New York is a special place because it attracts people who want to take everything to the next level.
ニューヨークが特別なのは、すべてを次のレベルに推し進めようとする人々を惹きつけるから。
5年ほど前だったろうか、ビーチに遊びに行って、友人のグループと合流した時に「ケチャップをつくっているスコット」を紹介された。大学時代、スーパーに行っても、大手のメーカーがつくるそこそこの味のケチャップが2種類程度しかないことに気がついたスコットは、友人のマークと「完璧なケチャップ」のレシピを考案した。2人はそれぞれしばらく別の会社に就職して資金を貯め、2010年に<サー・ケンジントン・ケチャップ>が生まれた。
<サー・ケンジントン>のケチャップがデビューしたのは、ちょうど不景気と食関係のテレビ番組の大ヒットが重なり、アメリカで「食のルネッサンス」が始まろうとしているころだった。
「食文化はアメリカのメインストリームの一部になった。意識改革が起きて、アメリカ人の多くが、何を口に入れるか、どんな栄養をとるかが、“自分が何者であるかを形成する要素” だということに気がついた。そういう意味では、タイミングは良かったと思う。今だったら、食のプロジェクトをやっている人が多すぎて逆に躊躇してしまったと思うから」
確かに2010年前後から、少量生産の食のプロジェクトに乗り出す友人が一気に増えた。けれどサステイナブルなプロジェクトとして続けている人は、その中でもほんの一部だ。スコットたちのオール・ナチュラルで、化学調味料を使わないケチャップは驚くほどおいしいけれど、それだけではない。勝因を考えてみると、そのひとつはブランディングだ。わざと「ケンジントン卿」と英国風の名前をつけ、ガラスの容器にレトロなイラストを模してある。
「当時、人々の考え方を変えたり、馴染みのある商品から離れて僕らの商品を手に取ってもらうには、劇的に違うものをつくる必要があるとわかっていた」
今、スコットの会社は、27人の従業員を持つまでに成長した。「成長したいの?大きくなることは重要なの?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。
「僕らの会社は、テーブルスプーン一杯ずつを丁寧にやることでしか利益を出せない。だからある程度のスケールは必要だ。究極的には、いい商品をつくっても、いい人材がいなければ、大きくなることはできない。ニューヨークが特別なのは、すべてを次のレベルに推し進めようとする人々を惹きつけるから。だから僕らがやることには、ニューヨークという場所が必要なんだ」