It is a magical place. I can be on my bike and I run into you all over town.
自転車に乗っていれば、街中のいたるところで人にばったり会うことができる。
ジャックと初めて話をしたのは、近所のオーガニック・スーパーマーケットで、コーヒー豆を注文していたときのことだ。ニューヨークに暮らしているとよくある、見知らぬ人との会話。自己紹介をしあい、コーヒー豆を受け取って別れた。アーティストだと言っていた。けれどそのあと、ジャックとはいろんなところであった。近所の道端、ファッション・ブランドの開催するパーティー、アートフェア…名の知られたアーティストだと気がつくのに、時間はかからなかった。
ブルックリンのアパートにジャックを訪ね、改めて人生のストーリーを聞いた。
「幼少時代、いつも手を動かしていた。成績が悪かったから、軍の学校に行くか、アート学校に行くかの選択肢を与えられて、アート学校に行ったんだ」
アート・スクールで最初にできたボーイフレンドはデビッド・ラシャペルだった。学校を卒業して、ニューヨークにやってきた。当時のボーイフレンドだったロブ・プルイットもアーティストで、2人は「プルイット・アーリー」というユニット名で活動を始めた。
「ギャラリーもついて、若くて勢いのあるアーティスト・ユニットとして、名も知られるようになった。あるとき、2人でヒップホップをテーマにしたショーをやった。ヒップホップは僕らのまわりに存在していたし、自然なことのように思えた。けれど、南部出身の白人のゲイのカップルが、黒人のカルチャーを題材にすることを人々は好まなかった。僕らは批判に晒されて、そのストレスのあまり、ロブとの関係性も悪くなった。僕はアートを作るのをやめて、人のアパートにペンキを塗ったりして生計を立てるようになった」
(2人がヒップホップをテーマにして開催した1992年のショーの作品の一部は、2009年にテイト・モダン美術館が開催した「ポップライフ」というタイトルのショーに展示された。)
10年以上アートから離れていた間、ジャックは作曲をするようになった。楽器はひけないけれど、メロディを作って、ミュージシャンの友人たちに演奏してもらううちに、曲を使いたいというリクエストが舞い込むようになった。そのうちに「アートと音楽をミックスすればいいんだ」と気がついた。
ジャックは数年前からまたアートを作っている。今年ファーガス・マカフェリー・ギャラリーで発表した個展は、幼少時代の自分と家族を模したクッションを配置したインスターレション、子供時代に好きだった壁紙をスクリーンにしてその上にモチーフを描いたペインティング、ライフストーリーを楽曲にまとめたレコードをかける蓄音機を組み合わせたものだった。
「10歳になる前に自分がゲイだと気が付き、15歳になってそれがみんなにバレたら自殺しなければならないと考えて悩んでいた子供時代を作品にまとめたんだ。作品を作ることがセラピーのような効果を持つことが初めてわかった」
その数日前、オーランドのゲイ・クラブで銃の乱射事件が起きたばかりだったから、ひとしきりその話をした。
今、ジャックはグリーンポイントのスタジオと自宅を往復する日々を送っている。80年代から暮らしてきたニューヨークは、年をとった自分にフィットしなくなってきたと思うこともある。
「でも間違わないでほしい。ここはマジカルな場所だ。自転車に乗っていれば、街中のいたるところで人にばったり会うことができる。それがニューヨークの魔法なんだ」