美人白書

Vol.43 原田知世


May 25th, 2016

photo_ari takagi
hair & makeup_takeharu kobayashi
styling_eriko suzuki
text_noriko oba
edit_rhino inc.

前回の「恋愛小説」に続き、ラブ・ソング・カヴァー・アルバム「恋愛小説2〜若葉のころ」を発売した原田知世さん。1枚で原田さんのさまざまな表現を堪能できると話題です。そんなアルバムや音楽についての想い、また人生で起きた変化についてお伺いします。インタビューにこたえてくれる原田さんの声は、軽やかで、やわらかくて、まるで歌を聴いているかのように心地よいものでした。

たおやかに揺れる風。
原田知世さんの美の秘訣

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誰に聴かせるわけでもなく、歌うことが楽しくて仕方なかった。

――前回、英語詞でのカバー集『恋愛小説』から一転、今回は全編邦楽曲で構成されていますが、このアルバムをつくることになったきっかけについて教えてください。

去年、伊藤ゴローさんのプロデュースで、洋楽のカバー曲を集めて『恋愛小説』をつくったのですが、それが自分でも大好きなアルバムになりました。

このときのメンバーは、2014年に出したアルバム『noon moon』のときと変わらないのですが、彼らとレコーディングをして、ツアーをまわって、フェスにもいくつか出て、と時間を一緒に過ごしているうちにいいチームワークができて。その流れで自然に「同じシリーズで邦楽編をつくろう」となりました。それが去年の秋くらい。そこから今まであっという間でしたね。

――選曲も幅広いですよね。歌って欲しかった!と思う曲から、意外性のある男性の曲など、どのように選んだのでしょう。

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邦楽のカバーといっても、本当に名曲がたくさんあるので、ある程度時代をしぼろうってなったときに、レコード会社の方から「原田さんが少女時代に聴いていた曲を集めるはどうでしょう」と、ご提案いただいて。それで私が個人的に大好きだった曲と、伊藤ゴローさんやスタッフからの「これは合うと思う」とすすめてくれた曲で構成しました。

――デビューというと15歳ごろですね。特によく歌っていた曲は何ですか?

久保田早紀さんの『異邦人』ですね。この曲は人生でいちばん、たくさん歌った曲かもしれません(笑)。発表された当時は、テレビの歌番組が全盛期で私も毎週欠かさず見ていましたが、そのなかでも久保田早紀さんの存在は、ほかの人とちょっと違っていてすごく心に響いたんですね。ふたつ上の姉と一緒に毎日、何回も何回も繰り返し歌っていました。あのころは、誰に聴かせるわけでもなく、ただただ姉と歌う時間が無性に楽しかったんですよね。

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たくさんの発見があったレコーディング

――実際にレコーディングをしてみてどうでしたか?

自分でも驚いたのですが、録音を聴くと当時家で歌っていたころの歌い方そのままでした。同時に、あのときの歌うことが楽しくて仕方なかった気持ちも蘇ってきたんです。

――すごく伸びやかな声が気持ちよかったです。

そう、自分でも思いました。ああ、のびのびと生き生きと歌ってるなぁって。

――前の曲「年下の男の子」から「異邦人」の流れもおもしろかったです。ガラッと歌い方も雰囲気も変わりますよね。

年代的には私はピンクレディーで、キャンディーズは少し上の世代なのですが、すごくかわいらしい曲で大好きだったんです。アルバムのなかに遊び心のある曲を入れたかったこともあり、この曲をリクエストしました。

――当時の名曲を改めて歌ってみて、印象に残った歌詞の言葉はありますか?

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そうですね、どれも付き合いの長い曲ばかりなんですけれど、子どものときは意味を深く考えることもなく歌っていたので(笑)、改めて「こんな歌詞だったんだ!」って感動したり、感慨深く頷いたりしましたよ。1曲目に収録している竹内まりやさんの「September」も、ポップなメロディとサビが印象的で、まさかあんなに切ない歌だったとは知らず、改めてそのギャップも魅力だと感じました。

「木綿のハンカチーフ」も、遅ればせながら「だから、このタイトルだったんだ」と歌詞を噛み締めましたね。アルバムのコンセプトは、前作から引き続き、「短編小説の主人公を演じるように歌う」だったので、これは、まさにという1曲。男性と女性の掛け合いで物語と曲がすすんでいくのもとても斬新でした。

――いろいろな発見があったんですね。

「SWEET MEMORIES」も、“なつかしい痛み”となると、私の年齢で歌ってちょうどいいくらいの、ある程度の年齢を重ねてからの歌なのかもしれないと感じました。当時聖子さんは若いのに何の違和感もなく、自然に素敵に歌っていらっしゃったのも、すごいことですよね。今考えても、百恵さんや聖子さんなど表現力も歌唱力も卓越したものを感じます。ご本人の実力と、そこに素晴らしい楽曲や踊りや衣装など、何人ものプロたちで、1曲を一大プロジェクトとして完成させていたんだなと。

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特別な体験をしたセドナの旅

――歌声も、原田さん自身に対しても“透明感がある”というイメージがあります。その秘密は何でしょう。何か習慣でしていらっしゃることはありますか?

んーー……特にないですね。普通のことしかしていないですよ。

――では、今、何をしている時間が好きですか?

そうですね、仕事と関係のない友だちとたまに会っておいしいものを食べたり、時間があったら旅に出たりするのが好きです。

――旅もお好きなんですね。これまでに特に印象的だった旅先はどこでしょう。

ひとつ挙げるとしたら、10年近く前に行ったセドナです。セドナは、ネイティブ・アメリカン由来の聖地のひとつで、癒しの地としても有名ですが、実際に行ってみて、これがパワースポットなんだと、本当に浄化されていくような感覚がありました。旅の途中でトレッキングをしたのですが、そのときは山に登っているというより、大きな優しい動物の背中に乗せてもらっているような、今までに味わったことのない不思議な体験をしました。

滞在中も何とも言えず、気持ちが穏やかで、帰り際には誰かと離れなくてはいけないときのような、何ともいえない寂しさを感じて。どんな旅でも心に栄養がもらえますが、この場所は今振り返っても特別でしたね。

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心配性で、生真面目。本番前日には夢にうなされる…?!

――またまた習慣について聞いてしまいますが、やめた習慣や昔と比べて、考え方が変わったことなどはありますか?

私は過剰に生真面目で、さらにすごく心配性でもあったのですが、そのあたりは大分変わったと思います。もう少しゆったりとした気持ちでいられるようになろうと心がけて、今はだいぶそんな風になれている気がします。

――心配性の一面もあるんですね。

もうね、映画の撮影に入る前は、必ず同じ夢を見るんです。本番が始まるという直前に手元を見ると、見たこともない、セリフもまったく覚えていない台本を持っていて、どうしようって驚いて焦って、呆然とする夢(笑)。

――それは…。笑ってはいけないですけど、毎回ですか?

毎回ですよ。ライブ前日の夢は、ステージもセットされて、バンドもスタンバイしている状態なのに…歌詞を全然覚えていなくて、どうしよう…って焦るんです。でもやっと最近この悪夢も見なくなりました。

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――実際のライブの前はどんな感じなのでしょうか?

その時その瞬間を楽しめるように、できるだけリラックスするようにしています。日によってコンディションも違いますし、会場ごとのお客さんから受けるパワーもあって、だから毎回違う歌でいい。今はそう思っています。全部抱え込まずにできるだけ身軽に。直前にはアロマキャンドルをたいたり、ストレッチをしたり、力を抜くようにしています。

――そんな風に意識が変わったのは何かきっかけがあったんですか?

特に何かあったわけではないんですけどね。心配しすぎても取り越し苦労だなって。あとは、表に出て歌うのは自分だけかもしれないけれど、見えないところに実はすごいたくさんの愛情をもって仕事をしてくれている人たちがいる、彼らがいるから大丈夫!と、委ねるところは委ねられるようになりました。

それに私が緊張していると、聴いている人にも伝わりますし、リラックスして心を開いていると、お客さんとの距離をすごく近く感じます。全然違うんですよね。ということがずいぶんとわかるようになりました。心に余裕ができてきたのかもしれませんね。ここ4年くらいは特に。

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お客さんとの距離の近さが、安心感につながって。

――ここ4年というと?

4年前にデビュー30周年を迎えて「on-doc.(オンドク)」という歌と朗読の会を始めたんです。伊藤ゴローさんにギターでお付き合いいただいて、私は朗読をして歌を歌う。この会で私自身すごく成長させてもらっています。朗読会は、こじんまりした場所や音響も整っていないところで行うこともあるのですが、その分お客さんとの距離が本当に近いんです。もうここ、目の前にいらっしゃる環境。

――それは、すごく緊張しそうです。

いえ、逆で、お客さんの顔を見ながら歌っていると、安心するんですね。あぁこういう人たちが自分の歌を聴いてくれたり、映画を見に来てくださるんだなって。ツアーでまわるホールのステージだと、やっぱり距離がありますから、今まではその先にいる人たちが見えずに緊張していたのかもしれません。

それが、朗読会に来てくれているお客さんたちの顔がはっきりとわかって、つながりを感じてからは、大きなステージでもリラックスして歌えています。朗読会は、不定期ですがずっと続けていきたいですね。あの場所で歌を育ててもらっている気がします。

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歌とお芝居を続けられることが、いちばんの幸せ。

――ファッションについてもお伺いしたいです。普段はどんなスタイルが多いですか?

さらっと着られるシンプルなワンピースが多いです。素材のよさだったり、デザインも自分の気持ちが落ち着くものを選びますね。たまにパッと気持ちが華やぐようなデザインや色のものを着たくなることもありますけど。最近は、必要なものや、心地いいもの、好きなデザインもわかってきて、どんどんシンプルになって、お買い物も迷わなくなりました。

――ワンピースはまさに原田さんのイメージです。ところで、原田さんにとって“美しい人”とはどんな人ですか?

そうですね、うーん、美しい人ですか。…難しいな。

――では、原田さんはどんな女性と親しくなることが多いですか?

好きなものや自分の世界観を大切にしていて、しっかりと自分自身で立っている人。優しい人が多いです、本当の意味でね。精神的に自立している人は、いつどんなときに会っても一貫して安定しているので、一緒にいて安心します。逆に、自分が疲れているときに「あ、なんか今あの人とは会えないな」って、そういうこともあるでしょ?

――はい。

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でも、そうじゃなくて、いつでも同じ態度で、安定感がある人は素敵だなって思いますし、私も人に対してそうありたい。まとめちゃうと(笑)、美しい人は、余裕があってスッキリしている人なんじゃないでしょうか。

――今日は“余裕”という言葉が多く出てきた気がします。

心の余裕がないと、今この瞬間を楽しめないなって最近すごく思うんです。去年と今年とでは明らかに体力的な面も変化していますし、まわりの環境もそう。「またいつかね」って言っててもいつかはやって来ないことも経験したので、そのときにやりたいことがあったら、今すぐやらなきゃって思うんですよ。

今を大切に、日々のことをしっかり焼き付けるためにも、少しの余裕が必要なんだと思います。余裕がないと、何も覚えていなかったり、流されてしまったりするので。こんなこと昔は全然考えなかったんですけどね。

――では、最後に今後についても教えてください。

今音楽は、とてもいい環境で仕事をさせてもらえていて、これからのツアーもすごく楽しみです。また、お芝居もいい作品に出合えて一生懸命できたらうれしい。女優と音楽をバランスよく続けていけることがいちばんの幸せです。

――両方を続けていくことが大事なんですね。

そのことがいつの間にか自分の個性になっていると思うので、そこは大事にしていけたらいいですね。


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原田知世さんが “日々、大切にしていること”

同じ時間を過ごすなら、しかめっ面よりも笑顔でいたほうが心地いい。当たり前ですが、ここ10年くらいは特に意識して大切にしていることです。そのためには、「こうでなきゃダメ」とか「こうあるべき」みたいな決めごとを自分のなかにたくさんつくらずに、余裕と寛大さでいろいろなことを楽しんでいきたいですね。

今月の美人
原田知世

1982年、『角川映画大型新人募集』で特別賞を受賞し、翌年『時をかける少女』で映画主演デビュー。以降、映画・ドラマを中心に話題の作品に多数出演。ドキュメンタリー番組等のナレーションを担当するなど幅広く活動している。歌手としてもデビュー当時からコンスタントにアルバムを発表。昨年リリースしたラブ・ソングカバーアルバム『恋愛小説』の第2弾となる『恋愛小説2~若葉のころ』を5月11日にリリース。 http://haradatomoyo.com/

Vol.44 小松美羽

Vol.42 大草直子


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