UNSUNG NEW YORKERS

Vol.11 ニューヨークの人々がそれぞれ違うのが好きだ。そして人々の野心がエネルギーを作り出している。


Apr 20th, 2016

edit_yumiko sakuma

I like the differences of people. People here are ambitious and there’s a lot of energy in it.
ニューヨークの人々がそれぞれ違うのが好きだ。そして人々の野心がエネルギーを作り出している。

ネイティブ・アメリカンのラグやクラフトを集める、という行為を通じて知り合った友人たちがいる。ジョニー・リビエロは、そんな友達のひとりで、同じくラグ・マニアの友人に「すごいラグのコレクションを持っているヤツがいるから見に行ったほうがいい」と言われて彼のアパートを訪問したことから友人関係が始まった。最近、ヴィンテージのディーラーとして独立したところだ。

「母がニューメキシコのブリキの美術品を収集していたから、古いものに囲まれて育った。古いものを見つけることが、職業になるとわかるのにはずいぶん時間がかかったけれど」

ジョニーが育ったニューメキシコは、白人、メキシコ系アメリカ人、ネイティブ・アメリカンが共存するユニークな場所。

「僕にとって、ブリキはニューメキシコの魂なんだ。スペイン植民地時代の影響が今も生きていて、ネイティブ・アメリカンの文化と交じり合って独特な空気を作っている。アメリカ中探しても、あんな場所はない」

コロンビア大学に進学するためにニューヨークにやってきて、卒業してからは、ショップのスタッフや不動産エージェントなど複数の職業を経験した。そのうち大手ブランドで仕事を得て、ヴィンテージの家具や小物で店舗を装飾する仕事をするうちに、自身も収集を始めた。今は、キリスト教会の備品や小物、ナバホ族の織り手によるラグ、フォーク・アーティストによるオブジェなどを集めている。古いものを好きな理由をたずねると、19世紀に作られたというブリキの十字架に施された細工を見せてくれた。

「僕自身は宗教を信じるわけではないけれど、宗教のためにこれだけの手作業が行われたという事実には感嘆する。現代では、もうこういう物の作り方はしないからね」

収集のプロセスのなかでも、モノを探す作業が一番好きというジョニー。

「モノをハントするという作業なら永遠に続けても飽きることはないと思う」理想の暮らしは、ニューメキシコで商材を見つけ、ニューヨークで売る、という時間を半分ずつ持つこと。

「ニューヨークの人々がそれぞれ違うのが好きだ。そして人々の野心がエネルギーを作り出している。ニューメキシコの美しさと、ニューヨークのクリエイティブなエネルギーの両方を生活に持てたら、それ以上理想的な暮らしはないと思う」

Navigator
佐久間 裕美子

ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)。

Vol.12 この街がホームだと感じたことはない。でもそれはきっといいことなんだと思う。

Vol.10 この街は、自分でなりたい存在になれるところ。


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