WITH ATTITUDE

ディテールのこだわりが、印象を決める


Aug 7th, 2013

text_Hiroko Koizumi
illust_Hitomi Hasegawa
edit_rhino inc

本格的な夏に突入し、暑い日が続いています。こうも暑いとついつい美意識も薄まってしまいがち……。今回は古泉さんならではの視線で、日々のちょっとした意識で女度が上がる、3つのストーリーを紹介します。


末端を磨けば、女が上がる

 今年は早くに梅雨が空けたうえに、いきなりの猛暑。夕方には決まってスコールのような雨が突然降り出し、亜熱帯さながら蒸し暑さが続く。我慢比べともいえる環境のなかではおしゃれも手抜きをしがちだが、薄着の夏は動きが細かいボディの末端が、服以上に印象を決めるといってもいい。

 まず手元、足元。女性にとっては楽しみのひとつ、ネイルは最小で最大の自己表現でもある。どんな色を選び、どれくらい遊びを加えているか、もしくは整えるのみで色は添えないか。手入れをしていない荒れた指先は問題外ではあるけれど、強烈に毒々しい手元のネイルアートは相当暑苦しい。

 例え自分が気に入っているとしても、ネイルに”魅せる”という側面もある以上、見る側のことを考えない自己中心的な内面、客観性の低さが透けてしまう。 もうひとつの注意すべき末端は髪。ボサボサで艶がなかったり、枝毛や退色を放置した髪はだらしなく、生活に疲れた印象を与える。指先にしても、髪にしても、丹念に手入れしている末端には豊かさと清潔感が漂う。うだるような真夏は何より末端を整えて、周囲に涼しさをもたらしたい。

男服の奥深さに学ぶ

 先日、ポロシャツを買うという男友達のショッピングにつきあう機会があった。メンズファッションの、決められた範囲での奥深さには改めて感心することが多い。

 クールビズで男性ビジネススタイルの夏の主役に躍り出たカジュアルなポロシャツでさえ、それは顕著だ。ショップで似て非なるポロシャツを吟味する。ポイントは衿元に集約されており、衿元の詰まり具合、衿の幅や開きの角度。そして最近では衿に新機能を搭載し、さりげなく立たせるものまである。微差の見極め方でまったく異なる表情が生まれ、着る人の人格さえも方向付けてしまうほど。

 女性のファッションもこのところ、ボーイッシュなトラッドが注目されているとあって、メンズの服選びに似たディテールへのこだわりが強くなっている。いわゆる白シャツでも、シワ感のある薄手なら衿元を開けて、少し厚手で硬めなら第一ボタンまで留めてストイックなムードを出すという、細かな使い分けを実践している人も多い。新たなアイディア源として、ストリートスナップを集めた人気の写真集『The Sartorialist』などで、メンズスナップを研究してみるのもヒントになりそうだ。

シンプル服を真夏に極める

 トラッドでなくても、一枚で形にしなくてはならない夏服はディテール勝負。私が何十年も憧れ続けているのが、60年代のイタリア映画『太陽はひとりぼっち』に主演していた、女優モニカ・ヴィッティのワンピース姿。アントニオーニ監督作品特有の荒涼とした雰囲気と、彼女が着ていた膝丈の白いタンクワンピースの上品な清潔感が絶妙のコントラストを感じさせ、「まさにこの感じ!」とツボにはまった。少し張りのあるシルクリネン風素材の高級感、鎖骨がのぞくボートネックの抑えた女らしさ、夏の白……シンプルだからこそ、ディテールにこだわるべきと教えてくれた。

 私自身シャツやブラウスより着こなしも簡単で、着心地もイージーな、ニットやカットソーといったシンプルなプルオーバーをトップスに選ぶことが多い。40代に入ってから、顔まわりに肌見せできるVネック型が鉄板だったが、昨秋くらいから違和感を憶えるようになった。この女っぽさ、予定より老けて見える、なんか決まらない……ルールから外れているかどうかという頭での判定ではなく、鏡の前に立ったときの心の率直な感想。「じゃ、こっち?」と首元から肌が覗かないタートルを着てみた。「わッ、それはそれで地味!」と間をとって着てみたのがクルーネック。「これこれ!」ようやく気分とフィットする衿開きを見つけた。たった衿開きのデザインだけの話なのに、全然印象が違う。クルーネックは、”全身に女っぽさ3割”な、今求める着こなしバランスに最適と気づいた。

 夏に欠かせない白Tシャツもディテールがすべて。衿開きはもとより、ボディにフィットする厚手の正統的なコットンタイプから、オーバーサイズのゆるくて透け感のあるテンセル素材まで基本の持ち味にも幅がある。イメージやシーンなど目的に合う一枚を探す過程には新しい発見も多い。暑さが堪える真夏こそ、実は服選びの真髄を知るとき。ディテールにこだわった究極のシンプル服で、涼しげに乗り切りたい。


NAVIGATOR
古泉洋子

ファッションエディター&ディレクター。大学卒業後、『ハーパースバザー』から『Mcシスター』まで、幅広い世代&ジャンルの編集部に在籍。現在は大人の女性誌のほか、新聞、ファッションブランドの広告などで誌面のトータルなディレクションを手掛けるほか、執筆も担当。著書に、信条である”着る人の内面を映し出すおしゃれ”を描いた『この服でもう一度輝く』(講談社)がある。
公式サイト http://koizumihiroko.com/

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