UNSUNG NEW YORKERS

Vol.04 15年この街で生活をしているけれど、ニューヨークに対する愛は色あせていない。


Sep 30th, 2015

edit_yumiko sakuma

「ニューヨークが私の居場所だということはすぐにわかった」

初めて会ったのはもう14年も前のことだ。モデルを探していたときに、共通の友達に紹介された。当時、グレースは、写真のラボで働きながら写真家を目指していた。何年も経ってから急に思い出して検索してみた。写真家として独り立ちしていた。そこからたくさんの仕事を一緒にしてきた。アメリカ一周を2度一緒にした友人でもある。

何年か前から、インスタレーションを媒介としたアーティストとしての活動を始めた。きっかけは、自分の仕事場の天井を覆った造花だった。

「写真がどんどんデジタル化して、自分らしさが表現できなくなったときがあった。だから気持ちを切り替えるために、遊びのつもりで身近にあるものを使ってものをつくるようになったの。
水槽に入れる小石をボンドでくっつけてオブジェをつくったり、作業部屋の天井を造花で覆って床に寝っ転がったりしていた。たまたま写真の作品を見にきたキュレーターが、造花で覆われた天井を見て、作品にするべきだとグループ展に誘ってくれた。ショーが開催される間、オーディエンスが自分の作品と触れ合ったり、違う反応をするのを見て、インスタレーション作品をつくるという行為に恋に落ちた」

以来、保熱剤を使って洞窟のような形の空間をつくって音を流すインスタレーションや、映像アートをつくっている。

「私の作品の目的は、現実から隔離した抽象的な『スペース』をつくること。最終的には素材を使わずに作品をつくることを目指したい。つくりたいものはいくらでもあるの。同時に、アートを作り始めたことで、一度心が離れかけた写真のことも大切なものとして感謝できるようになった」

ロサンゼルス郊外のオレンジ・カウンティに育ち、写真を学ぶために2000年にニューヨークにやってきた。学費を捻出できずに中退するはめになったけれど、写真はラボでの仕事やアシスタントをすることで習得した。アートも基本的には独学で学んだ。

「ロスは楽しかったけれど、自分の居場所ではないと感じた。ニューヨークにきたときは、すぐに『ここが自分のホームだ』と感じた。毎日、新しい出会いがあって、街中に学ぶべきこと、理解すべきことがあふれていた」

15年間のニューヨーク生活を経て、今は知らないことを探すほうが難しいくらい、この街のことを熟知している。けれどニューヨークに対する愛は色あせていない。

「来たばかりの頃、この街はフレンドリーじゃなかった。タフでいないといけないといつも思っていた。今はカジュアルでフレンドリーなバイブが街中にあふれている。この街はずいぶん優しくなったと思う」

Navigator
佐久間 裕美子

ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)。

Vol.05 どんな肌の色をしていてもニューヨークにはチャンスがある。

Vol.03 最終的には、やりたいと思ったことを、やることができるか試してみたかったんだと思う。


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