食べて「発見」。

楽しいが美味しいに繋がる、とにかく明るい日本酒バル


Feb 24th, 2016

text_tomoko oishi
photo_yu nakaniwa

かつては仕事のあとの一杯といえばビールで、ひと口めで「くぅ〜」となっていたのですが、最近、それが日本酒に変わることも増えてきました。そして食中酒が日本酒になることも多くなった。そんな風に、私にこれまで気づかなかった日本酒の魅力を教えてくれるのは、カジュアルかつ日本酒の揃えも豊富な“新酒場”。今回はその典型ともいえる、楽しく酔えるお店をご紹介します。

SHOP INFO
青二才 神保町
TEL:03-5244-5244
住所:東京都千代田区神田錦町3-22 テラススクエア1F
営業時間:11:30〜14:00(月〜金)/17:00〜24:00
定休日:日曜祝日
席数:51席

ごく稀に飲食店で、店長やシェフがお客の前で冷たくスタッフを叱っているのを見ると、こちらも緊張して辛くなります。極端に言うと料理の味が分からなくなってしまう。私、“お酒がないと食事がひと口も進まない病”をもっていますが、“気分によって味が大きく左右される病”でもあったりします。

でもそれって、一般的に多くの人がそうなのだろうと思います。リラックスして楽しい会話をしながら食べる料理に勝るものはありませんよね。それにはお店の雰囲気も加担するのですが、最近、お客さんたちがみんな楽しそうだなと思ったのがこちらの『青二才 神保町店』です。

お店を知ったきっかけは、アナウンサーで利酒師でもあるあおい有紀さんが勧めてくれたことでした。ご存知のとおり、近年は日本酒が大ブームで、日本酒に特化したお店が都内にも次々と増えています。

洗練された割烹に近いお店、珍しいお酒を揃える日本酒通が集まるお店などいろいろあるのですが、今回、私がこちらの『青二才 神保町店』を選んだのは、気軽でお店がとにかく明るかったから。コンセプトは“日本酒バル”。その名のとおり、バルのようなノリで気の向くままにさくっと日本酒を楽しめます。

なぜこのお店が明るいのか考えたとき、ひとつは社長の小椋道太さんのキャラクターはあるのだろうなと。飲食店を取材してよく思うのが、お店はオーナーそのものだということ。私たちが『青二才 神保町店』を取材で訪れたとき、小椋さんはスタッフの男性に「最近、太りすぎなんじゃないですか〜」と後ろから両手でお腹をプニプニと揉まれていました。威厳がないという見方もありますが、仲がいいことは間違いありません。実際に営業中はスタッフたちが楽しそうに働いていて、みんな元気で女性のスタッフも腹から声を出しています。

それだけではなく、みなさん若いのに日本酒の知識が豊富でおすすめ上手。私は日本酒を飲むのは大好きで、日本酒のことをもっと知りたいと思うのですが、どうも理系の勉強のような気がしてなかなか知識がすんなり頭に入ってこない。そんな人間にも、味やタイプをやわらかい言葉で教えてくれます。

そういった雰囲気のためか、店の9割は日本酒初心者だとか。恋愛話をするOLふたり組、日本酒を教えたい上司とその部下、カウンターでひとり本を読む女性客など、客層は実にさまざま。

とはいえ、日本酒が詳しい人でも存分に満足できるよう、ラインナップに手抜きはありません。常時60種類も揃える日本酒は、毎日6〜7本は入れ替わり、メニューも毎日最新のものをプリント。これ、細かいところですが素晴らしいと思います。

それも銘柄別の価格ではなく、3勺(60ml 390円)、5勺(90ml 540円)、8勺(150ml 840円)と一律価格なのが気持ちいい。なかには原価に合わないお宝商品も交じっているとか。一律価格の美点を小椋さんは以下のように話していました。「高いから美味しいと心理的にそう思ってしまうこともあるかもしれませんが、一律ならそうならない。自分の好みを自由に探してほしいです」
3勺からなのでたくさんの種類を飲み比べられるのも楽しいし、ひとつのお酒を温度違いで試すのもありでしょう。

ちなみに私は上の写真にある「風の森」「田中六五」「七田」はあれば呑むお気に入りのブランドです。

おちょこの他に4種類のグラスがあり、香りがいいお酒を呑むための白ワイングラス、キレのいいものを呑むためのグラッパグラスなど、そのテイストによって使い分けられます。

グラスについて小椋さんは、「うちはテラス席もあって窓が全面裁ち落としなので、脚つきのグラスなら前を通りかかった人からもスタイリッシュに見えるかなと。ぱっと見は日本酒の店と思わない人も多いかもしれなくて、そのギャップもいいですね」と、香り以外のメリットも教えてくれました。

フードで注目はこちらの日替わりの干物。ハイパー干物クリエイターの藤間義孝さんがつくった干物なのですが、とてもふっくらしていてジューシー。魚の水分がとんでいません。世の中的には“干物オンナ=恋愛を放棄した乾ききった女性”ですが、この干物なら、“恋愛を謳歌している女性”に意味合いが変わるでしょう! 手前は地鯖の味醂干し(780円)、奥はトロ鰯の味醂干し(580円)。

その名に味のすべてが表されている、“土鍋で燻製!粗びきソーセージ”(980円)。

国産牛イチボ肉のたたき〜焙煎胡麻ガーリックソース〜(1200円)。
このようなガッツリ肉料理や土鍋など食べごたえのあるメニューもあれば、クリームチーズの味噌漬けやイカの沖漬けなどのベーシックなつまみもあり。チーズのつまみには車麸ラスクを合わせるのがおすすめ。

店内には全国の蔵元さんたちのサインもあります。蔵元の方とお店の方のコミュニケーションがあるほど、スタッフのお酒の説明もリアルになり、お客もより身近に日本酒を感じられるはずです。

ここまで日本酒の話をしといてなんですが、この店、“紅茶ハイ”もよく出るんだとか。呑みたくなったら日本酒を呑めばいい。日本酒は目玉ではあるけれどあくまで選択肢のひとつ。それくらいの雰囲気なのでお客も肩肘はることなくお酒を楽しめます。私も今週は仕事帰りにでも、心身ともにほぐれるお燗を呑みに行きたい気分になってきました。

※料理の価格は全て税抜き表記です。

PROFILE
大石 智子

編集者・ライター。出版社勤務を経てフリーランスに。『GQ JAPAN』『東京カレンダー』『LEON』『メンズクラブ』など男性誌を中心に活動。趣味は海外のホテル&レストランリサーチ。

内臓に染み渡る、身震い必至のベトナム料理。

「食べること」に真正面から向き合える店。…素敵です。


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