Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
\nサマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
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\n\n\n\nUNSUNG NEW YORKERS
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\nThis place changed me as a person forever. What cultural enrichment does to your perception of the world is everything.
\nこの街は自分という人間を永遠に変えた。文化的な豊かさを得ることは、自分の世界観には万能の存在だから。
長いこと、ヒップ系の床屋のオペレーションをやってきたリキ・ブライアンが、ジムをオープンした。何度か「トレーニングに来いよ」と誘われながら、なかなか足が向かなかったのは、勝手に「ハードコアなワークアウトマニアのためのジム」だと思い込んでいたからだ。共通の友人が「これまで体験したことのないタイプのワークアウトだった」と感想を教えてくれたので、訪ねてみることにした。
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\n初めて参加する人のために設けられたイントロのクラスを取材(体験)するために、ブルックリンのかつて倉庫だったロフト式建築の中にある<ハード・ボイルド・ホリスティック>を訪れた。少人数の生徒を相手に、リキが基本になる動きを教えてくれる。曲線的な動きが多く、スクワット、腕立て伏せ、というようなベーシックな動きも、全身の筋肉をくまなく使うように、アレンジや改良を加え、リキがいままで学んできた多くのワークアウトの宗派から考え方や動きを取り入れている。
\n「既存のジムからは一線を画す<アンチ・ジム>の概念、モビリティ(可動性)を基盤に考案した動き(床を這いつくばったり、転がったりといった動きを使う)を取り入れている。僕はワークアウトをするためにワークアウトするのは好きじゃない。自然のなかを駆けまわったり、山に上ったりという体の動かし方のほうがよっぽど好きだ。でも、ニューヨークのような忙しい場所では、誰もが自然に出て行く時間を持っているわけじゃない。だからその他のスポーツの実践を念頭においた<ファンクショナル・フィットネス>をやることで、自然に出て行くときに備えることができるというスタイルでやっている」
\n元パートナーが所有していたジムを引き継いで<ハード・ボイルド・ホリスティック>に改名した。
\nいつも体を動かすことに興味があったというリキだけれど、ワークアウトの世界に身を置こうと思ったのは、自分自身の出自と大いに関係がある。親戚や家族に、躁鬱、麻薬中毒、宗教など、精神と関わる問題を抱える人が多く、そういう大人たちを見て育ち、自分自身の体験から、健全な体を持ち、適度にエクササイズをし、睡眠を得ることが、自分の精神の健全性を保つのに役に立つと知ったから。
\n「人は『自分も健康であるべきだよね』と口には出すけれど、その重要性は看過されがちだ。鬱や中毒に苦しんでいる人たちは、ヘルシーな食事や睡眠の重要さに気がつかないことも多い」
\n\u3000従兄弟のひとりをオーバードーズ(麻薬中毒)で失ったことで、精神病や中毒に苦しむ若者が暮らすことのできる、精神に良い食べ方や体の動かし方と触れることのできる新しいタイプのリハビリを作りたいと思うようになった。このジムを開いたのは、そのための第一歩なのだという。
\n既存のポーズや動きをアレンジして独自のものにしている。
\n音楽をやるためにでてきたニューヨークだけれど、縁があって床屋の運営をするようになった。チェーンの拡大のために、他の都市に派遣されたり、自分の意志でこの街から去ったこともある。「それでも縁があってまた舞い戻ってきた。ニューヨークは金銭的圧力と苦労の多い街だから、他の場所に移って、もっとリラックスした暮らしをしたいと思うときもある。実際、今もそう思ってる。でも、この街が自分を永久に違う存在にしたことは確か。文化的な豊かさを得ることは、自分の世界観には万能の存在だから。この街に来るまで、日本人を見たことはなかったし、日本食を食べたことだってなかったんだ」
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Navigator
佐久間 裕美子
ニューヨーク在住ライター。1973年生まれ。東京育ち。慶應大学卒業後、イェール大学で修士号を取得。1998年からニューヨーク在住。出版社、通信社などを経て2003年に独立。政治家(アル・ゴア副大統領、ショーペン元スウェーデン首相)、作家(カズオ・イシグロ、ポール・オースター)、デザイナー(川久保玲、トム・フォード)、アーティスト(草間彌生、ジェフ・クーンズ、杉本博司)など、幅広いジャンルにわたり多数の著名人・クリエーターにインタビュー。著書に「ヒップな生活革命」(朝日出版社)、翻訳書に「世界を動かすプレゼン力」(NHK出版)、「テロリストの息子」(朝日出版社)。
\nニューヨークは広大なネットワークの中心点。
\n\n\n新しいタイプの体験を作ることができるから、今まだ僕はここにいる。
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