In this town, you are entitled to be what you want to be.
この街は、自分でなりたい存在になれるところ。
ミリアム・ウォズモンドとは15年以上の付き合いになる。かつて長く一緒にいた人の妹で、初めて会ったときの彼女は18歳だった。2001年に高校を卒業し、モダンダンサーを目指してニューヨークにやってきたわずか数日後にワールド・トレード・センターのテロが起きた。あのときは恐怖に泣いていたミリアムが、今もニューヨークにいて踊り続け、年に数作はパフォーマンス・アートの作品を発表し続けている。
「ニューヨークでダンサーとして暮らすのは楽じゃない。クリエイティブな刺激を受け取るにはこれ以上の場所はないけれど、ストレスは大きい。もう別の場所に行こうかっていう考えが、頭のなかをよぎらない日はない。踊ること、作品を発表することが生きがいだけど、どんなに成功するプロダクションでも、収支をとんとんにするのが精一杯。ダンスを見るために劇場を訪ねてくれるお客さんはわずかだし、テレビやSNSのおかげで『ダンス』の概念が変わってしまった。それでも別の場所に行けば楽になる、ハッピーになるって考えるのは間違っている気がするの。大切なのは自分の心の持ちようだから」
数年前までは、バーテンダーをしながら生計を立てて、余ったお金はすべてプロダクションに費やす暮らしをしていたけれど、大手ジムに勤めていた友人の誘いでトレーナーになった。今は、グループクラスを教えながらパーソナル・トレーナーをやっている。
「クライアントが人生のいろいろな段階を通過していくのを一緒に体験することができる。たとえば最近、減量を必要としていたクライアントが体重を落とすことに成功しただけじゃなく、ランニングを好きになって、初めて1マイルのレースに出場した。こういうことが与えてくれる喜びは大きい」
この街を出ることを考えない日はないのに、今もニューヨークにいる――。その理由を尋ねると、少し考えてこういった。
「この15年の間に、アップタウンからブルックリンまでの様々な場所に暮らしてきた。今、マラソンに向けてトレーニングをしているのだけど、アップタウンからブルックリンの自宅まで走っていたら、それぞれの場所に少しずつ思い出があるって気がついて、泣きそうになった。ここはやっぱり自分の街なのだと思う。それに、この街は、自分でなりたい存在になれるところだから」