食べて「発見」。

内臓に染み渡る、身震い必至のベトナム料理。


Mar 30th, 2016

text_junichi kobayashi
photo_sono(bean)

世の中に“美味いもん”は多々ありますが、そんな“美味いもん”と確実に出合う方法はないものか…? なんて考えたことは、食いしん坊ならきっとあるはず(…いや、ないか? …まぁいいか。笑)。でもちょっと待て。確かに調理技術や食材の良し悪し、料理を味わう環境や一緒に食べる人など、さまざまな条件が重なり合ったときに「美味しいなぁ」と実感しますが、“美味しい料理”と“美味いもん”とは、ちょっと別モノのような気が。今回はどちらかというと“美味いもん”を繰り出す、こんなお店をご紹介しましょう。

SHOP INFO
ベトナム料理☆ビストロ オーセンティック
TEL:03-6802-8545
住所:東京都台東区浅草1-1-12 浅草地下商店街
(地下鉄銀座線浅草駅直結。8番出口の階段前を左折)
営業時間:18:00〜22:30
定休日:月水土日祝(水土日は松戸店にて営業中)
13席(カウンター7席、店外6席)

「美味いもんを食わせたい!」 

のっけから言葉遣いが荒々しくて恐縮至極ですが「美味しい食事をお召し上がりいただきたい」という瀟洒な言葉遣いでは伝わらない“熱気”のようなものが、料理から、そして厨房から立ち昇るような店が好きです。そんな熱気は、内装の清濁や料金の高低とは関係なく存在するようで、思いもよらぬ街の意外な店でその熱気と出くわすことが、これまたなんとも愉快です。…例えばこの店。その名は「Authentique(オーセンティック)」。ベトナム料理の名店として有名です。

場所は東京メトロ銀座線の浅草駅構内。改札口からそのまま続く「浅草地下商店街」の一角に店はあります。訊けば、日本で一二を争うほど古い地下街だとのことで、改札口を出た瞬間から店までの1分ほどの時間が、なんだかとってもワクワクタイムなのです。

立ち食いそば屋や立ち呑み酒場、わずか700円で調髪してくれる理髪店などを横目に眺め、なぜか占いの館が多いことに首を傾けつつ歩を進めれば、なんだか時間を遡っているような、切なくて甘酸っぱいキモチに浸れるような、そんな実に味わい深い商店街に「オーセンティック」はあります。

店頭に置かれたビニールクロスのテーブル、店内に並べられたキュートな食器たち、店全体を包み込む雑然としているのに整理されている雰囲気。そんないろいろが相俟って“使い込まれた屋台感”をゆらゆらと漂わせています。訊けば店舗はわずか4坪。カウンターは7席のみ。隣席と肩を寄せ合いながら食事する感覚も、実にアジアな趣きで、Very ベトナム。

品書きに目を落とせば「ハーブたっぷりの生春巻き(370円)」や「角煮(1030円)」や鶏ではなく牛肉の「フォー・ボー(880円)」など、屋台で味わえそうなメニューだけでなく、例えばベトナムのスパイスで香味付けしてつくる「豚肉のリエット(バゲット付き、700円)」や、「ハチミツと黒胡椒のたれで焼いたウズラ(1250円)」など、かつてフランスの植民地だった頃を思わせるビストロっぽいお料理も。

さて。注文です。なんといっても外せないのは「Authentique特製 揚げ春巻き(400円/1本)」。スパイスが品よく香る、挽き肉とエビ、かになど約20種類の食材をミックスさせた具材を巻いた春巻きが、盛りだくさんのハーブ類に埋もれるようにして供されます。惜しげも無くハーブを大盤振る舞いする感じ、ベトナムのレストランと同じなのかもしれません。美味!

続いて登場したのは「香菜とパイナップルのサラダ(1100円)」。ベトナムの調味料などからつくられる自家製ドレッシングで調味され、揚げオニオンがトッピングされたこのサラダは、フレッシュなパイナップルの甘味と香菜の青い香りとの相性が意外なほどにすこぶる良好。間違いなく驚ける一品です。

このスープも絶品です。「有機紫山芋とたたき海老のベトナムスープ(1280円)」というベトナム南部の名物料理。すりおろした山芋を鶏の出汁で溶いた、和食でいうところの「すりながし」のようなスープなのですが、これがすごい。レンゲで口へと運んだ瞬間に、鶏のうま味と海老の出汁とが、粘度を帯びた紫山芋に溶け込んで舌全体を包み込み、美味しさが舌の上でがっちりとグリップする感覚は、図らずも悶絶級の美味しさです。

とにもかくにも「美味いもんを食わせたい」。ふと厨房に心を向けると、そんなアツい心意気が小さな厨房から繰り出されていることに気付くはず。その熱気の主は、オーセンティックを切り盛りする中塚雅之さんと森泉麻美子さん。…さて。2人はなぜそれほどまでに「美味いもん食わせたい!」のでしょうか? そのモチベーションはどこに端を発しているのでしょうか?

「初めてベトナムに赴いたのは今から15年ほど前のことでした。街に出て少し歩いただけで、とてつもなく強烈な“暮らしの熱気”に圧倒されたことを今でも鮮明に覚えています。その瞬間にやられました。“この国は美味しいものに満ちているに違いない”と。飲食店の軒先で焼かれる肉や魚の香り、多種多様な香しいハーブたち、そしてうま味を軸にしているという点で和食にも通じる点があるものの、味付けや香りづけは実に独特。ベトナムの高級料理店から屋台まで、現地で味わった料理の味は、どれも身震いするほどの美味さでした」

食事としての正しいあり方がそこにはあった、という中塚さん。1人でも多くの人々に、ベトナム料理の美味しさを知って欲しい。そしてベトナムという国に関心を持って欲しい。“ベトナムの食文化を伝えたい”という目的を達成するために中塚さんは“とにかく日本で可能な限り最高級のベトナム料理を再現する”という手段を選びました。

さて。〆の一品は「コム・ヘン(1100円)」。「コム」とはお米で「ヘン」はシジミ。額に汗する辛味のシジミ雑炊といったところでしょうか。まずはスープをひと口。滋味深い海のうま味が胃袋に染み渡ります。そのうま味を存分に吸い込んだお米がこれまた美味い。舌でもなく胃袋でもなく、心で食べたい…そんな料理たち。…いやはや、感服です。

実は事前に予約すればコース仕立てで、レギュラーメニューには載っていないマニアックな料理もつくってくれます。例えば「ベトナム北部と国境を接する中国南部との食文化の違いや共通点を感じられるようなコースで…」というオーダーに対して、2人が投げたボールが以下のような料理たち。本気でやばいですよ、これは。敢えて説明はしませんので、ぜひ一度、ご予約のうえで体験してみてください。お一人様5150円の価値はかなりあります。全9品(+デザート)!

◉牡蠣のオイル漬け(ベトナム南部のブンタウ)

◉ヌクチャムで食べるハノイ風の生春巻き

◉蓮の菊のハノイ風ゴイ(ゴイとはサラダもしくは和え物のこと)

◉ハノイでよく出てくるようなコーンスープ

◉紫コールラビの肉詰め

◉海老の青米揚げ(ハノイ名物)

◉ベトナム産カエルのレモングラス炒め

◉牛肉とセリの炒めもの

◉ハノイ名物 ブン・チャー(米粉の素麺を、揚げ春巻きやハーブと一緒につけタレでいただきます)

※表示価格は全て税込みです。

PROFILE
小林 淳一

東京メトロ駅構内で配布するフリーマガジン『Metro min.』、食材のカルチャー誌『旬がまるごと』などの編集長を経て、食の分野で編集者として活躍、郷土料理や食材を求めて全国各地へ。青森県では観光国際戦略局の観光アドバイザーも務める。

2016年中にデートで行きたい、良質ビストロ

楽しいが美味しいに繋がる、とにかく明るい日本酒バル


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