Reading the leading shoes

アレン・エドモンズのパークアヴェニュー


Mar 11th, 2015

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

「グッドイヤー靴は硬いから」と敬遠する人も、
屈曲性に富む、この靴なら気軽に履き込めます

革靴の話をする際、その製法について触れる機会が少なくありません。靴における「製法」とは、基本的にアッパーとソールの取り付け方法、すなわち底付け法のこと。

ビスポークに多く見られるハンドソーンウェルテッド、イタリア靴に象徴されるマッケイ、トレッキングブーツなどに採用されるステッチダウン、安価な靴に多いセメンテッド……とさまざまありますが、どの製法かで歩行中の反(かえ)り具合や耐久性、ソール交換の可否、靴全体の見栄えなどが違ってくるのですから、製法ってとても大事なんです。

ところで、高級革靴で最も一般的な製法といえば、グッドイヤーウェルテッドです。機械製法の一種で、アッパーと中底、ウエルト(コバ、細革とも)を「すくい縫い」という方法で縫い合わせた後、中底にコルク(クッションなどの役割をする)やシャンク(土踏まず部分を支える芯材)を仕込み、「出し縫い」なる技法で、そのウエルトに本底を縫合。

と、ここまでは古くからあった総手縫い製法のハンドソーンウェルテッド(前述)と共通ですが、すくい縫いも出し縫いも、それぞれ専用の機械が使われる点などではハンドソーンウェルテッドと大きく異なります。

では、なぜすくい縫いと出し縫いの2段階なのか? 理由はいくつかありますが、決定的なのは、本底交換がより多くできる点にあると思うのです。本底の取り外しの際、出し縫いのみをほどけばすむので、薄い革でできたアッパーやライナーを傷めないというリペアの観点から、これは非常に合理的な構造といえます。

そのほかにも堅牢であるとか、履き込むと足馴染みがよくなるなどの利点をもつこの製法は1879年、アメリカの発明家チャールズ・グッドイヤーJr.によって開発されました。これにより、多くの分野で生産性の向上が達成された産業革命の末期に、ようやく靴も本格的な量産化が実現したのです。

ちなみに、この人の父親のチャールズ・グッドイヤーはゴム加硫法の発明で非常に有名で、タイヤメーカーである米グッドイヤー社の社名の由来にもなった人物です(同社との直接的な関係はありません)。のちに、その加硫法の応用から、スニーカーなどに採用されるバルカナイズド製法が誕生。奇しくもこの父と子は、ともに靴の製法において大きな貢献を果たしたわけです。

ところで、グッドイヤー製法の靴と聞いて、英国靴をイメージされる人は多いかと思います。が、この製法自体は先述どおり、アメリカで誕生しているのです。ですから、同国でも正統的ドレスシューズはグッドイヤー製法です。そして、それはいまなお、メイド・インUSAを貫くアレン エドモンズ(1922年、アメリカ中北部ウィスコンシン州ベルギーで創業)も例外ではありません。

ということで、ここでは同ブランドの象徴的存在「パークアヴェニュー」を取り上げました。ややポッテリしたフォルムは、いかにも米国靴という印象。それゆえにキャップトウオックスというドレッシーなパターンながら、「パークアヴェニュー」にあってはスーツにも、ジャケットスタイルにもよく合い、デニムと合わせても違和感なく、パンツの裾幅も選ばない。

そんな懐の深さが一番の持ち味です。また、左右のアイレットのインターバールが短いのも特徴で、このため、少々ユーモラスな表情である点に好感がもてます。また、このモデルを含むアレン エドモンズのグッドイヤー靴には、実はシャンク(先述)が仕込まれていません。

土踏まず周りの底落ちを防ぐシャンクをあえて廃しているのは、歩くたびに屈曲する足に靴がフレキシブルについていくことを優先しているため。ですから「履き心地が硬いから」とグッドイヤー靴を敬遠している人にもオススメできる靴なのです。

(問い合わせ先)
トレーディングポスト青山本店
電話:03-5474-8725
価格:70,000円+税

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

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