TRADITIONAL STYLE

Vol.35 高橋智隆


Jul 8th, 2015

Photo_ayumi yamamoto
Text_maho honjo

ロボットクリエイター・高橋智隆さんのつくるロボットが、どこか愛らしいムードをまとっているのはなぜなのでしょうか。その創造の源を知るべく「どうしてロボットにはまったのか」「どうやってつくるのか」「ロボットとの暮らしとはどんなものか」など、たくさんのハテナを抱えて研究室を訪問。自身の挫折から私たちの未来の生活、さらにイノベイティブに生きるコツまで、幅広く語っていただきました。

釣り、スキー、車、ハマったらとことんです

―― 高橋さんが、最初にロボットに興味をもったのはいつごろですか?

高橋智隆 幼少期、家に置いてあった漫画『鉄腕アトム』を読んだのがきっかけですね。それが天満博士やお茶の水博士など、人の手でつくられているというストーリーにいちばん惹かれました。ロボットの開発シーンを見ながらワクワクしたのを覚えています。

―― ちなみに、お祖父さまも個性的な方だったとか?

高橋智隆 アイディアに富んだ人で、日曜大工から電気工作までいろんなものをつくって遊んでいましたね。僕のために機関車型の乗り物をつくってくれたり、あとは自家製セコムというのかな、部屋の網戸が開くとビービーと鳴るシステムなんかもつくってました。実に出来が悪くて、誤作動ばかりしてましたよ(笑)。僕は画用紙やブロックでロボットを作って遊んでいましたが、そのころ祖父からもらったノコギリで木工作を始めました。

―― 小さいころからロボットにハマっていたんですね。

高橋智隆 とはいえ、その後もロボットひと筋というわけではなくて、何かにハマっては次、また次、を繰り返してきました。子供時代は野球、サッカーはもちろん、プラモデル、ラジコン、ファミコンなど流行った遊びは全部やりました。なかでもハマったのが、バス釣り。琵琶湖が家の目の前という環境だったので、「学校から帰る」→「釣りに行く」という“釣りバカ”時代ですね。魚を釣ることだけでなく、リールやルアーなどの道具が好きだったんですよ。ルアーは自分でも作っていました。僕は“モノフェチ”なのですが、その片鱗はすでにあったわけです。

―― 釣り、ですか…。

高橋智隆 さらに高校の終わりから大学時代は、モーグルスキーです。冬はスキー場に仲間と一軒家を借りて住んで、夏は南半球に出かけるという“スキーバカ”時代。このときはトレーニング装置をつくったりもしてました。その後が“車バカ”時代。初めての車は中古のリンカーンのクーペでした。ドアミラーが気に入らなくて、スクラップ工場から貰ってきたミラーに取り替えたりと自分で手を入れて乗っていました。

―― とことん突き詰めるタイプで、モノフェチで…。

高橋智隆 モノへのこだわりが強いんですよ。

就職活動で挫折して「ならば京大へ」を実現

―― 遊び尽くした学生時代から一転、すごい挫折を味わうことになるんですよね。

高橋智隆 内部進学で立命館大学の文系学部に進学したのですが、ちょうどバブル崩壊、就職氷河期が来てしまい、楽に儲かる仕事なんてないと皆が気付いた。ならば好きな事を仕事にしたいと、釣具もスキー用品もつくっている「ダイワ精工」にいこうと思いました。なぜか受かるつもりだったのですが敢えなく最終面接で落ちてしまいました。ちなみに運命とは奇異なもので、今年からその会社の社外取締役に就任しましたが。

―― 不採用になり、どうしたのですか?

高橋智隆 京大に行くことを決心しました。

―― ええー? そこ、飛躍してませんか?

高橋智隆 まず、やはりもの作りの仕事を得るには、工学部に行く必要があると。そして就職活動経験者として、やっぱり大学によって選択肢が広がることが分かった。そこで京大工学部へ行こうと決心して、予備校に通い始めました。

―― なかなかの経験ですね。

高橋智隆 今さら大学生活に憧れているわけではないので、テレビ番組『進め!電波少年』のような趣味的浪人生活。ただエスカレーター式で受験せずに大学に入ったので、頭の中はスッカスカです(笑)。まずは得意な数学や物理を一から始め、運よく翌年合格しました。そして、もの作りの究極形であり、何より私にとってもの作りの原点でもあるロボットの道に進むことに決めたのです。

―― それから、最初にロボットをつくったのはいつですか?

高橋智隆 京大一回生の冬休みですね。いわゆる“ガンプラ”、ガンダムのプラモデルを改造して機械を詰め込んで完成させたものです。それで特許を取得し、商品化もされました。

―― そして見事、大学卒業と同時に起業されます!

高橋智隆 実際にロボットを作ってはイベントなどで紹介していると、さまざまなオファーが来て、ベンチャーの真似事が始まった。そして、京大がベンチャーインキュベーション施設を作ってくれるというので、京大学内入居ベンチャー第一号として「ロボ・ガレージ」を創業しました。

行き詰まったら、うーんと唸ってバタンと寝ます

―― 起業してから10年以上経つわけですが、ずっと社員はご自身ひとりのみ。その利点はどんなところにあるのですか?

高橋智隆 好き放題できるところですね。そうでないと、イノベーションは生まれないと思っています。民主主義的にやってしまうと、普通のモノになってしまうんですよ。

―― ロボットをつくる設計図もないんですよね?

高橋智隆 実物無しに設計図に取り組むと、どうしても無難な設計になってしまう。むしろ簡単なスケッチを元に部品を手に取り、行き当たりばったりでパーツごとに微調整しながら試行錯誤を重ねていくほうが、ギリギリ限界の“攻めた設計”ができるんです。

―― 高橋さんしかつくれないロボットができあがるということですね。

高橋智隆 いい悪いは別にして、僕がつくっているものはほかの人にはつくれないという自信はあります。デザイン、機構、加工、動作などが複雑に絡み合うなかで、「最良の妥協点はどこか」の判断を下すのは経験が必要だし、その裁量権が自分にあるということが何より重要なんですよね。

―― ちなみに、行き詰まったときは、どうするのですか?

高橋智隆 うーんと唸りながら、バタンと寝ます。寝るの大好きなんですよ。ウトウトしているときって不思議なもので、ふと妙案が思いついたりする。うっかり熟睡して朝を迎えてしまうという危険性もはらみつつ(笑)。

1年後には、ロボットとの暮らしが始まります

―― 今現在はどんなことが進行しているのですか?

高橋智隆 スマホに手足頭が生えたような新しい端末機を、携帯メーカーさんと開発しています。

―― それはすごい! 携帯電話がロボットになるんですね。

高橋智隆 もうスマホは頭打ちなんですよね。頭打ちの最大の理由は、Siriなどの音声認識が日常で活用されない点にあると思うんです。実は認識精度は十分に高い。この四角いスマホが話しかけたくなる形をしていないからだめなんじゃないかと。例えば我々はぬいぐるみやペットの亀や金魚には話しかけてしまう。だから人のような形や動きがあれば、擬人化して話しかけようと思うはずなんです。だからスマホの次は、眼鏡型や時計型の端末ではなく、人型ロボット端末になると考えています。

―― 実際はどんなことをしてくれるのですか?

高橋智隆 その端末と会話をすることでユーザーのライフログを取り、それを活用したサービスを提供します。もちろん今まで通り、通話もメールも検索もできる。今、我々の検索や買い物の履歴はGoogleやAmazonが把握していますが、たとえば「風呂でどんな鼻歌を歌ってるか」なんていうカジュアルな情報は知られていない。プライバシーには配慮しながら、それらを広く拾って行ったら、もっと各自にフィットするサービスができると思うんです。Amazonに商品をレコメンドされると何だか気が乗らないかも知れませんが、信頼している自分のロボットに「あそこのラーメン屋さん、気に入ると思うよ」って言われたら、「お、行ってみるか」なんて思うようになるんじゃないかと。

―― そういうコミュニケーションロボットとの暮らしはいつごろから始まるのでしょうか?

高橋智隆 もうすぐそこです、1年後ぐらいには始まるでしょうね。

―― そんなに早く? すると私たちの生活はどう変わるのでしょうか?

高橋智隆 短期ではそんなに変わらないし、むしろ変われないと思います。だって突然「ロボットと暮らそう」などと言われても、想像しにくいですよね。だから今は、あくまで情報端末の延長線上にあるイメージです。いわゆるハイブリッドカーのようなもので、エンジンもついてます、という立ち位置というか。そもそもiPhoneだって最初は「電話」として売られたわけですよね。で、さすがにiPhoneだけでは不安だから、まずはガラケーと2台持ちしていた人も多いはずです。そしてやがてガラケーを手放す。それと同じことを起こしたいんですよ。つまりスマホとコミュニケーションロボットの2台持ちをしていただき、やがてはスマホを解約していただくという(笑)。

目ざしているのは、目玉おやじみたいなロボット

―― 少し話題が変わりますが…いつもスタイリッシュな着こなしをされていますが、どんなファッションがお好きなんですか?

高橋智隆 いろんな着こなしを楽しむというよりは、好きなものを見つけたら、それだけを着ていたいタイプなんですよ。モノフェチなので、気に入ったら同じものを数枚購入します。靴も同じ。真っ赤なエアマックス95を予備も含めて5足ほどストックしていたのですが、とうとう履き潰して。今日は違うナイキの靴です(笑)。

―― おもしろいファッション哲学です! そういう「気に入ったらとことん」みたいなことは、お仕事にも反映されるのでしょうか。

高橋智隆 往々にしてありますね。他の製品のデザインを見て「この色合わせ、おもしろいな」と思ったら、自分の服、開発中のロボット、さらに車まで、全部同じ色になることも。たとえばベージュと黒と赤。気がつけば今日の服装もそうですね…。

―― ちなみに最近は、ロボットと人間の触れ合いをテーマにした映画も多いですよね。『her/世界でひとつの彼女』『チャッピー』『ベイマックス』など…。ご覧になってどう思われましたか?

高橋智隆 『her/世界でひとつの彼女』は、自分が考える未来像とかなり近いところがあると思いましたね。ただやっぱりただの四角い端末にあそこまでの愛着はわかないかな、と。今、多くの企業で人工知能についての研究が進んでいるけれど、彼らはその優秀な“脳みそ”を入れる“体”が必要だと気づき始めてるんですよ。まず人の感性にふれる実体のあるハードウエアが存在しないと。

―― その“実体”への「親しみ」みたいなものが必要ということでしょうか。

高橋智隆 そう、その「親しみ」が「信頼」に変わっていくのではと思っているんです。さきほどのコミュニケーションロボットのイメージとして僕がよく例に挙げるのは、目玉のおやじとか、「ピノキオ」に出てくるコオロギくん。ちっちゃい物知りなヤツがコミュニケーションを通じて主人公を助けてくれるという、そういうストーリなんですよね。

迷ったら、ユニークな選択をオススメします

―― ロボットのコミュニケーション能力を考える上で、人間同士のコミュニケーションを観察されたりもするんでしょうか?

高橋智隆 実はそこにすごく興味があるんです。人の感性というか。「かっこいい」とか「ブサイク」って何が決め手なんだろうと。それって実に些細なツボみたいなものがあるんじゃないだろうかと。ほら、外見関係なくやたらモテる人って居て、ちょっとした仕草かもしれないし、メールの文面かもしれないし、声のトーンかもしれない。逆に例えば、いくら便利で性能の良いロボットでもそのツボが反映されていなければ、人と良い関係は築けないと思うんです。

―― 高橋さんご自身の未来予想図を教えてください。

高橋智隆 まずは、今手がけているコミュニケーションロボットが現在の究極形だと考えているので、最終的にiPhone級の革命的なデバイスに仕上げて、それを世界中の人が持っているのを見ながら、しめしめと老いていけたらいいですね。とはいえ、手離れが良い商品ではないので、iPhoneが成長してきたように多くの人や会社を巻き込んで、多様なコンテンツをつくってもらい、ロボットと暮らすライフスタイルが生まれて欲しいですね。

―― 最後に、イノベイティブな人生を送るためのコツみたいなものがあれば…。

高橋智隆 僕は、無難な選択をしたことによって、何も起きないことがいちばん退屈だと思っているんです。なので、何か選択を迫られたら、ユニークなほうを選ぶようにするのはいかがでしょうか。そうすると必ず何かおもしろいことが起こるはずです。その選択がおもしろいことを引き寄せるのかもしれないし、何かネガティブなことが起きてそれに対処しているなかで貴重な経験をするのかもしれないし。

―― どちらにしろ、何かが起こることだけは間違いない、ですね!

高橋智隆 人生の岐路でも、日常の買い物でも、すべてにおいてユニークなほうを選ぶ。すると人生はユニークなほうに向かいます。もちろん堅実なほうを選べば、人生は堅実に回るはず。良い悪いではないけど、僕はユニークなほう、ひねくれたほうを選んで(笑)、ロボットクリエイターという天職にたどり着いた。そう思っています。

今月のトラディショナル スタイル
高橋 智隆

1975年生まれ。滋賀県大津市出身。2003年京都大学工学部卒業と同時に「ロボ・ガレージ」を創業し京大学内入居ベンチャー第1号となる。代表作にデアゴスティーニ「週刊ロビ」、グランドキャニオン登頂の「エボルタ」など。2013年、世界で初めてコミュニケーションロボット「キロボ」を宇宙に送り込む事に成功。ロボカップ世界大会5年連続優勝。米TIME誌「2004年の発明」、ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。(株)ロボ・ガレージ代表取締役、東京大学先端研特任准教授、大阪電気通信大学客員教授、グローブライド(株)社外取締役、ヒューマンアカデミーロボット教室アドバイザー。

Vol.36 ピーター・バラカン

Vol.34 堤大介


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