食べて「発見」。

イタリアの郷土の知恵の数々を味わいに、中目黒へ!

Cuore Azzurro(クオーレ アズーロ)


Feb 19th, 2014

Text_Junichi Kobayashi
Photo_newyorker magazine

中目黒の駅の南側、東急の線路と並行して続く目黒銀座商店街の最深部。目印の青いドアを開くや否や、食いしん坊垂涎の美味しい旅の始まり始まり。その名は「クオーレ・アズーロ」。
イタリア各地で修行したシェフによる、リストランテ仕込みの美食の数々を、まるで”酒場”か”居酒屋”のようなスタイルで堪能できる希有な店。イタリアのうまい文化や習慣を学びまくれる酒場です。

SHOP DATE
Cuore Azzurro(クオーレ・アズーロ)

TEL:03-6457-5632
TEL:03-5708-5101
住所:東京都目黒区上目黒2-42-12 渋谷ビル1F
営業時間:18:00~翌2:00
定休日:火曜日
ホームページ:http://cuoreazzurro51.com/
予約方法:お電話もしくは店舗HPより
アクセス:中目黒駅より徒歩6分(目黒銀座商店街沿い)
席数:約20席(テーブル席あり)

ドアを開ければ、そこは、「美味」が詰まる小宇宙。

ドアを開けると奥へと続く、長いカウンター。店を訪れたのが土曜日だからか、18時を過ぎたばかりなのに店内はほぼ満員。6人ほどが座れるテーブル席はあるものの、キッチンの様子が一望できるカウンターが、やはり特等席でしょうか。

見回せば、フルートグラスを並べつつ泡に魅入る人あり、すべて手作りするというパスタを頬張って目を細める夫婦あり、ひとりで本に目を落とし、白ワインをチビチビするご近所女子の姿も。…ジャケットを羽織った紳士は、ロースト肉が美味しすぎると見え、上を向いて目を閉じているじゃありませんか!

さて。と、品書きを眺めるや、その圧倒的な品数にまず悩む。数えてみれば、前菜的なおつまみからパスタを経て、肉料理に至るまで約50品。これにデザートやチーズが加わる、という状況。しかも、残念なことに(!?)説明を聞けば聞くほど、すべて美味しそうなのです…。

イタリア各地で吸収した、郷土料理の数々をぜひ。

郷土固有の食文化が各地で色濃く根づくイタリア。地域ごとにパスタのカタチも郷土の味付けも、まるで異文化のように異なるそう。ゆえに、シェフの大貫浩一さんは、2005年から2008年まで約3年間を費やして、長靴型の半島を北から南まで移動しつつ働き、各地の食を吸収してきたのだとか。

まずはトスカーナ州で伝統的な郷土料理を覚えてから、ピエモンテ州のアルバに移動。家族経営のトラットリアで約1年働いた後は、サルディーニャ、フリウリ、プーリア、そしてマルケという具合に、イタリアの各地を転戦。そんなわけで、この店では、イタリア郷土のうまいもんと出会えるのです。

ブッラータのサラダ (1600円 ※写真は1皿を取り分けたハーフポーション) 大貫シェフが修行したプーリア州で、郷土料理にも多く使われるチーズ、ブッラータ。甘味の濃いトマトとの相性が抜群です。

この日にいただいた前菜は「ブッラータのサラダ」。「ブッラータ」とは、プーリア州の名物で、ちょうどモッツァレッラのようなフレッシュチーズ。口に含むと、まるで生クリームのような優しくて濃い味わいが舌を包み込みます。これを熟成したパルマの生ハム&トマトと一緒にいただくと、ハムの塩味とトマトの酸味、そしてチーズの甘くて濃厚な味わいが調和して、図らずもうっとり。


圧巻は手打ちパスタの数々。その種類は多いときで20種にも!

例えば「コルツェッティ」なら、タコを細かくミンチにしてトマトソースで味付けしたラグーで頂くのも美味。あるいは、クスクスをふた回りほど大きくした大きさの「フレーゴラ」は、エビやアサリや白身魚などの魚介と一緒に炊いて、わしわし食べるとこれまた絶品。

その他、トスカーナの名物で、うどんのようなロングパスタ「ピチ」は、ゼラチン質が溶け出した和牛スネ肉の煮込みソースで。……ごりごりしたパスタの力強い食感と小麦の香りを、こってりした肉のソースが追いかける様子を口の中で感じたりして、実に愉快。

写真左は茹でた鶏肉などを詰めることが多いというエミリアロマーニャ州のカペレッティ。右はピエモンテ州の郷土パスタ、アニョロッティ(右)。豚や牛、そしてウサギの肉などを詰めることが多いそう。小麦粉で練った皮に詰め物をするという考え方は、餃子と一緒。ピエモンテは肉料理のバリエーションだけでなく、パスタ料理も奥深い!

タコのラグーで煮込んだコルツェッティ
(1400円 ※写真は1皿を取り分けたハーフポーション)

噛むたびに香るパスタの小麦感と、トマトの酸味とタコのうま味が絡み合います。

魚介と一緒に炊き込んだフレーゴラ
(2200円 ※写真は1皿を取り分けたハーフポーション)

サルディーニャ版クスクスとも言われるこのパスタは、セモリナ粉と水を陶器の器でこすり合わせて粒状にして、乾燥させるパスタです。粒状なので、スープと一緒にスプーンでいただきます。

ピチ 和牛スネ肉のラグー
(1500円)

「ピチ」はトスカーナ州シエナ県発祥のロングパスタ。起源は古く、ローマ時代よりも古いエトルリア王国時代(紀元前8世紀)から食べられてきたパスタとも。ちなみに「小麦粉や塩などの分量も、実はうどんとほぼ一緒」だそう。

パスタにも「学び」があります。すべて手打ちで、長いの短いの、太いの細いの平たいの…そんな具合に郷土パスタは常時10種か、それ以上がズラリと揃っています。

円形の判子のような「スタンポ」という器具を使って作る「コルツェッティ」や、横しま模様のついたショートパスタ「ガルガネッリ」。そしてピエモンテの名物でもある「アニョロッティ」など、地方色豊か。それぞれの食べ方にも郷土性が表れるので、イタリアの郷土の知恵を、一皿ごとに吸収できたりもするのです。

とある料理専門誌が100人以上のシェフに対して2013年に行なったアンケートで、「いま使っている美味しい豚肉」として2位にランキングされた「岩中豚」。岩手県の岩手中央畜産が開発した銘柄ポークです。

目の前で展開される”加熱”の妙。的確に火が通された肉料理も名物です。

大貫さんが焼く肉も、実はすごい。写真でご覧頂いているのは「岩中豚の炭火焼き」(2,200円)。炭火で炙っては少し休ませるという工程を何度か繰り返して供されるそれは、オープン当初からの名物で、これを目当てに訪れるお客も少なくないそう。

ナイフを入れると押し返す挑戦的な弾力に血流が一気に早まり、柔らかく舌に吸い付くようなしっとりした焼き加減に瞳孔が開く……という具合。とにかく肉は、加熱に尽きる。どんなに希少な肉だって生焼けでは美味しくないし、どんなに高価な肉だって加熱しすぎれば食べられません。焼き目はクリスピーで、香ばしい香りが立ち上るのに、断面を眺めると、中心に近い部分がかすかにロゼ。冒頭の紳士が目を細めていたそのわけは、そんな巧みな加熱の技によって実現された味わいと、噛むたびに染み出し続ける肉汁だったのかもしれません。


シェフの大貫浩一さん。「Trattoria La Coccinella(ピアモンテ州アルバの名店)」、「Ristrante S' Apposentu(サルディニア島カリアリのミシュラン一つ星獲得店)」、「Ristrante Symposium(マルケ州ファーノのミシュラン一つ星獲得店)」などなど、イタリア各地で修行した後、2012年5月に「クオーレ アズーロ」をオープン。

“美味しい料理”でびっくりさせたい!それがこの店の”エンジン”です。

「雰囲気も、価格も、出来るだけカジュアルな酒場風。
そんな中で、ものすごい料理を出してびっくりさせたいんですよ」

居酒屋をやりたい!ということで料理の世界に足を踏み込んだ大貫シェフ。今の夢は、サルディーニャでアグリトゥーリズモ(リストランテ兼農家民宿)を営むことだそう。

「野菜はもちろんこと、豚や鶏や牛なども、すべて自分の農場で育てた食材を使って、リストランテと民宿をやりたいんですよね」場所をサルディーニャと決めているのは、修業時代に知り合った親友がいるからだとか。

最高品質と名高い、イタリアで育てられているオリーブ。

玉葱の岩塩ロースト (900円/2個) ひと皿注文してふたりでシェアなんてリクエストにも快く応えてくれます。

実はそのお友達が毎年冬になると送ってくれるという新もののオリーブオイルがこれまたすごい。草の香りをまとい、まるでジュースのような果実味のそれを舐めれば、脳味噌が黄緑色に染まるほどの芳しさ。その友人が、毎年自家用に作るという初物で、秋ごろに収穫されたオリーブが、オイルへと姿を変えてこの店に届くのは年末ごろ。使い切ったらおしまいなので、初夏までの期間限定です。

そんな具合にこの店は、なんというか”美味しいイタリア図鑑”。美味の理由や背景を五感で味わえば、店を後にする時分には心が総じて丸くなる。そんな大人の食育的ひと時が、あぁ楽しい! のです。

あ。こんなタイミングになってしまいましたが、ピエモンテ州の郷土料理、鶏レバーのパテを詰めた「玉葱の岩塩ロースト」(右上)です。迷った時にぜひ。


ここに行くならこんな服

「さりげないお洒落な大人カジュアル」がキーワード。

照明がやや暗めなムードのある店内。美味しい時間がより楽しくなる、明るい色柄ファッションが似合いそう! 暗めな店内でもキラッと輝くアクセサリーや、お気に入りの柄ものストール。派手かな?と尻込みしていたカラーパンツもここなら”さりげないお洒落”として楽しめますよ。 Buon appetito!


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小林 淳一

編集者。東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、主に食の分野で編集者として活躍。お酒を呑んで東北を応援するイベント「DRINK 4 TOHOKU」(http://www.drink4tohoku.com/)を開催している。

not 中華。but 中華。店主が繰り出す”自家製”を堪能!

未知の中国、食べさせます。


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