鋭い観察眼で自分の道をつき進む、
福田彩乃さんの美の秘訣
賞金100万円の見出しに惹かれ、1クリックで応募。
――デビューしたのが’09年。その前は何をしていたんですか?
高校卒業して最初にしたのは、スーパーの精肉店でのアルバイトです。毎日早朝からまるごと一羽の鶏をさばいては陳列していました(笑)。仕事自体は楽しかったんですが、当時10代の年頃の女の子だったので、美容にも興味が出てきて、その後エステティシャンになったりと転々といろいろな仕事をしていました。で、20歳のころにある会社の派遣社員に落ち着いていたんです。
――それがまたどうしてモノマネの道に?
’08年のリーマンショックの翌年、”派遣切り”に遭い、それで、さぁどうしよう、と。
――そこで選択肢に入ってきたのですね。
たまたま見つけた募集サイトのオーディションの見出しが「優勝者には賞金100万円」だったんです。今は収入もないし、100万円あったら1年くらい暮らせるのかなと。まさか受賞できるとは思っていなかったので、勢いで締め切り当日に申し込んだんです。
――締め切り当日に?
サイトを見つけたのが、偶然締め切り日だったんです。応募部門は、役者部門、アーティスト部門、バラエティ部門と3つあったのですが、年齢制限や、デモテープが必要だったりと準備する時間もなく、消去法でバラエティ部門に。特に何がしたい、とか何かができるわけでもなかったのですが。
――オーディションでは何を?
以前から動物の鳴き声のモノマネはしていたので、それを披露して、あとは派遣時代の上司のモノマネ(笑)。まったく誰にも伝わらず、審査員もキョトンとしていましたね。結果、優勝はできなかったのですが、部門賞をいただいて、この世界に入ることになりました。いただいた賞金は15万円でした(笑)。
「動物が鳴くから私も鳴く」。これがモノマネの始まり。
――人前で最初にモノマネをしたのはいつからですか?
うーん……記憶にないですね。披露するというのは、この世界に入ってからかもしれません。それまでは、特にモノマネをしているという感覚があまりなく、動物の鳴き声とかも反射的にやってる感じで、「むこうが鳴いたらこっちも鳴く」みたいな。
――それは、どういうことですか?
変わった音とか、独特の声が耳に入ってくると誰かいようといまいとマネしたい!という衝動に駆られるんです。「その音、私も出せるかな」「その音を出すにはどういう風に喉を使ったらいいんだろう」っていう単純な好奇心ですね。
――てっきり小学校のときから~のような答えかと思っていました。
いえいえ。この世界に入るまでは、人前に出るようなステージ上に立ったこともなかったです。でも、動物だったり人の声をマネしたときに、隣にいる人がちょっとびっくりしたり、笑ってくれたりとか、そういう空気感は好きでしたね。「ただいま」の代わりに猫の鳴き声で家に入ると、母親が台所で手を動かしながらもちょっと笑ってる、みたいな光景でした。
――サプライズ好きなんですかね?
そうかもしれません。なんかこう、こっちが仕掛けたことで驚きとか笑いが生まれて、今まで安定していた心拍数がちょっとずれて揺れる感じ……が好きなんです。
――驚いたときに心拍数がずれるって思ったことなかったです。
そうですよね(笑)。そういう相手の反応が嬉しいし、観察するのも好きですね。例えば「眠いときに笑わせるとイラつきながら、でもちょっと笑うんだ」とか「イラつきながら笑うとこんな表情になるんだ」とか。自分のなかにいろいろなパターンのストックをつくっていたのですが、その観察がモノマネのベースになっているのかもしれません。
自分が本気で思い込むと、不思議とどんどん似ていくんです。
――相当細かいところまで見るんですね。
当時は無意識でしたけどね。ドラマとか映画を見てても、好きな女優さんが出ていると、ストーリーよりもしゃべり方とか息遣い、表情が気になって仕方ないんです。少しでも近づきたいという憧れの気持ちが強いからだと思うんですけど、「どういう息の使いかたをしてるんだろう? どのタイミングで唾を飲んでるの? 喉の骨の下げ方は? 表情筋のどこに特徴があるんだろう、手の動かし方は……」って延々と見てしまうんです。
――そうやってひとつのモノマネが完成するんですね。
もちろんその人ごとに仕上がる過程は違いますけど、まずは完コピを目指して、細かく細かく見ていきます。ただ、完コピだけじゃ笑いは生まれないので、そこにプラスαの要素を足すのですが、そこが個性の出しどころだと思うんですよね。どのセリフを選ぶのか、どんなエッセンスを入れるのか、αの部分に何を込めるかにセンスが出ますし、常に模索し、こだわらないといけない所だと思っています。
――セリフ選びはどうやってしているのですか?
映画とかドラマのなかからマネをする場合は、不思議と何回見ても同じセリフで「これやりたい!」って思うんです。たとえば、綾瀬さんだったら、ドラマ「JIN -仁-」のなかの「コロリでございます」というシーン。まず聴き慣れない「コロリ」が印象に残ってあとは綾瀬さんの鬼気迫る表情にとてもグっときて「ここだ!」と思いました。他に「産婆でございます!!」と言うあのシーン。見た瞬間にビビビっときて耳に残りました。あの時代、偉い人が通るときは、道を開けて頭を下げて通り過ぎるのを待たなきゃいけないのに、その決まりを破って駆け抜けていくときのあの表情と言い方、走り方、すべてが気になって何度見ても「ここだ」と思いましたね。
――最初にモノマネを見たときよりも顔も似てきたような……
それはすごく不思議だと思います。もちろん髪型や衣装、メイクの力もありますが、大事なのは自分に本気で「思い込ませること」なんじゃないですかね。私、ひとりの人にハマるとプライベートでもメイクを似せたり、24時間体制でその人のことを意識するんですね。
――そうすると、だんだん近づいてきますか?
はい。もしかしたら骨格まで変化してるんじゃないか、と思うときもあります。もちろん科学的な根拠はないんですけど(笑)。モノマネするときは瞬時にその顔の筋肉とか骨格のスイッチを切り替えていく感じです。
――思い込むと似ていく、というのは分かる気がします。
長澤さんのモノマネに集中していたときは、眉毛がナチュラルに生えてきたりするんですよ、本当に。
――衝撃です!
鏡の前で思い込みながら練習すると、その思い込みが鏡に映って錯覚させてくれるという相乗効果がありますよね。練習すればするほど、どんどん思い込みも強くなって似てくるのかもしれませんね。
声や表情には情報が満載。人間観察は飽きません。
――プライベートでも人間観察はしますか?
はい、やっぱり自然に見ちゃいますね。女性は特に。肌の状態から歯並びまで(笑)、その人の話し方とか声にもすごく情報が含まれているので、とにかく観て、聞いて、いいなと思ったら「何がいいんだろう」と考えて「これだ!」という自分なりの答えを探します。
――逆にちょっとチクっとした視点で見ることもありますか?
ありますあります。私自身が自分のことをチクチクっとした目で見てるので。たとえば、エスカレーターでは、前に女性が立ったときなど、すかさず見てしまいますね。O脚の人がこれくらいの膝上スカートだと脚長効果があるんだなとか、ヒールの高さがこれくらいで靴下を履くと足首のくびれが見えなくなっちゃうんだな、とか無限にあるパターンをインプットしていきます。
――そんなに?!(笑)
自分もいろいろとコンプレックスがあるので、人が自分のコンプレックスをファッションでどう隠しているんだろう、あるいはどうやってコンプレックスを活かして個性として素敵に見せてるんだろう、とかそういうところにすごく興味があるんです。
――福田さんに後ろに立たれるの怖いです……。
私も自分の後ろに私がいたら怖いです(笑)。エスカレーターもそうですが、写真を撮るときなどもなるべく人の前に立ちたくないんですよね。私が人を見るときのような目線で見られているかと思うとドキドキして。
――ご自身はどんなコンプレックスが?
私は背が低いことですかね。ただ、この仕事ではそれが生かされる場合もあって、着物を着てモノマネをするときも、小柄な人がちょっとダボついた着物を着ていると、それはそれで”おかしみ”につながることもあって武器にも成り得るのです。普段の収録のときは、ちょっとふくらはぎに力を入れたり、フラットシューズのときはつま先立ちしたり、見えないところでなんとか1cmでも!というささやかな努力はしています。
「大人の私」を自分が見たくなったんです。
――最近では役者にも挑戦しているのだとか。
はい。バラエティでは「福田彩乃」としてモノマネをしたりリアクションをとったり、コメントをしたりするのですが、お芝居は自分とはまったく違う架空の人物に憑依して魂を入れて表現するので、バラエティとはまた違う楽しさとか刺激、課題をたくさんもらっています。
――変化のときですね。
デビューしてからこれまですごくバタバタとしてきて、それはとてもありがたいことではあったのですが、いろいろな人に知ってもらいたいという思いが先行していたり、焦りもあったりで目線が常に外に向かっていたんですね。今やっとゆっくり考え事をしたり、体調や心の状態を見ることができて、ようやく自分の目が内側を向いた、というか。働くことで学べることもたくさんありますが、休息中に吸収できることもあるなと感じています。
――吸収のためにしていることはありますか?
今は絵や車など趣味の時間もつくるようにしています。あと、とにかくいろいろな方と食事に行ったり飲みに行ったりして、さまざまな人生観や仕事への向き合い方を教えていただいて、勉強させてもらっています。自分探しの時期だからこそ、出会うべき人に出会えている気もします。
――今後どんな自分を出していきたいですか?
20代前半は、テレビでも雑誌でも笑っている表情の自分を出すことが多かったのですが、25歳になってこれまでとは違う「新しい自分」を自分自身が見たくなったんですよね。女性らしい表情やしぐさなど、大人の女性としての部分を見つけていきたいと思っています。
――コントロールして引き出すのは難しそうですよね。
「私にもこんな表情があったんだ」と発見していくという感じでしょうか。そういう表情が撮れたときの筋肉の使い方とかそのときの気持ちを覚えていて、その顔をいつでも引き出せることが大事かと。今日の撮影も私にとってはすごく勇気のいる表情だったんですけど、いつもと違う雰囲気で撮っていただきたいなと思って。ファッションが際立つように、落ち着いた感じで引き立て役になるように意識してみたんです。
――すごく新鮮な表情です。最後に、ご自身のファッションについてお聞かせください。
仕事ではスタイリストさんからいろいろ提案もしていただき、新しい色やデザインに挑戦することもありますが、プライベートは、すごく地味なんです(笑)。服でオンオフのスイッチを切り替えているので、オフのときはファッションも完全にオフでして……。ほとんど黒ばかりを着ています。しかも無地。
――黒で無地、のイメージはないですね。
柄が入っていると、洋服が生きて動いているような感じがして、私もつい「元気に!明るく!」みたいなスイッチが入っちゃうんですよね。ただ、さきほどもお話したように大人の女性らしさ、みたいなものが今のキーワードなので、プライベートのファッションでも大人っぽいアイテムを着てみたいです。また今日から大人観察に励みます(笑)。
最後に福田 彩乃さんから
“美しくなるためのメッセージ”
今は、本当にやりたいこと、やるべきことに向かって自分探しをする期間。先輩の生き方を見て、話を吸収することも次の自分につながる大事なことだと思っています。素敵な人を見つけたら、表情、しぐさ、声、話し方、何が魅力的なのか目を使って、耳を澄まして、とことん観察します。