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ブッテロのレースアップブーツ B1101(PE-CUS)


Mar 9th, 2016

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

マカロニウエスタンを知ってますか?

マカロニウエスタンと聞いて、50歳台後半以上の人は懐かしく思うことでしょう。日中のノンプライムタイムなどに、しばしばテレビで放送されていたことを思い出します。

西部劇というとハリウッドのイメージがありますが、マカロニウエスタンは1960年代~’70年代前半、興行不振に陥っていたイタリア映画界が現状打開を図るべく、企画・制作したイタリア版ウエスタン映画のこと。本国やアメリカなどではスパゲッティウエスタンと呼ばれたそうですが、日本では、あの映画評論家の淀川長治氏(「サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ」のおじさん!)が「スパゲッティでは細くて貧弱」ということでマカロニに変えたのだとか。当時、世界的な人気となったのを受け、数多の作品が制作されましたが、いずれも低予算で作られた、いわゆるB級映画。荒唐無稽な内容の作品もありましたが、それはそれなりに楽しめたものでした。

また、ブームの先駆となった『荒野の用心棒』(1964年製作)ではセルジオ・レオーネ監督がアメリカから招いた、当時、売り出し中のクリント・イーストウッドを主役に抜擢。いまや『ダーティハリー』シリーズなどで有名なイーストウッドですが、その名が世界的に知られるようになったのはこの映画からでした。

さて、ここでご紹介するブッテロは、おそらくは世界で唯一、マカロニウエスタンをテーマにしているブーツブランドです。タンナー(製革会社)や靴メーカーに勤務した経験を活かし、1964年から自らの名を冠したシューズブランドを展開していたマウロ・サーニ氏が、商品開発のヒントを得るために各国を旅するなかで、ブッテリとよばれるイタリアンカウボーイのファッションスタイルに強い興味を抱くようになりました。

そして1973年、マカロニウエスタンの名優ジュリアーノ・ジェンマに自らデザインしたスパゲットブーツ(イタリアンウエスタンブーツ)を提供。これが大いに話題となったことで、翌年、トスカーナ州フィレンツェでブッテロを立ち上げたのです。ちなみにブッテリ(butteri)とは、同州グロッセート県の湿地帯マレンマ(現在は干拓により、肥沃な農作地になっている)の牛飼いを意味しており、要はアメリカンカウボーイのイタリアバージョンを指します。

ブッテロは1990年に日本上陸し、’90年代後半には人気ブランドの仲間入りを果たしました。また、2004年には東京・南青山に「ブッテロトーキョー」をオープン。同時にバッグやベルト、革小物などの展開もスタートさせ、レザーアイテムブランドとしての地位を確立していきました。

とはいえ、本懐はあくまでブーツです。そして、その最も象徴的な存在がロングセラーにしてレースアップブーツの傑作「B1101」であり、なかでもアッパーに定番レザー「PE-CUS」が使われたバージョンは、常に根強い人気をキープし続けています。

この革は、トスカーナに位置する革の一大生産地サンタ・クローチェでなめされたベジタブルタンニンレザー。堅牢で、見た目は重厚ながらしなやかで、エイジングも楽しめる素材ですが、オイル加工やウォッシュ加工、セミヌバック加工によるヴィンテージ感が備わっているため、履き出す前から深い味わいがあります。

そして、この風合いが真鍮アイレットの古美仕上げと絶妙にマッチし、「B1101」をウエスタンらしいワイルド&ラギッドな佇まいにしています。加えて、跳ね上がったトウスプリング、タイトな足首まわり、かかとを包むパーツであるアウトサイドヒールカップ、やや高めに積み上げられたヒールリフトなどもウエスタン由来のディテールといえそうです。

とはいえ、基本的にはシンプルでベーシックはデザインであるためトレンドに左右されることはなく、しかもワークでも、トラッドでも、きれいめカジュアルでも、はてはモードまで違和感なくはまり、パンツの丈&裾幅も選ばないなどコーディネートの守備範囲が広いのも強み。マカロニウエスタンを背景にもちながらも、実用性に優れたブーツであることが、実は長く売れ筋であり続けている人気の理由なのでしょう。

価格:61,000円+税

お問い合わせ
ブッテロトーキョー
電話:03-5766-1718

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

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