美人白書

Vol.41 米良はるか


Mar 30th, 2016

photo_ari takagi
text_noriko oba
edit_rhino inc.


日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を23歳で設立し、注目を集めた米良はるかさん。会社の代表として日々決断を下さなくてはならない彼女が身につけた、問題の解決法とは? 仕事のこと、プライベートのコミュニケーション、ファッションなどさまざまにお伺いするなかで、彼女の根底にある、ひとつの強い想いが見えてきました。

どんな空間でも、発揮される存在感。
米良はるかさんの美の秘訣

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毎月約200件のプロジェクトを公開

――米良さんが代表をつとめる「READYFOR」は、どんなサービスを行っているのでしょう?

個人や企業、団体などの夢や、実現したいプロジェクトをインターネット上に公開し、それに共感した人から資金面でのサポートを募る“資金調達”のツールを提供しています。中小企業が「READYFOR」を使って、融資を受けてものづくりをすることもありますし、まだ企業にも団体にもなっていない、けれども実現する価値があるような個人のプロジェクトにも、お金が行き渡る仕組みをつくっています。

――プロジェクトを思いついてから、実現にいたるまでの流れを教えてください。

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最初にサイトから申請していただき、審査を経て、担当者との面接を行います。そのあとは2〜3週間で公開するページの準備をして、ホームページに掲載。資金の募集期間はだいたい60日間、最大で90日間です。目標金額に達したらプロジェクトをスタートし、わずかでも足りなかったら一切決済されず終了。サービスは購入型なので、金額を達成したら、申請者はリターンとして金銭以外のものを支援者に返します。

――プロジェクトのなかには、あとちょっとで目標金額だったのに…ということも?

そうなんです。なので、実現するためにはプロジェクト自体に魅力があるかはもちろん、金額設定が適正かも重要な鍵。最初に金額を設定するのは申請者ですが、こちらでもアドバイスをしています。過去には「あと10万低く設定しておけば達成したはずなのに」と、悔しい思いをしたことも。

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――今は、1か月にどれくらいの数の応募が?

毎月200件くらいのプロジェクトが公開されています。

――かなりの数ですね。ちなみに、審査も通りやすく、資金も集まりやすいプロジェクトには、何か共通点がありますか?

反対のパターンからお話すると、クラウドファンディングというと、より多くの人に届くようにと思われがちですが、抽象度が高すぎるものは難しいです。すごく極端に言うと「世界平和」を掲げてプロジェクトを起こしたところで、それは多くの人が願ってはいるけれど、果たしてそのやり方がベストなのか、という疑問も生まれます。

抽象的なテーマは、広く取っているようで、実は誰にも響いていないという事態も起こりがち。うまくいくプロジェクトは、まずターゲットがしっかり定まっています。

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人を輝かせ、価値を伝える仕事。

――米良さんは、23歳のときに「READYFOR」を立ち上げましたが、学生時代になぜこの仕事をしていこうと決めたのですか? 

最初に就職活動を始めたときは、化粧品メーカーのマーケティングをやりたいと思っていたんです。というのも、化粧品会社で働いていた母から、老人ホームでメイクをしてあげたときの話、美しくなることで女性が自信をもった話などを聞いていて、自分が何かをして人を輝かせたり、人が変わる瞬間をつくるのって素敵だなと思っていたのと、父はコピーライターをしていて、伝える仕事もいいなと。

――ご両親の仕事の両方の要素が入ったものを、と考えていたのですね。

はい。ふたりの話をよく聞いていたので、唯一リアルにイメージできる仕事だったんですけどね…。最終面接で落ちまして。

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――そこから方向性を変えたんですか?

この会社のもうひとりの創業者である松尾豊は、東京大学の人工知能の研究者なのですが、私は大学3年生のときから彼のもとでウェブの仕組みを勉強していたんですね。当時、バンクーバーのパラリンピックのスキー日本代表チームと出会ったことが起業のきっかけです。

資金に困っている代表チームを支援するプロジェクトを、ネットで立ち上げました。目標金額に達成して無事お金をお届けできたときに、共感が伝播していくときのパワーや、応援する側にも喜びがあること、人の役に立てたことに感動したんです。「この仕組みを求めている人はたくさんいるはず」と、「READYFOR」を立ち上げました。

――バンクーバーの翌年には実際にスタートさせて。

今思うと、就活のときに描いていた「人を輝かせたい」も「何かを伝えたい」も両方がこの仕事を通じて叶っているのも不思議。化粧品なのかクラウドファンディングなのか、ツールは違いますが、自分がやりたい柱は同じなんだと思います。

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夫婦ゲンカはしたことがありません。

――米良さんは、昔から友達に相談をされることも多そうですね。

学生時代から人生相談みたいなものは多かったと思います。ただ、恋愛相談はなかったですね(笑)。恋愛話の「ああでもない、こうでもない」という話は、私がすぐに結論を出したがるクセもあって、最終的にこの会話はどこに向かいたいのか、自分に求められているものが何かがわかりにくくて苦手でした(笑)。

でも「この話は、答えを出さないことこそが大事なんだ」と気づいてからは、私は聞き役を求められているんだ、だったらおもしろい話のひとつでもするか、と楽しめるようになりましたけど。

――常に、自分がその場でどう在るべきか、を考えるということですか?

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そうですね。社会人になってからは特に時間の大切さを切実に感じるので、相手が誰であっても、一緒に時間を過ごすならお互いが会ってよかったと思えるよう、この場をよくするためにどうつくったらいいか、その場その場の目的を考えます。相手が夫でも同じで、そういえば、結婚してから一度もケンカしたことないんですよ(笑)。

――何かコツが?

今は、お互い仕事で忙しいので、ふたりで過ごす貴重な時間がどうあったら心地いいのかを考えます。もちろん私だって落ち込んだり、機嫌が悪いこともあるのですが、そんなときは、自分の求めていることを先に言いますね。「今、本当にすごく辛いから、なぐさめて」とか「悩みがあって、聞いてほしいけど整理されたいタイミングじゃない」とか(笑)。そこを伝えていないと、相手がよかれと思って「ここが悪いじゃん」と指摘されたことにカチンときたり、お互いが気持ちよくないと思うんです。

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悩みを解決するふたつのルール。

――ご結婚されて、仕事にもいい影響がありそうですね。

大きいと思います。自分が所属しているコミュニティの主は、家族と職場ですから、どちらかがいいと一方もいい影響を受けますよね、きっと。家族といい関係をもっていれば、思い切り仕事にエネルギーを注げますし、それを理解してくれているのもありがたいことです。

プライベートがバタバタしながら仕事するのも嫌ですし、そういうのは本当に面倒なんです。無駄に相手を怒らせるとか、すごいエネルギーだと思いますね、絶対やりません(笑)。

――米良さんが何かに悩んだときは、どんな風に解決するのですか?

うーん、解決するためにはふたつあって。まずは、問題を特定すること、特定する能力をあげていくことが大事だと思っています。「あ、なんかヤバいぞ」と思ったとして、なんでヤバいというセンサーが働いたのか、その理由は何だろうと考えます。十分な情報から出したことなのか、誰かひとりに言われたことに驚いて思っただけなのか。そこを整えるだけで、悩み自体が解消する事も多いので。

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――考え方がすごく整理されています。

いや、これは仕事をするようになってかなり訓練しました。もともと感覚に頼って動くほうではないですが、ロジカルシンキングがすごく得意だったわけでもなく。仕事を始めて2年くらい集中してロジカルシンキングを学んだ時期がありましたね。

先ほど名前を出した代表の松尾からも多くを学びました。彼に「ヤバいんです」なんて言ったら…「?? ヤバいってなんですか? そういうの本当にやめてください。もう一度整理してから来るように」と、話も聞いてもらえませんから(笑)。

――訓練の賜物なんですね。

夫も超がつくほどロジカル思考なので(笑)、何か起きたとき「こういう思考の組み立て方で合ってる?」と、今でもときどき答え合わせをしてもらっています。

――解決するためのもうひとつは何ですか?

悩みごとって、その場で結論を出してもそれが「正しいか」どうかがすぐにわからないので、いつまでも悩むのだと思うんです。でも、答えはあとになってみないとわかりませんし、裏を返せば、決めようとしなければずっと悩み続けられるということですよね。なので、もうひとつは「結論を出すと決めること、そういう姿勢でいること」。決めるぞと決意すれば、情報が足りないなら集める、足りていたら決める、と悩んだままの状態からは抜けられます。

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ベッドから1歩も出ない土曜日。

――決断をする日々で、どんどん磨かれたのですね。その力を十分に発揮するために欠かせない習慣は何ですか?

寝ること! これは絶対です。寝ていないと頭がまったくまわらなくないどころか、その状態で忙しさだけが増していくと、情緒まで不安定になってしまうから。次の約束を破ってでも寝なきゃと思ったら寝ます(笑)。1か月に1回、土曜日に1日中ベッドから出ないで「何も考えない」「何もしない」ひたすらドラマだけを見続ける時間は、死守していますよ。

――ダラダラ過ごすのは嫌いそうなので、意外です。

このまま順調に進んだとして、忙しさは10倍、100倍と増していくなかで、パフォーマンスをあげるためには異常な効率性がないとまわらない。そうなったときに、自分のマインドを同じ状態でキープするためにも、どう休むかは大事ですし、課題ですね。

ダラダラしながらドラマを見たり、海外旅行に行くなど、自分のやりたいことを全部押し殺して、仕事に当てるのは私には無理だろうと思うので、バランスの取り方を試行錯誤中です。

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――笑顔ですね。なんだか楽しそう。

そういうのを考えるのが、好きなんですよ。疲れて寝るにしても、なんとか短い間で充実した眠りを得るためにはどうしたらいいんだろうとか。「足ツボマッサージをしてもらいながら寝ると、1時間の睡眠が3時間に感じられる!」は、私調べで得た効率的な睡眠法です(笑)。

――これから来るさらなる忙しさに向けて、いろいろ準備をしているのですね。

仕事上の立場やライフスタイルが変化するなど、次のステップに行くことをなるべく自分でコントロールしながら進みたいんですよね。人生の転換期に来る大きなことは、ある程度想定して、きちんと準備をしていたい。一度しかない人生なので、すべてを「自分で選んだ」と思いたいというか…。頭の回転も想定する力もまだまだなので、上げていきたいです。

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大切な場で、活躍するためのファッションとは?

――ファッションについても教えてください。普段はどんなスタイルが多いですか?

シンプルなものが好きです。23歳でベンチャーを始めたときは、経営者が集まるような会議でも「いかにも大学生」という感じに映っていたと思います。ひとまわり以上も上の人たちのなかで、大人っぽく見せようとかっこつけてもしょうがないので、私も私で若い雰囲気の服を選んでいましたが、それも本当はすごくイヤだったので。今やっと自分の年齢と趣味のバランスが取れてきて、好きなものを着ています。

――服を選ぶときに大切にしていることは?

さきほどの話と重なりますが、「この場で求められていること」を考えます。レストランオーナーや舞台の主催者、パーティーをオーガナイズする人など、誰かがつくる世界や場のなかに入っていくときに、会の雰囲気や趣旨を理解して服装を選んでいるかは、すごく大事な要素になりますし、さらにその場で活躍したいと思うなら、少なくとも服装でマイナス要因になるようなことは、避けなくてはいけない。あの…うちの父親ってすごく顔がかっこよくないんですよ。

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――唐突に?(笑)。

なのですが、スーツを着るとこんなに服が似合う人っているの!?というくらいかっこよくなるんです。父はおしゃれをすることが本当に好きなのですが、その父に私は小さいころから行きつけのバーやレストランなど、大人が行く場所によく連れて行ってもらいました。そのときに、たびたび「その場にふさわしい服を着なさい」ということを言われていた影響もあると思います。

――きちんとファッションの話につながるのですね。

(笑)。今日お話ししていて、コミュニケーションの話もファッションの話でも似たようなことを言っているなと思って、いかにその場その場でベストな役割を果たすかが、自分の大きなテーマなんだとわかりました。

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――たしかに、一貫していました。最後に今後の目標を教えてください。

会社の軸である「誰もがやりたいことを実現できる世の中を創る」ためにできることをもっと広げていきたい。夢をもったお金を必要とする多くの人たちに「READYFOR」を想起していただけるよう、会社の価値を高めたいです。

2014年に「READYFOR」を会社にして、この1年間は経営者としての勉強をしたので、これからは会社を大きくすることも考えなくてはなりません。2016年は、そのためのスタートをたくさん切りたいですね。


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最後に米良はるかさんから
“美しくなるためのメッセージ”

フランスの科学者パスツールの言葉「Chance favors the prepared mind」。訳は、“幸運は、準備された精神にしか微笑まない”。自分の実感としても、いいことが起こるときは決まって、いいことに向けて何らか準備をしているときです。そこで調子に乗ったり、何もしないでサボっていると、あっという間に悪いことが起こるんですよね…(笑)。それで「やばいーー!」って必死になるからまたちょっといいことが起きるというか。今がいいときでも、常に粛々と頑張ろうと思える言葉です。

今月の美人
米良はるか

2010年慶應義塾大学経済学部卒業。2012年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院在学中に米国・スタンフォード大学に留学。帰国後、2011年3月にWebベンチャー・オーマ株式会社の一事業として日本初のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を設立し、2014年7月に株式会社化。2012年には世界経済フォーラムグローバルシェイパーズ2011に選出され、日本人として最年少でダボス会議に出席。

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