FASHION & CINEMA

Vol.6 ファッションと映画とニューヨーク


Apr 6th, 2016

Illust & text_michika ishikawa
edit_rhino inc.

いつの時代も、ファッションのヒントがつまった映画の世界。ニューヨーカーマガジンでは「ファッションと映画とニューヨーク」をテーマに、イラストレーター・エッセイスト、石川三千花さんによるシネマコラムをお届け。Vol.06の今回は、ニューヨークのストリートアーティストをテーマにした2作品『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』('16)、『バスキア』('96)の魅力を探ります。

世界中のアーティストが成功を求めて集まるニューヨーク。アーティストが大成を遂げる方法は、ギャラリーでの展覧会だけではない。ストリートから生まれた偉大なアーティストのパワーに触れてみよう。


01『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』

正体不明のストリートアーティスト、バンクシーが2013年10月1日から1ヶ月の間、毎日1点1作品をニューヨークの路上に残したドキュメンタリー。
SNSを駆使して人々は「宝探し」に加熱する。

「アートは市民とともにあるべきだ」と持論するバンクシーの作品は、スプレーでのグラフィティーや廃材で作られたオブジェなど、日によって違う。それらはネットであっという間に拡散されるのだ。

バンクシーの作品を追っかけしているニューヨーカーたちのファッションも様々だ。ニット帽を被り、モノクロファッションに赤を効かせたカジュアルな格好の2人は、ストリートにマッチしたおしゃれで目を引いた。


02『バスキア』

ストリートアーティストから80年代に一気にスター画家となったジャン=ミシェル・バスキアの伝記映画。27歳で他界するまでの、天才画家の栄光と孤独を描く。ウォーホル役でデヴィッド・ボウイが出演。

野心的なバスキアの売り出しに協力する美術評論家のルネや、画廊のオーナーの金銭的な援助を受けて、溢れ出るイメージを次々とキャンバスにぶつけるバスキア。その自由な創作スタイルは、後にウォーホルにも嫉妬されるほど。

ニューペインティングのスターアーティストになったバスキアは、服装もこぎれいになりコム・デ・ギャルソンのファッションショーにゲスト出演もしたが、彼自身は恋人ともうまくいかず孤独だった。

『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』で描かれているニューヨークのアートシーンは、まさに今日的な示唆に富んだ状況を映している。ニューヨークのストリートをジャックしたバンクシーのアートが発端となり、ソーシャルメディアによる情報が人々を作品探しに突き動かす。その騒動そのものを含めてアートなのだというように、人々はバンクシーに熱狂するのだ。公共の場所にあったバンクシーの作品が盗まれて、高額な値段がつくところなどは、80年代のストリートから生まれたスター、バスキアを彷彿させる。

『バスキア』の時代はまだネット社会以前の話なので、バスキアの名声は主に紙媒体やテレビを通してだったが、アートバブル期ということもあり、彼の自由で圧倒的な作風により一気に時代の寵児となった。ドレッドヘアのナイスルッキングな黒人画家、というのも人気の要因だったと思う。バスキアとウォーホルは真の友情で結ばれていたが、2人がグラフィティーだらけのソーホーあたりを歩く様は、まさにニューヨークらしい光景だ。

バンクシーとバスキア。前者は時代を深読みして人々を先導し、後者は時代に呑み込まれて麻薬により若くしてこの世を去った。だが、アートにとりつかれた両者にとって、ニューヨークはやはり特別な場所だったに違いない。


INFORMATION

『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』
監督:クリス・モーカーベル
提供:パルコ
配給:アップリンク、パルコ
渋谷シネクイント、渋谷アップリンクほか、大ヒット上映中
『バスキア』
監督・脚本:ジュリアン・シュナーベル
出演:ジェフリー・ライト、デヴィッド・ボウイ、ベニチオ・デル・トロ、デニス・ホッパー、ゲイリー・オールドマン、クリストファー・ウォーケン、ウィリアム・デフォー、クレア・フォーラニ、コートニー・ラヴ
ブルーレイ 4/20(水)より発売 ¥3,800+税  DVD発売中 ¥2,800+税
ポニーキャニオン

PROFILE
石川三千花

イラストレーター、エッセイスト。映画やファッションについて独自の視点からのイラスト&文章が好評。著書に『石川三千花の勝手にオスカー』(集英社)他。

Vol.7 ファッションと映画とニューヨーク

Vol.5 ファッションと映画とニューヨーク


FEATURED ARTICLES

Mar 2nd, 2017

ICON OF TRAD

Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。

サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...

Mar 9th, 2017

HOW TO

ジップアップ パーカ Vol.01

氷雪地帯で生活をしていたアラスカ先住民のイヌイット民族が、アザラシやトナカイなど、動物の皮革でフード付きの上着(アノラッ...

Oct 20th, 2016

HOW TO

ストライプ スーツ Vol.02

Vol.01のディテール解説に続き、Vol.02ではストライプスーツを着こなすスタイリングを提案。Vゾーンのアレンジで印象はぐっと変え...

Mar 2nd, 2016

ICON OF TRAD

Vol.39 女性がほんらい男物だったトレンチコートを着るとき

そもそも男性服であったトレンチコートは、どのようにして女性たちの間に浸透していったのだろうか?

Aug 25th, 2016

HOW TO

ネイビーブレザー Vol.01

アメリカントラディショナルファッションの代名詞ともいうべきネイビーブレザーは、日本では《紺ブレ》の愛称で親しまれている。...

Jan 12th, 2017

HOW TO

トレンチコート Vol.01

トレンチコートが生まれたのは第一次世界大戦下でのこと。イギリス軍が西部戦線での長い塹壕(=トレンチ)に耐えるために、悪天...


YOU MAY ALSO LIKE