FASHION & CINEMA

Vol.5 ファッションと映画とニューヨーク


Jan 6th, 2016

Illust & text_michika ishikawa
edit_rhino inc.

いつの時代も、ファッションのヒントがつまった映画の世界。ニューヨーカーマガジンでは「ファッションと映画とニューヨーク」をテーマに、イラストレーター・エッセイスト、石川三千花さんによるシネマコラムをお届け。Vol.05の今回は、ニューヨークを舞台にした2作品『キャロル』('16)、『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』('01)の魅力を、ヒロインたちのスタイルから探ります。

数々のラブストーリーの名作が生まれる大都会、ニューヨーク。その愛の形もこの街ならば自由に育むことができる。スタイルを持つ恋するヒロインたちの、毛皮のコートの着こなしにも目が奪われる。


01『キャロル』

1952年のニューヨーク。百貨店で働くテレーズは、娘のプレゼントを買いに来た美しいキャロルに出会った。愛のない結婚に終止符を打とうとしていたキャロルと、彼女に憧れを抱くテレーズの愛の物語。

キャロルは、テレーズをランチに誘う。エレガントな着こなしのキャロルに見とれるテレーズを、「天から落ちた天使」と言って愛おしむキャロル。惹かれあう2人は、一緒に旅に出るのだがー。

キャロルを演じるケイト・ブランシェットのクラシックな毛皮のコートの着こなしは、ハット、スカーフ、革の手袋、ハンドバッグなど小物使いに至るまで完璧に美しく、50年代のニューヨークにマッチしている。


02『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』

テネンバウムズ家の3人の子供たちは、10代で成功した天才児だった。だが20年後、一家は家族崩壊して子供たちもそれぞれ問題を抱えていた。父親のテネンバウム氏は再び家族の絆を取り戻そうとする。

3人の子供たちのファッションがとてもユニークなのだが、特に長女マーゴのラコステのポロワンピースと毛皮のコートのミスマッチさが超おしゃれだ。次男リッチーとのプラトニックラブな関係も何だかかわいい。

長女で劇作家のマーゴを演じるグウィネス・パルトローが、ゴージャスなフェンディの毛皮をぐっとモダンでモードに着こなし印象的だ。ブロンドのボブヘアと濃いアイメイクも、彼女の無表情演技にマッチしてる。

恋もおしゃれも自分流。それが自然にできてしまうのがニューヨークだ。『キャロル』は50年代にはまだタブー視されていた同性愛の描写があるが、作品からは、愛する人に出会って心ときめく純粋な人間同士の情感が伝わってくる。
ケイト・ブランシェットの大人の女性の優美なファッションはもちろん、テレーズ役のルーニー・マーラが写真家となって成長して、美しさが増してくるところにも注目だ。

『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』は、ウェス・アンダーソン監督らしいヴィジュアルのこだわりがファッションにも色濃く出ている。長男のチャスはいつもアディダスの赤いジャージ。次男のリッチーはフィラのテニスウェア。そしてマーゴはラコステのポロワンピースに毛皮のコートというように、服装で彼らの特徴を出しているのだ。ユーモラスでありながら、やっぱりおしゃれに見えるセンスの良さ。姉と弟の愛の行方も浮世離れしてみえた。

それぞれが自分らしく生きるのが、一番のしあわせ。ニューヨークを舞台にした映画を観ると、恋もファッションももっと自由にしていいんだ、と勇気がもらえる気がした。


INFORMATION

『キャロル』
監督:トッド・ヘインズ
脚本:フィリス・ナジー
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー
配給:ファントム・フィルム
2016年2月11日(木・祝)より、全国ロードショー
©NUMBER 9 FILMS (CAROL) LIMITED / CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION 2014 ALL RIGHTS RESERVED
 
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ジーン・ハックマン、アンジェリカ・ヒューストン、グウィネス・パルトロー、ベン・スティラー、ビル・マーレイ

PROFILE
石川三千花

イラストレーター、エッセイスト。映画やファッションについて独自の視点からのイラスト&文章が好評。著書に『石川三千花の勝手にオスカー』(集英社)他。

Vol.6 ファッションと映画とニューヨーク

Vol.4『マイ・インターン』(’15)、『ある愛の詩』(’70)


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