美人白書

Vol.15 黒田 知永子


Nov 27th, 2013

photo_daisuke araki
stylist_atsuko saeki
hair&make_moe kogure
text_noriko oba

雑誌『JJ』モデル時代からの美しさはもちろん、年齢を重ねてさらに魅力を増している黒田知永子さん。「あんな女性になりたい」と同性からの憧れの声も多い彼女の美しさの秘訣について、またこれまで歩んできたファッション遍歴についてもたっぷりお伺いしました。

自然体で自由、黒田さんの美の秘訣

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がんばって買い物したこともいい勉強に。

――今日の撮影、すごい速さで終わりましたね。

いつも撮影は早いんですよ。スタッフみんなでわっと集中して、”よし、これでいいね”って一気に力を抜くのが好きです。せっかちだからということもありますが。

――最初にハマったファッションは何でしたか?

高校生の頃は、”フクゾー”のトレーナーにパンタロンを合わせて、”ミハマ”の靴とか履いてました。ハマトラ全盛期ですね(笑)。電車に乗ってトレーナーを買いに横浜まで……って今じゃ考えられないバイタリティ。そのあとにトラッドのブームがあって。”ニューヨーカー”のニットブレザーすごく流行りましたし、持っていました。

――モデルの仕事を始められたのが大学生のときでしたよね。

人に誘われてモデルの仕事を始めたのもこの頃ですが、最初はもちろん露出も少なかったので、授業のない日や夏休みに撮影したり、という感じでなんとなくスタートしたんです。モデル仲間も大学生が多かったので、学校にいるような和気あいあいとした雰囲気で楽しかったです。が、けっこう人見知りもするので、最初のうちは借りてきた猫状態でまわりの様子を観察しながら少しずつ打ち解けていく感じでしたけど。

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――20代ではどんなファッションが好きでしたか。

20代の頃はイタリアブランドのファッションが全盛期で私も夢中でした。その頃は、今の人たちのように身の丈に合ったものを着るというよりも、「ぜったい欲しい!」と思うものにがんばってがんばって手を伸ばす、みたいな時代だったの。海外ブランドが本当にかわいくて新鮮でウキウキの時代で、何度も吟味して、試着して、コーディネートも考えてから「よし!」って買っていました。

――失敗しないのはすごいですね。

まれに頭の中では完璧!と思っていたコーディネートが「思っていたほど合わない……」ということはありますが、それも何年後かに突然「あの服に合う!」と復活させたり、最終的には「やっぱり買ってよかった」のところまで持ち込みます(笑)。

――そして30代には、大きな変化があったとか。

パンツスタイルが劇的に増えました。それはやっぱり子供を育てていたことが大きいかな。子育てをしながら、服は一気にカジュアルな方向に変わりましたね。きれいな恰好しながら子供抱いて、というのがなんとなく不便だったので、どこでも座れて、かがめて、が先決。ジーンズがカジュアルファッションとしての市民権を得たということも大きかったですね。それまでは、ジーンズで素敵な場所に行くなんて、考えられなかったからね。

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気分もイメージも変えるには髪型を変えるのが近道。

――今ではトレードマークのショートヘアですが、20年以上ロングだったのを切ったのが37歳のときなんですよね。

単純にイメージを変えたかったんです。イメージを変えると言っても、顔は変わらないし、体型や洋服の好みだって一夜にして変えるのはなかなか難しいでしょ。髪型を変えるのが、気分転換にもイメージチェンジにもいちばん早いかなと思って。その頃は、雑誌の表紙を終えた時期だったので、”今がチャンス!”と迷いなくバッサリ。

――切ってみて、どうでしたか?

私の髪はまず量がものすごく多くて、そしてクセっ毛というロング泣かせの髪質だったので、ショートにしてなんてラクなの!と感動。ことのほか好評だったこともうれしかったですね。ロングのときは、ドライヤーをかけるにも、カールをつくるにもあまりの量に汗をかくほどでしたし、ポニーテールなんかした日には、この毛束はいったい何?っていう(笑)。このラクさを知ってしまったが最後、もう二度と伸ばせないんじゃないかな。いやぁ、あの大変さには戻りたくないな。

――ファッションにも変化がありましたか。

髪がロングのときは、フェミニンさが全面に出るような甘いテイストの洋服は避けていたんです。ジャケットにパンツ、のような細身のスタイルが多かったです。ロングヘアでフリルやリボンだと甘くなりすぎちゃうでしょ、それだと自分の性格や内面とのギャップがある気がして(笑)。でも、ショートにしてからは、甘めテイストを着ても行き過ぎにならず、バランスが取れるようになりましたね。30代後半でショートにして、40歳のときにピアスを開けました。このふたつがその後のファッションの楽しみを広げてくれましたね。

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痩せるのもコントロールするのも大変、太るのだけがラク(笑)。

――モデルを始めてから体型に変化はないですか?

とんでもない!年齢を重ねると体もね、いつの間にかゆるゆるしてきちゃうんですよ。子どもを産んだ頃は、あー太っちゃったなぁとか思っていましたが、今その頃履いていたスカートを見ると”細ッ!”と自分でもびっくりします。このなかに腸とか胃とか全部収まってたの?!って(笑)。

――普段、どんなエクササイズをしているのでしょうか。

イケないんだろうな、とは思いながら何もしていません。一時はジムに通って、ランニングや筋トレとかを一生懸命やっていたこともあるのですが、やっぱり性格的に怠惰で面倒くさがりなんですよね、続かないんです。唯一は、犬のお散歩を毎日20~30分することがエクササイズ代わりでしょうか。たまにテレビを見てて、突然”ハッ”とか思って腹筋したりするのですが、まぁそんな1日でどうなるものでもなく……。

――昔からダイエットとは無縁?!

若い頃はね、ちょっと痩せたいなと思ったらその日の夜控えめにするとか、それだけですぐ体重を戻せたりができたの。だからちょっと気を付ければすぐ戻せるから、なんて油断してたんですね。やっぱり中高年になると、だんだんコントロールが難しくなるんですよ。それに、一気に体重を減らしたりすると、シワができちゃったりして、老け込んだ感じになることもあるでしょう? きれいに痩せるのも大変、コントロールするのも大変、太るのだけが簡単、っていうね(笑)。

――食事に関してはどうでしょうか。

ある程度の年齢になったら、あまり太らないように、今を維持するっていうことがいちばん大事なのかもしれないですね。ささやかな努力と言えば、毎日夜、お風呂に入る前に体重計に乗るのだけは、日課にしています。一日のなかで一番重たいところで乗って”まーたこんなに食べちゃって”とか思いながら、翌日の食事に気を付けたり、その都度調整していく感じですね。外食が続いたなと思ったら、お米を抜いておかずだけにしたり。お米大好きなので、美味しい塩昆布やお漬物、明太子はご飯が食べたくなってキケン!!って地味にひとりで闘っています。

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ご縁を大事に流れに身を任せること。

――モデルの仕事に復帰したのが34歳のときでしたね。

10年近いブランクを経てモデルの仕事に復帰したことは、転機だったと思います。そのときは専業主婦でしたが、仕事を再開することはまったく考えていなかったんです。たまたま『JJ』のときにお世話になっていた編集者の方から”主婦に向けたファッション誌を創刊するからやってみない?”と声をかけてもらって。主婦を対象にしたファッション雑誌なんて当時はなかったので、興味がありましたし、自分もいち主婦の立場として等身大でできるかもしれない、と引き受けることに。

――10年ぶりの復帰は勇気がいりそうです。

昔も今もそうですが、積極的なタイプではないかも。だからこそ、自分のところにやってきた流れには積極的に乗るようにしています。その流れは、人とのご縁からやってくることがほとんどなので、”ご縁”はとても大事。

――流れに乗る身軽さも大事にしているのですか?

うーん。特に「身軽でいよう」と決めているわけではないのですが……。「これはしない」「こうでありたい」みたいな明確な定義はないんです。毎回ジャッジはしていると思うんですけど、言葉や文章にするような自分のなかのルールはないですね。というか言葉にしずらい!

――これから先やってみたいことは何でしょう?

これから先のこととなると、やってみたいこと、チャレンジしたいことよりも、いつまでこの仕事を続けていられるかなと考えたりもします。が、結局のところ”どうなっていくかなんて分からないし、そもそも考えても仕方ないことだし、元気でいればなんとかなるかな”と(笑)。

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ご機嫌でいるには、自分のいる“場”をひとつにしないこと。

――オフの日は何をしているのでしょうか。

好きな音楽をかけて、ソファに横になりながらずーっと本を読んでます。これぞ至福のとき。誰にも会う予定がないなんて日は、お昼からビールを飲んでまったり過ごしたりも(笑)。こんなにゆっくりした時間が過ごせる日がくるなんて、子育てでてんやわんやのときには考えられなかった。娘とはいろいろな話をしますが、今年から社会人になったので、会社での出来事をおもしろおかしく話してくれるのを聞くのが楽しくて。「ママにこの話したっけ?」と話し始めるエピソードに爆笑しながら聞いています。

――落ち込んだときの特効薬は何かありますか?

やっぱりいちばんは時間が解決してくれるんじゃないかな。そして”考えても仕方ないことは忘れる”ように努力しています。以前は、気になることがあると夜中に目が覚めたりして、「あ~時間を巻き戻したい!」なんて唸っていたこともあるのですが、ずっとそのことを考えているあの感覚って本当に嫌ですよね? そういうときはなるべく外に出ます。友達とごはんを食べに行って笑って過ごすうちに「まぁいっか」と思えるようになっていたりしますからね。

――なんとなく落ち込んでるなって分かったりも?

いや、それはないかな。大人になると漫画みたいにザザーン、って顔に縦スジが入って「私、今落ち込んでます……」みたいな分かりやすい人っていないでしょ?特に悩みについて話すわけでも話したいわけでもなく、笑ってくだらない話をするだけで食事が終わる頃には、あぁちょっと回復してるな、と思えるので。

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――毎日機嫌よく過ごせる秘訣は何でしょう?

いろんなカテゴリーの仲間をもつことは、息詰まらないためにも大切な気がします。自分のいる場所が”ひとつだけ”になってしまうとそこが自分の世界のすべてになってしまうし、ひとつの失敗がいつまでも尾を引いてしまうんですよね。家庭、お稽古ごと、仕事、学生時代の友人、とかいくつか自分の居場所をもっていることは、抜け道になるし、自分を助けてくれる気がします。あ、私のカテゴリーのなかには、”ペットとの時間”というのもあるんですよ。猫と犬にいろんな話を聞いてもらってますし、誰が何と言おうが、「会話してるの!」と言い切っています。

――カテゴリーをたくさんもつことは大人にも子供にも大事ですね。

家で娘とケンカしてご機嫌斜めで家を出ても、仕事に行ったら、帰るときにはもうルンルン♪してたり、場所と人が変わると気分も変わりますよね。反対に、何か嫌なことを言われて「ガーン……」と落ち込んだり、不機嫌モード全開になる、なんて逆パターンもありますが(笑)。いろんな”場”をもつことは人生の楽しみも幅も広げてくれるし、悩みも軽くしてくれるように思います。


最後に黒田 知永子さんから
“美しくなるためのメッセージ”

物事に対して「こうするべき」って自分に課したり、言葉にして決めないようにしています。決断はそのときそのときの自分の判断でいいと思うのです。もし失敗しても、こうしたら失敗するんだってことが分かっただけでもよかった、と捉えるにしています。あとは、考え過ぎず、楽しくごはんを食べること!私食べものの好き嫌いはひとつもないんですよ。


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今月の美人
黒田 知永子

1961年6月3日生まれ。東京都出身。成城学園大学短期大学部卒業。大学1年生の頃にスカウトされ、モデルの仕事をスタート。『JJ』の専属モデルとして、人気を博す。その後、子育てのため引退し、モデル活動を休止。2002年、雑誌『VERY』の創刊と同時に復帰する。現在は、『éclat』の表紙キャラクターとして活躍する傍ら、女優として映画やドラマに出演したり、バラエティにも出演するなど、幅広く活動している。ライフスタイルやファッションセンスなど、同性からの支持も高く著書も多数。『チコ・バイブル』(ワニ文庫)『黒田知永子 そろそろ着物で美しい私』(集英社)など。

Vol.16 福田 彩乃

Vol.14 杉山 愛


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