Why fit in when you were born to stand out?
突出するために生まれてきたのに、なぜ溶け込もうとするの?
セリーヌのアパートを訪れたとき、4歳の娘シーラの部屋のドアに張ってあったステッカー。ドクター・スースが残した言葉のひとつだ。「どこに行っても、溶け込める気がしなかったから、この言葉は私にとって意味の大きいもの」
マサチューセッツから友達が訪ねてきたときに、ディナーで一緒になった。話してみたら、同じブロックに住んでいるご近所さんだった。それから1年以内に、アパートの壁を突き破って登場したネズミたちがシーラを恐怖の底に陥れるという事件が起きて、セリーヌ一家は引っ越していってしまったけれど、今もたまに連絡をとっている。
両親はカトリック教徒のレバノン人で、セリーヌはベイルートで生まれた。フランス系のリセに通っていたが、幼少期に内戦で家族とともにモントリオールに避難した。高校を卒業後は、フランスのアート大学に進学した。1年経ったとき、デザイナーを志望したけれど、「あなたのポートフォリオは、デザインよりアート向けです」とファイン・アートを学ぶことを指示されて反発してやめた。「デザイナーには向かない」と言われたこともある。
モントリオールの大学で、サイバー・アートを勉強し、卒業してからは、情報デザインやユーザー・インターフェースのデザインをしながら、モントリオールやベイルートでクリエイティブ・コモンズの提唱に関わってきた。NASAの航空データが誰にでも入手でき、また著作権のしばりなく使用可能だと知ったときに、「NASAのグラフィックをファッションに使えたら素敵じゃない?」とツイートした。そうしたら友達から反応があった。「Do it!」。それがプロジェクト<Slow Factory>の誕生になった。
「ずいぶん時間はかかったけれど、私はなんとかデザイナーになった。『デザイナーには向かない』と言った大人たちに『Fuck you, I am a designer now!』と言ってあげたい」と笑う。
<Slow Factory>は単なるファッションのブランドではない。たとえばNASAの宇宙のグラフィックのように、クリエイティブ・コモンズで使えるオープンなデータをシルクにプリントし、スカーフやドレスにする。特にスカーフはブランドの大切な軸だ。
「私は中東の人間で、中東の人間は『スカーフ・ピープル』だから」。
利益の10%は、プロジェクトごとに異なる非営利団体に寄付する。たとえば、ガザを上空から写した写真をプリントした<ガザ・バイ・ナイト>の収益は、難民に人道的援助を供給するANERAに、スリナム共和国を上空から写した<ペティト・アトラス>の収益は、WWF(世界自然保護基金)に寄付する。
「自分も国を追われた経験があるし、世界中を転々としてきたから、『ホーム(家)』という概念についていつも考えている。難民の問題は、自分にとってはとても重い問題」。
オフィスは夫のコリン、娘のシーラと暮らすブルックリンのアパート。今、ニューヨークで暮らして3年が経った。でも実は、シングル時代にもニューヨークに1年ほど暮らしたことがある。けれど挫折して、一度はモントリオールに戻った。「この街を離れたくなくて、泣きながら帰ったの」。2年前、夫がニューヨークで仕事を得て、また戻ってこれることになった。
「いろんな場所に暮らしたけれど、ニューヨークほど自分の出自に関係なく機会を与えられる場所はない。ここが今私の『ホーム』なんだと感じている」
昨年、娘がハロウィーンに、スーパーヒーローになりたいと希望した。ママ友が「女の子なんだから、プリンセスになれば?」というのをたしなめたという。
「なりたいなら、何になってもいいのよ」