長く付き合っている共演者の方たちとの現場では、変な遠慮がいらないのもラクでしたね。お芝居とはいえ、やはり初めましての方をいきなりひっぱたいたりというのは…ねぇ。「痛いですか? 大丈夫ですか?」って、気を遣いますから。『ナース〜』は、思いっきりできる関係(笑)。
――いずみちゃんに憧れてナースになった方もいると聞いています。
おかげさまでと言いますか、病院に行くとね、本当にみなさん優しく、大切に扱ってくれます(笑)。見てくれていた方で実際にナースになった方も今回の復活を喜んでくれたと聞いて、うれしかったですね。共演したおのののかさんにも、「小さいころ見てました!」と言われたのですが、由樹さんと「小さい頃?!」「そ、そりゃそっか…10代だった私が30代だもんね」「当時小さかった子も成長するくらいの年数が経ってるわけだ」と、しみじみ。
「私にはできない」と思った役が大きな転機に
――いずみちゃんのようにインパクトのある役柄を長い期間演じたあとは、ほかの役がやりづらい、みたいなことはあるのでしょうか。
いや、それどころか『ナース〜』のすぐあとに出演した『ぼくんち』という映画でいただいた役は、これまでとまったく違って、自分のなかで女優としての階段をひとつ上れたような、転機となりました。
――西原理恵子さんの漫画を原作とした作品ですね。
はい。テーマも生きることや食の大切さなど、人間にとっての根源的なメッセージを含んでいて、最初にお話をいただいたときは、正直「私にはできない」と思いました。とてつもなく高いハードルに感じて、阪本監督にも難しいとお伝えしたんです。
でも、監督から「いいから、俺を信じてついてこい!」と言っていただき、「そこまで言ってくれるなら」と踏ん切りがつきました。結果、この作品を機に役の幅が大きく広がったように思います。30代になってからは、さらに加速して「え? 私になぜそのオファーが?!」の連続です。
時代劇もそのひとつで、『吉原炎上』のお話をいただいたときは本当にびっくり。私は背が高いので着物のイメージとも違うでしょうし、時代劇は自分に求められていないと諦めていたんですね。『吉原炎上』には、すごく不思議なご縁を感じる出来事があって。
――ご縁を? 何でしょう。
あるとき、同世代の女友達と食事をしながら、小学校のときに観た映画で強烈に印象に残ってる映画って何だろう? という話題になって。そのときにテレビで放送されたことのある『吉原炎上』をふたりとも挙げたんです。
あの映画は、すごかったね、恋を知らない小学生の心にも強烈な印象を残したよね、とその日は“女の情念のすさまじさ”というお題で、さんざん盛り上がりました。そのちょうど一週間後に『吉原炎上』のオファーをいただきまして、すぐにその友人に連絡をしたら、驚きつつも「作品に呼ばれたね」と喜んでくれました。
シャツ、パンツ、シューズ/NEWYORKER
他、スタイリスト私物
デトックスと体幹を鍛えることで自分の軸を整える。
――昨年の6月にはミュージカルにも初挑戦。
はい。ミュージカルは、まったく新しい経験で、今までと全然違う“種目”にトライしているような感覚でした。お芝居に長距離や短距離があるとしたら、ミュージカルは“ハードル競技”のような…。だって、芝居をしていて、突然歌い出すなんて不思議すぎるでしょ?(笑)
その状態に馴染むまでにけっこうな時間がかかりましたね。最初はどうしても、照れちゃって。共演したみなさんは慣れていらっしゃる方ばかりでしたので、私は完全な新人。力の入れどころが分からなくって、共演した香取慎吾君とも稽古中に「これはいったい、いつ本気だしたらいいの?」と探り合ったりしていました。
――ミュージカル後、体型にも変化があったとか。
そうなんです。特別なトレーニングはしていないのですが、体も絞れましたし、体重も落ちました。リフトをしてもらいながら歌ったりなど、体幹を使った動きが多かったことが、自然とダイエットになったようです。
――観月さんはそのスタイルを維持するために、どんなエクササイズをしているのですか?
今は、ストイックにエクササイズをすることは、なくなりました。それこそ20代のときは、ありとあらゆる“体にいい”と言われるものを試したんですけどね。むくみやすい体質だったので、スピードトレーニングのような激しい運動で、短時間で多量の汗を出すようなエクササイズを行ったり。でも、年齢を重ねてそういう運動の仕方とか汗の出し方をしていると、体も顔つきも全体的にギスギスした雰囲気が出ちゃうんです。
――水分が足りないような感じですか。
そうです。水分を取らないことよりも、いかに老廃物を出すか、デトックスに注力したほうがいいと思いました。今は炭酸水などで水分は積極的に取るようにしています。一通りエクササイズをしたなかで、“デトックスと体幹を鍛えることが大事”というのが私なりの結論。
30代になってからの激しい運動は、膝を痛めたり、腰痛を起こしたり、危険なんです(笑)。ゆるく長く、自分に優しい、心地いいものじゃないと続きませんよね。ピラティスは、もう長い間続けています。
「ここでは一番の新人」という環境は学びの宝庫。
――体の変化に合わせて、エクササイズも変えているんですね。
体だけでなく、性格も含めて、考え方もずいぶんと変わりましたよ。少しずつまろやかになってきたんだと思います。10代のころや20代の前半は、神経質で常にピリピリしていて、何かに対していつも怒っていました。自分に対しても、人に対しても「なんでできないの!」ってイライラしたり、とにかく1日中カリカリモード(笑)。
――大人に囲まれて仕事をしなくてはいけない環境だったからでしょうか。
それもあるかもしれません。取材でも子供扱いするインタビュアーは、苦手でした。小さな子供に話しかけるような口調で「学校はど〜う?」「そうなんだぁ」と甘い声で言われると、「仕事現場で会ってるのに、なんで…」と思っていました。雑誌の撮影でもカメラマンに「笑って〜」と言われても、「笑えません」って真顔で返す可愛げのなさ(笑)。
きっと当時は嫌がられてただろうなぁ。あのままだったら、今ごろ仕事を続けられていないと思います。たまに当時のスタッフに会うと「あの頃よく怒ってたよね、大人の俺らが気を遣ったよ〜」と、からかわれます。
――今の雰囲気からは想像できませんね。
完璧主義だった自分に対して、限界がきたというか、あるとき「あ〜もう、こういうの疲れちゃった!」って突然肩の力が抜けたんです。何もかも自分で決定したり、背負い込まなくてもいいんだと思うようになってからは、失敗が怖い、とか完璧に仕事しなきゃ、という気持ちも消えて「失敗したら今の自分がそこまでだったってことだよね」と思えるように。
振り子じゃないですけれども、あの完璧主義は何だったんだろうというくらい、逆サイドに触れて、今は相当な楽観主義です(笑)。ある意味では妥協している面もあるかもしれませんが、仕事自体はどんどん楽しくなりましたし、何より自分がラク! そんな気持ちに連動するように30代になってから、挑戦したことのない新しい仕事の話がいただけたりと、環境も広がっていきました。
――30代になって、固まったのではなく、広がっていったのですね。
経験が増えるとどんどん“新人感覚”が薄れてきてしまうので、ミュージカルのように「ここに入ったらいちばんの新人」という環境があることは贅沢なことなんだと思います。20代のときはその“初めての体験”をどこかで避けていたのですが、今思えば、あんなにくよくよ考えないで飛び込んでおけばよかったじゃん、と思います。
――1月15日から放送されている『出入り禁止の女〜事件記者クロガネ〜』でも、初の記者役ですね。
女性新聞記者にスポットを当てたドラマは珍しく、役づくりは苦労しました。実際の記者さんに取材した資料から、ほかの報道との違いや彼らが誇りとしていること、男社会のなかでの女性の立場などを頭に入れて、台本を読んでいたのですが、それ以前の問題でつまずきました。台本にある用語自体が難しくスムーズに読めないんです(笑)。私は、しつこい聞き込みや周辺への調査を先回りなど、警察からも疎まれる記者役。楽しんでもらえたらうれしいです。
親友に話し、たくさん寝ること。
――ファッションについてもお伺いしたいのですが、普段はどのようなスタイルが好きですか?
基本的にカジュアルなものが好きなのですが、ベーシックなデザインのなかにも “誰も見ないでしょそれ”というような隠れたところにキラリと光るこだわりが感じられるものにときめきます。ジャケットの腕をまくったときのパイピングや、モノトーンアイテムなのに裏地がビビッドなピンクだったり。よく見るとボタンのデザインがすごくかわいかったりすると、ぐっときますね。ディテール萌えです。
――今日履いていらっしゃる白のスニーカーもファーがついていて素敵です。
服はカジュアルでベーシックなものが多いですが、靴やバッグ、小物は個性的なものが好きです。やっとこの年になって、ハイブランドのジュエリーやインパクトのあるビジューアイテムも、浮かずに身につけられるようになりました。
――観月さんが素敵だと思う人はどんな人でしょう。
自分の内面や内側を充実させるために、努力している人や行動している人。私がわりと外側に向かっていくタイプなので、逆の人に憧れるのかもしれません。友人に会いに行ったり、見たい景色がある場所に出かけたり、そういう行動力はあるのですが、黙々と家で作業することがどちらかというと苦手。
「英会話をマスターしたいから、習いに行く」など、どんなに小さなことでも、今の自分に必要なものを知っていて、そのために行動している人は素敵だと感じます。
――役柄の印象か、落ち込むイメージがあまりありませんが、悩んだときなど、何か対処法はありますか?
長い時間くよくよすることはないですね。悩みもグチも大きくなる前にアウトプットすることが大事だと思っています。私はまず親友にアポ入れ(笑)。心のうちを気心の知れた人に開放しているうちに、自分のなかでも整理されて、モヤモヤが晴れてきたりしますからね。それでも気分がすぐれないときは、何時だろうが寝る!(笑)
朝起きると、前日とは違う脳になっている気がします。悩みや落ち込みが確実に消化されているのが実感できるというか。体だけでなく、気持ち的にも代謝やデトックスは大事ですね。どんなに忙しくても、心身に毒を溜め込まないで、循環をよくしていれば、また新たなチャレンジに向かっていける気がします。
最後に観月ありささんから
“美しくなるためのメッセージ”
10年後どんな人になりたいか…ですか。特にないですね。自分がこの10年ですごく変化したので、10年後もきっと変わっていると思うんです。「大人の素敵な女性とは、こういう人」と決めてしまうのも、自分の行動や選択肢を狭めてしまう気がしてもったいないですよね。そのときそのときのベストでいられるように、毎日を過ごすことをまずは大事にしたいです。