「ニューヨークが私の居場所だということはすぐにわかった」
初めて会ったのはもう14年も前のことだ。モデルを探していたときに、共通の友達に紹介された。当時、グレースは、写真のラボで働きながら写真家を目指していた。何年も経ってから急に思い出して検索してみた。写真家として独り立ちしていた。そこからたくさんの仕事を一緒にしてきた。アメリカ一周を2度一緒にした友人でもある。
何年か前から、インスタレーションを媒介としたアーティストとしての活動を始めた。きっかけは、自分の仕事場の天井を覆った造花だった。
「写真がどんどんデジタル化して、自分らしさが表現できなくなったときがあった。だから気持ちを切り替えるために、遊びのつもりで身近にあるものを使ってものをつくるようになったの。
水槽に入れる小石をボンドでくっつけてオブジェをつくったり、作業部屋の天井を造花で覆って床に寝っ転がったりしていた。たまたま写真の作品を見にきたキュレーターが、造花で覆われた天井を見て、作品にするべきだとグループ展に誘ってくれた。ショーが開催される間、オーディエンスが自分の作品と触れ合ったり、違う反応をするのを見て、インスタレーション作品をつくるという行為に恋に落ちた」
以来、保熱剤を使って洞窟のような形の空間をつくって音を流すインスタレーションや、映像アートをつくっている。
「私の作品の目的は、現実から隔離した抽象的な『スペース』をつくること。最終的には素材を使わずに作品をつくることを目指したい。つくりたいものはいくらでもあるの。同時に、アートを作り始めたことで、一度心が離れかけた写真のことも大切なものとして感謝できるようになった」
ロサンゼルス郊外のオレンジ・カウンティに育ち、写真を学ぶために2000年にニューヨークにやってきた。学費を捻出できずに中退するはめになったけれど、写真はラボでの仕事やアシスタントをすることで習得した。アートも基本的には独学で学んだ。
「ロスは楽しかったけれど、自分の居場所ではないと感じた。ニューヨークにきたときは、すぐに『ここが自分のホームだ』と感じた。毎日、新しい出会いがあって、街中に学ぶべきこと、理解すべきことがあふれていた」
15年間のニューヨーク生活を経て、今は知らないことを探すほうが難しいくらい、この街のことを熟知している。けれどニューヨークに対する愛は色あせていない。
「来たばかりの頃、この街はフレンドリーじゃなかった。タフでいないといけないといつも思っていた。今はカジュアルでフレンドリーなバイブが街中にあふれている。この街はずいぶん優しくなったと思う」