美人白書

Vol.04 草刈民代


Dec 26th, 2012

photo_ motohiko hasui (FEMME)
hair&make_toshihiro baba(takemura office)
stylist_atsuko saeki
text_mayumi shiina(rhino_inc)

第四回目のゲストは、36年の永きに渡るバレエ人生に別れをつげ、女優として新しい場に挑戦する草刈民代さん。意思の強い眼差しが見据える“美しさ”とは、また常に輝き続ける彼女の原動力は何なのか、お話を伺いました。

草刈民代さんが目指す、表現者の道とは

バレリーナとしての36年間とは…

全てのことが踊りからでないと、意味がなかった

ー36年間、続けたバレエ。出会ったきっかけは何だったのですか。

札幌オリンピックに出場した、ジャネット・リンというアメリカのフィギュアスケーターがいたのですが、彼女のスケーティングを見て踊ることに憧れました。その美しいスケーティングと、幼稚園の時にバレエのレッスンを体験したことが重なって、本格的にバレエを習いたい! という思いに繋がったのだと思います。小学校2年生になった時に母親にお願いして習わせてもらいました。

ーフィギュアスケートではなく、バレエを選んだのですね。

そうですね。そこでバレエを選んだのが、私の適正だったのだと思います。競技者になることよりも、表現者になることへの興味の方が、比重が大きかったのだと思います。

ジャネット・リン

1972年に開催された札幌オリンピックで、銅メダルを獲得したフィギュアスケーター。その愛くるしい笑顔から「札幌の恋人」「銀盤の妖精」と親しまれ、CMにも出演するなど、日本で大人気となった。

ー小さい頃から人前で踊ることが好きだったのですか。

小さい頃は、稽古ばかりで人前で踊った経験がないんです。人前で踊ることへの憧れとか、舞台の衣装に憧れるということはなかったですね。バレエを始めた当初から、「大人になったら”踊る人”になる」っていう意識を持っていて、自分が今、しているレッスンは、将来”踊れる大人”になるための過程だと思っていました。

ーチュチュやトウシューズに憧れて、踊りを始める人も多いかと思うのですが。

簡単に衣装を着られると思っていなかったし、トウシューズを履けるとも思っていませんでした。幼心に、私がなりたいバレリーナとは簡単になれないもの、と理解していたのでしょうね。

初舞台「くるみ割り人形」

草刈民代さん、小学校5年生。初舞台「くるみ割り人形」での一コマ。
「煌びやかな衣装への憧れはなく、”踊り”そのものに強く惹かれました」。

ーバレエを続けてきた、その原動力は何なのでしょう。

何なんでしょうね。そのことについての客観性はないに等しい。単に”踊りたい”という欲求なのだと思います。踊っていた時は、「踊りを通して何かをしたい。全てのことが踊りからでないと、意味がない」くらいに思っていました。でも、なぜ踊りだったのかは、自分では解らないんですけど。

ーまた踊りたいと思うことはありませんか。

もう無いですね。体が動かなくなった今、もう踊れませんので。だから辞めているわけですからね。今の私にとってバレエを「踊る」ことは過去のものとなってしまいました。

女優・草刈民代が目指すこと…

カタチの無いものをどれだけ表現するか

ーバレリーナを引退され、本格的に女優業をスタートされましたが。

バレリーナから女優になった理由は、 “女優”として表現する事に挑戦したかったからです。女優が挑戦することって、役柄をどれだけ表現できるかしかないと思います。でも女優というのは、バレリーナと違って対応できる仕事の幅が広い。出来ることは、なんでもやってみたいと思っています。

ー女優として憧れる方はいらっしゃいますか。

私は、表現することに、とことん挑戦している人に憧れます。女優で言えばメリル・ストリープ。彼女が主演した映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を見て圧倒されました。ご本人よりも、はるかに高い年齢の役を表現した、迫真の演技。彼女のような演技者こそ、女優であり、本当の意味での”表現者”だと思います。

メリル・ストリープ

アメリカ・ハリウッドの女優。元英国首相マーガレット・サッチャーを演じた、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」ではアカデミー賞をはじめ、3つの映画祭で主演女優賞を受賞した。

© 2011 Pathé Productions Limited, Channel Four Television Corporation and The British Film Institute

ー草刈さんが考える “表現”とは何なのでしょうか。

表現することは、無いものを形にしていくことだと思います。イメージを形にしていくこと。それって演技だけでなく、全てに言えることですよね。例えば、人に考えていることを伝えようとする行為だって、頭の中にあるイメージを”言葉”を使って形にしていくという”表現”の一つ。演技者でなくても、表現するということは同じことだと思います。

ー踊りが表現することも同じなのでしょうか。

人が踊りから感じることって、表面的なテクニックだけでなく、その人の中から溢れ出てくるものだと思うんです。どう努力しているか、どのように役を構築しているか、ということは自ずと踊りに出ます。人の日常も同じだと思います。良くも悪くも知らぬうちに何かを感じさせてしまいますよね。

美しい体型を維持するために…

バレリーナの体は楽器と同じ。

ー美しい体型を維持されていますが、秘訣はあるのでしょうか。

バレリーナの体は、音楽家にとっての楽器みたいなものですから、私みたいに仕事で体をつくってきた者は一般的な考え方とは違う部分があると思います。踊っていた時は、体の機能を維持するためにかなり努力をしました。美しさというのは自分がどうありたいか、何をしたいかということに由来することだと思います。

ー写真集でも、美しい体を披露されていましたが、今でもエクササイズをされているのでしょうか。

ドラマや映画の仕事が忙しくて、ここ数ヶ月エクササイズをしてないんです。でも、本気で若さや美しさを保とうと思ったら、自分を律してエクササイズしたり、美しくいることに、意識を向けていないとダメだと思います。私は来年48歳になります。若さや美しさを保つためには、努力をしないといけないんだな、と思うことがありますね。やはり、若々しさを保っている人は、それなりの努力をしていると思います。

写真集「INTRINSIC」

「この写真集は、今までの経験が土台になって創れたものです。踊っていた時には発揮していなかった個性が表れていると思います」と草刈さんが語る新作写真集。こちらは自然豊かな鹿児島県志布志市で撮影された、印象的な一枚。

ー美しくあるためには強い意志が大切なのですね。

最近”美魔女”などが流行っていますが、若さを保つために徹底的にエクササイズをするって、簡単に出来ることではないので尊敬します。でも彼女達は、尊敬されることと、批判されることの両極を背負うことになると思うんですね。「そこまでやって何になるの?」ということと、「そこまでやっているから、若いよね!」ということ。体型を維持するためのモチベーションって人それぞれ違うので、どちらが正しいということはないと思います。結局、自分自身の納得の問題でしかないですからね。

今興味があることとは。

素材にこだわった料理

ー今興味のあること、はまっていることはありますか。

仕事が一段落したので、家事をすることに時間を費やしています。時間がある時は、素材にこだわって、ダシやスープの素を作っています。ドラマの撮影に入っていた期間は、ゆっくり料理する時間がなく、つい外食で済ますことが多かったので、その反動ですね。

ー撮影の現場などで、食事管理することは難しいのではないですか。

スケジュールがぎちぎちに入っていると、食事に時間が取れないこともあります。そういう時は、あるものを食べなくてはなりませんし、体もかなり消耗させてしまいます。踊っていた時は、海外公演の時も、なるべく和食のレストランを探して、基本的な食生活は変えないように気をつけていました。

ーずっと食事に気を使ってこられたのですね。

20代の頃は食の大切さを理解していませんでした。でも大ケガを経験しまして。それを切っかけに食の大切さに気がつきました。単に病院に通って、体を治療するだけでは治らなくて、普段の食生活から見直さないといけなかったので、色々と勉強しました。

ファッションとは

意志がなくても、表現されてしまうもの

ー草刈さんとファッションの出会いはいつですか。

洋服は昔から好きだったのですが、「Shall we ダンス?」に出演するまでは今ほどの興味はなかったですね。何を着るか?ということを、さほど気にしていませんでした。踊りさえ踊れればいい! というくらい、踊りのことしか考えていなかったのです。映画出演を機に世間に知られるようになり、ファション雑誌にも出るようになりました。ファッションへの興味はそこから始まったと言えるかもしれません。

ーバレリーナ時代はどのような洋服を着ていたのですか。

20代の頃から30代の半ばまで、「人が着ないもの」に惹かれて、好んで着ていました。例えば原色の物とか個性的な物とか。でも、そういった洋服は何回も着なかったですけどね。取っ替え、引っ替え、色んな洋服を楽しんでいた時期でした。今は、シンプルな洋服を好んで着ています。色んな洋服を着たことで、自分に似合うもの、好きなものがはっきりわかってきたのかもしれません。

ー年齢によって、考え方が変わったのですね。

若い時は先に進むこととか、何をするかということに追われてしまいがちだと思うんです。そんな時期を過ぎると、自分が手に取るものに対して、どれくらい納得しているかが重要になってくる。納得したものを選ぶことで、自分の個性が良い形で現れると思います。

ーファッションは個性を表すものということですね。

自己を表すというか、意志がなくても表現されてしまうものだと思います。踊りもそうですが、どれだけ取り繕おうとしても取り繕えない。本当の自分というものがどうしても出てしまう。女性は特に”何処に何を着ていく”みたいなことで、表現されることがあると思うんですね。仕事を大事に考えるのであれば、仕事場に何を着ていくかということも重要だと思います。
そういった意味で、洋服って疎かにしてはいけないものですよね。自分が気に入ったもの、納得したものを着ること。そうすることで、余裕と落ち着きが生まれると思います。

美しさとは…

欲求のままに生きる、素直さ。

ー美人白書のタイトルにちなんで伺いたいのですが、 “美しさ”とは何だと思いますか。

言葉にするのは、凄く難しいのですが、”素直さ”でしょうか。素直さって色んな側面があると思うのですが、自分に素直というか、欲求のままに生きている、というか。そういう人を見ると美しいなと思います。追求の仕方は人によって違うと思いますが、”素直な人”って自分の在り方とか、どうあったら心地良いかを追求する人だと思います。

ー年齢によって”美しさ”って違うものなのでしょうか。

若い人の美しさと、歳を重ねた人の美しさって、種類が違うかもしれませんが、綺麗だなって思う人はどこか一貫していて、どこかに”ありのまま”が見える人。まだ模索中の若い人でも、真剣に何かを模索しようとしている姿や、あまりバリアの無い様子を美しいと思います。


最後に草刈さんから
“美しくなるためのメッセージ”

何に対しても疎かにしないこと。疎かにしている部分って何かしら、外に出るものなので。特に自分がやることに関しては、一つ一つを大事にしていこうという意識があります。年齢に応じて考えることは違うと思うので、歳を重ねるごとに大切にしていきたいですね。

INTRINSIC

草刈民代写真集『INTRINSIC』

衝撃の初写真集『BALLERINE 』から2年半。 女優として再誕した草刈民代が今、放つのは、ボンテージファッションを纏う鋭利な眼光、神話伝わる地で魅せる静謐な抒情の時、解放されたしなやかな身体と精神――。今だからこそ可能な大胆かつ 妖美な表現に満ちた、前作を凌ぐ意欲作。撮影は、数々の国内外の広告や雑誌でカバーフォトを手がける下村一喜。

周防正行監督撮影映像を含む「メイキングDVD」付き。
※ 草刈民代写真集「INTRINSIC」の予告動画を以下のURLにて配信中
http://www.youtube.com/playlist?list=PLF395D716901CFB3B&feature=plcp
(TOP COATグループ You Tube オフィシャルチャンネル)

(TOP着用分)
ニットシャツパンツ

今月の美人
草刈 民代

1965年、東京都生まれ。8歳からバレエを始め、牧阿佐 美バレエ団に参加。18 歳で主役デビュー。以降、同バレエ団の主役を多く務める。また、バレリーナとして数々 の賞を受賞。同時に"華のあるバレリーナ" として注目 を集め、T V C Mや 雑誌映画にも出演。'96 年に映画「shall weダンス?」( 周防正行監督)に出演し、日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞など数々の賞を受賞。日本を代表する プリマバレリーナとして、国内外の舞台で活躍した後、 女優に転向。 舞台、ドラマ、映画で主演を務めるなど、 様々なジャンルで勢力的に活躍している

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