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尾崎雄飛の珈琲天国
珈琲を飲み始めて今年で20年になる。60歳の人からすると甚だあまちゃんだろうが、僕は今33歳なので、この人生における喫茶歴としてはそれなりに長い方ではないか。きっかけは単純。モテたかったのだ。13歳の僕は『ポパイ』や『ホットドッグ』なんかを読んで、男子がモテるためには?ってことをみうらじゅんさんや北方謙三さんなんかに教わっていて、僕にとって「珈琲を飲む、それもブラックだ」というのは、少年のナルシズムを満たすための神聖な儀式であった。苦さを我慢するのもサディスティックな快感で、口中に染み渡る苦さを乗り越えるたび、またひとつ大人になれた気がした。
20年後、すっかりいい大人になった僕にとって、珈琲はもう儀式ではなくなった。慌ただしい生活の中で生まれる、少しの空白の時間に、その時々のための珈琲を飲んでいる。夏の日の昼過ぎ、雨の日の夕方、会議のある朝、恋人と過ごす夕べ。様々な生活の場面があるが、夏にはコーノ式紙ドリップで浅煎りケニアを、雨の日はエチオピアを珈琲プレスで。朝には「クレバー」のドリッパーで中煎りのブラジルの豆。夜ならウイスキーを加えてアイリッシュコーヒーにするのもいい、といった具合に、珈琲は僕の生活のあらゆる場面に応えてくれる。
珈琲にはいわゆる「カップ・オブ・エクセレンス」という評価の高い珈琲もあるし、好きな人なら「ブルマン」とか「ゲイシャ」なんて呼ばれる高級品も聞いたことがあるだろうが、珈琲は「一番」を決めていない。ワインなんかと同じ様に、美味しさに順位は無く、希少性や味の特徴の強さやバランスに価値や評価がついて、様々な美味のバリエーションが並列に広がっている。だから、珈琲において一番重要なのはその「飲み方」だ。どんなに高価で高評価な豆を入手しても、淹れ方が悪ければその豆のポテンシャルを引き出すことは出来ないし、飲むタイミング次第では美味い珈琲だって飲み切れないこともある。
そこで、珈琲をコーディネートすることをオススメしたい。そう、ちょうどその日その時の気分で洋服をコーディネートするみたいに。この「珈琲天国」では、毎日の生活で珈琲を飲むとき、その気分にフィットする珈琲の選び方や、淹れ方なんかを、僕の体験を交えながら淡々と語っていきたい。亜流や邪道もあろうが、珈琲は自由で、とても楽しく美味しいということを伝えられたら本望だ。
今月の一杯
この夏、ハワイの「WHOLE FOODS MARKET」で見つけた〈Rusty’s Hawaiian〉の「クラシック・ロースト」を秋の午後に。甘みと苦みを中軸に、さわやかな花の薫りを従わせた端正な味。少し深めのミディアムローストは、ケメックスでさっぱりと淹れたい。ハワイ島産にしては意外にも酸味が目立たないところがお気に入り。
PROFILE
尾崎 雄飛
2001年よりセレクトショップのバイヤーとして勤務後、2007年に〈フィルメランジ ェ(FilMelange)〉を立ち上げる。2011年に独立し、フリーランスのデザイナーとして様々なブランドのデザイン、ディレクションを手がける。そして2012年1月に自身のブランド〈サンカッケー(SUN/kakke)〉をスタート。現在、様々な商品のブランディングも務めている。
朝、コーヒーを飲むということ
ぼくの好きな珈琲