食べて「発見」。

not 中華。but 中華。店主が繰り出す”自家製”を堪能!

神楽坂 十六公厘(ジュウロクミリ)


Mar 19th, 2014

Text_Junichi Kobayashi
Photo_newyorker magazine

記録的な大雪に見舞われたここ東京も、なんだかそろそろ春かしら? と心を解せるようになりました。花がつぼみをほころばせるこの時期は、とにかくいろいろと”咲く”時期。
デスクを並べてタッグを組んだ戦友としばしの別れを惜しみながら思い出話に花が咲いたり。新たに加わるチームメイトと新しい信頼関係が芽生えたり。そんなかけがえのない友と肩を並べ、ビールジョッキを勢いよくぶつけ合いたいお店があります。例えばこの店。店主が2年間かけてようやく完成させたという、自家製の腸詰がめっぽう美味しく、なんてったってビールとの相性が衝撃的。ここはぜひとも冷えた黄金の麦汁が美味しくなる、この時期にご紹介したくって……。

SHOP DATE
十六公厘(ジュウロクミリ)

TEL:03-6457-5632
住所:東京都新宿区横寺町37 エムビル1F
営業時間:18:00~翌1:00
定休日:日祝
予約方法:お電話にて
アクセス:都営大江戸線 牛込神楽坂駅より徒歩1分(大久保通り沿い)
席数:約16席(テーブル席あり)
※あくまでも「お酒を楽しむ」お店ゆえ、お子様の入店はできません。あしからずご了承ください!

頑強な信念が生んだ腸詰にカラダがクネる!?

神楽坂の喧噪から、大久保通りを歩くこと約3分。どことなく秘密のBARっぽいこの店の名は「十六公厘」。「ジュウロクミリ」と読みますが、この名前、実は店一番の名物でもある「腸詰め」にちなんでいます。腸詰めを作る際に塊の豚肉を挽くわけですが、そのときに使うミンサーのプレートの穴の直径が「16mm」。

……そう、まさに腸詰無くしては始まらない店なのです。
16mmというとかなりの粗挽き。ミンチされたその豚肉が、同じく豚の腸に詰められ、しばしの熟成を経てから供されるこの腸詰は、噛み始めた瞬間に「ごろっ」とした肉の存在感を感じるや否や、絶妙な塩気とともに香りのいい脂が溶け出して、肉と脂のバランスがとにかく最高。

飲み込むまでの数十秒、八角の香りが鼻へと常にふわりと供給され続けます。肉のうま味が後を引く余韻も繊細なので、あごを動かしながら、図らずも目をつぶってしまいそう。着席した瞬間に注文して、何も味わっていないバージンの舌でご堪能いただきたい! のです。添えられるネギやニンニク、そしてパクチーや自家製の味噌と一緒に食べれば、これまた味わいが重層的で、ワインに合わせたいというお客さんも多いそう。

かけがえのない”戦友”とカウンターで肩を並べたい。

取材で訪れたのは土曜日の夜。
カウンターに目をやれば、ご近所さんらしい夫婦が、次々と注文しては「これはうまい、あれはうまい」と教えてくれる、なんてことも。どんなツマミも「小皿でいろいろ食べられるので、2人なら5皿ぐらい愉しめる」と奥様。
開店当初と比べると、一人で訪れる女性も増えたそうで、氷を浮かべた紹興酒に、鶏のキモの炒め物を従えて、『新しい市場のつくりかた』なんて単行本を読みながら、時おりマスターと会話を交わして楽しそうな女子も。

その向こうで、年配の女性と生ビールを乾杯している青年は、どうやら親子のよう。他のお客となんとなく声かけ合って溶け合いながら、自分たちの世界に戻っては、再びカウンターのマスターや肩を並べるお客さんと会話を楽しむ……。
そんな具合に店全体が溶け合って、居合わせたみんなの「美味しい!」が、いつしか自らの「美味しい!」になっている感覚を味わえるお店って、探そうと思っても、なかなかありません

「麺」もなければ「飯」もない中華飲み屋。

「中華料理店でも、ラーメン店でもない、中華なツマミで呑める飲み屋をやりたかった」 そう語るのは店主の佐藤 洋さん。 そのために「クセになる名物を模索した」というわけで、あらゆるソーセージを研究し、時には精肉店でバイトなどもしつつ、この味を完成させました。佐藤さんが思い描く「飲み屋」とは、純粋に料理とお酒を愉しむ店。なのでこの店は “中華” ではあるけれど「麺」もなければ「飯」もない。もちろん「時には〆の一品ぐらいは出そうか否かを迷う」とはいうものの、「麺を始めると途端にラーメン屋になってしまう。ビールと腸詰めのというパターンがしっくりくるので、ワインも置かない」と、ブレる “余白” は1ミリもありません。

「なんでもあるというのは、なんにもないのと一緒だよ」
昔お世話になったお客さんのそんな言葉を胸に刻み、ココロを鬼にしてお客様のニーズに応えない! そんな頑強さが実に頼もしかったりするのです。いい店だぁ。

自家製腸詰(800円)
注文を受けるや否や、天井から吊るされている腸詰をもぎ取って、油のたぎった中華鍋に放り込んで仕上げられます。腸詰め本体はもちろんのこと、調味料や味噌なども俄然自家製。「自家製の偏差値」なんてものがあるのなら、これは相当に高いはず。

鶏キモ炒め(600円)
生姜とネギの香りが口中を雪めぐった直後に、確かに舌に残る辛さはズシンとした重み。若干重たそうなこってりした色とはそぐわず、豆豉や醤油、そして腸詰めにも入れる味噌を少しだけ加えたりして、ほんのり甘味を帯びた味付けがなんとも優しく、本気でご飯を所望したくなるのがこのひと皿。……なのですが、その夢は、絶対に叶うことがありません!

砂肝ガーリック(600円)
ほとんどのお客が注文するというこのツマミは、とにかく薬味好きにはたまらない逸品。時々ニラが香ったり、唐辛子が辛かったり、ネギが香味を放ったり、ごまがやたら香ばしかったりと、とにもかくにもビール向き。薬味も、にんにくなど、空気に触れて嫌な香りが立ってしまうものに関しては、注文が入るたびに刻むという緻密さ。そういう細かいところがしっかりしているからこその味なんだよなぁ。

焼売(400円)
ブリッとした食感のこの焼売。フィリングの豚ひき肉は、腸詰めと同じ「16mm」のミンサーで2回挽くそう。「そうでないと肉のかたまりを食べているみたいに頑強な焼売になってしまうんですよ」とは佐藤さんの弁です。細かく刻まれたクワイが歯に当った瞬間に、「しゃくっ」と音が口の中で響いて、なんだかちょっぴり嬉しい気分になるこの感覚を、ぜひとも!


ここに行くならこんな服

「さりげないお洒落な大人カジュアル」がキーワード。

女性にも人気な中華な飲み屋。気軽に愉しみたいから、華美になりすぎない軽やかなスタイルが似合いそう。男性はシャツにブルゾンや、春らしいカラー。女性ならきちんと見えて楽ちんなニットジャケットもいいですね。そうそう、カウンター席は意外と足元が目立つんです。シューズやソックスのお洒落もお忘れなく!


Navigator
小林 淳一

編集者。東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、主に食の分野で編集者として活躍。お酒を呑んで東北を応援するイベント「DRINK 4 TOHOKU」(http://www.drink4tohoku.com/)を開催している。

拝啓。すべての”故郷不足”なみなさまへ。

イタリアの郷土の知恵の数々を味わいに、中目黒へ!


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