Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
WITH ATTITUDE
本格的な夏の到来まで、あと少し。夏休みの予定は決まりましたか? 今月は古泉さん流の旅の楽しみ方をご紹介。 楽しい思い出をつくるための旅も良いですが、 心の奥まで満たされる“大人の旅”を経験してみてはいかがでしょうか。
夏旅で内面を磨く
そろそろ夏旅の季節だ。夏旅、という響きには、特別な高揚感がある。海派はあのロマンティックな夕暮れを、山派なら夜深くなってからの、緑の神秘的な静寂を思い起こすからかもしれない。私は断然、海派。バリ島のスミニャック、イタリアのリミニ……シャンパンの泡にも似た、切ない華やかさに満ちた海辺のサンセットを満喫する。それが旅の目的でもあり、目にした色合いや輝き、沸き起こる感情は、私の内面に積み重ねられているとも思う。行き先や目的がどうあれ、旅の醍醐味は日常と切り離されて、普段とは違う体験によって得られる「新しい発見」。それは単純に見たことのない風景や異なる文化であったり、自分自身の内面の変化ということもある。
ホスピタリティを楽しむ大人の旅
ホテルライフを満喫できたかどうかは、旅の印象を大きく左右する。雑誌のファッションページの撮影や取材を通してもホテルを時折利用するが、遠出する時間がなければ都心のホテルでも十分旅気分は楽しめる。ここ最近の私のお気に入りは、東京駅に程近い”パレスホテル”。皇居を目の前にしているためか、まず”気”がいいように思う。エントランスを抜けるとアロマのいい香りが漂い、スタッフが丁寧すぎてそらぞらしいこともなく、適度にフレンドリーでリラックスできる。お堀に面したテラスも居心地がいい。部屋からの眺めもビルと緑が共存し、東京の意外な美しさにも出合える。丸の内、大手町界隈は今後も”アマリンリゾート”のほか、温泉旅館として日本のおもてなしを発信する”星のや東京”の開業も予定されているというから、ホテルのホスピタリティを目的に東京の魅力を再発見する旅もおすすめだ。
一枚のワンピースが教えてくれたこと
旅のトランクの中身は、日常に必要な最小限のワードローブと言われる。日数に合わせて厳選しなくてはならないから、本当に必要なアイテムが否が応でも判明するのである。襟元にビジューのついたトップスはアクセサリーいらずだし、パンプスでもスニーカーでも女度を保てる9分丈パンツも必須。寒暖調整もできる薄手の大判ストールや、Tシャツにも女らしさを添えるロングパールも便利。但し合理性だけを考えると、せっかくの旅を堪能しきれない。春先に京都、奈良を旅した時のこと。吉野山の観桜が目的だったため、とにかく荷物を軽くしようと心掛けた。「一泊だし……」とワンピースを一瞬迷いながら省いてしまった。宿泊先は以前から興味のあった奈良ホテル。100年以上の歴史を誇る風格ある空間にそぐう一着があれば、ディナーをもっと素敵な気分で味わえたのに、と後悔しきり。一枚のワンピースが、日常に潤いをもたらすものが何であるかを気づかせてくれた。
旅行鞄専門店からスタートしたルイ・ヴィトンは、「旅とは人生そのもの」と謳っている。旅は非日常でありながら日常の凝縮でもある。そこがおもしろい。
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古泉洋子
ファッションエディター&ディレクター。大学卒業後、『ハーパースバザー』から『Mcシスター』まで、幅広い世代&ジャンルの編集部に在籍。現在は大人の女性誌のほか、新聞、ファッションブランドの広告などで誌面のトータルなディレクションを手掛けるほか、執筆も担当。著書に、信条である”着る人の内面を映し出すおしゃれ”を描いた『この服でもう一度輝く』(講談社)がある。
公式サイト http://koizumihiroko.com/
ディテールのこだわりが、印象を決める
ラクじゃないものにこそ艶は宿る