Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
WITH ATTITUDE
夏から秋への移り変わり…お洒落心をくすぐる季節になってきましたが、いざ何を着るか迷う時期でもありますよね。今回は、お洒落な人の着こなしは何が違う?古泉さんの視点で秋のスタイルが楽しめる3つのストーリーを紹介します。
バランス感覚が試される秋
肌で秋を感じると、どんなふうに季節の変化を表現しようかと誰しも考えるもの。まだまだ暑さが残る時期だから、素材や袖丈などはそのままにカラートーンからスイッチしていく人もいるだろうし、靴やバッグの先取り感で勝負しようという人もいるだろう。合理性という意味ではなく、できるだけ選んだアイテムを大切に着たいから、あまり先走らず、今の時期には秋のトレンドをキャッチし、何が自分に合うのか、じっくりファッションプランをつくって買い物する知性を持ちたい。
この秋は色も柄もテイストも、対極にあるものを大胆にミックスするのがトレンド。最大のポイントは男服と女服をどうミックスするか。それは何と何を組み合わせれば今年っぽいかという服のコーディネートのルールを前提に、自分自身の印象を俯瞰で捉えて、そのバランスを調整することが決め手になる。例えば華奢で小柄、おとなしい印象の人であれば、メンズライクな服の比重を大きくするか、ハードさを強めて配分する。逆に骨格がはっきりとした印象がきりっとしたタイプなら、同じシャツでも、とろみのあるしなやか素材を選ぶといい。トレンドを自分のなかに一度インプットして消化してからアウトプットする。そんな一見無駄とも思えるプロセスを踏むことが、同じ服を着てもおしゃれに見えるかどうかの大きなポイント。
ファッション撮影で実感する「演出力」
雑誌やカタログでの、モデルを使ったファッション撮影が、私の仕事のひとつなのだけれど、その現場でよく感じるのは、着る人が服以外の部分でいかに演出できるかも大きな勝負どころだということ。
ごく最近もニット+シャツ+パンツというカジュアルなリアルクローズを、人気モデルでシューティングする機会があった。誰もが知るモデルであれば、そういう普通の服を着ても土台がいいのだから、手を加えずに即おしゃれに見えるのだろうと思いがちだが、そういうわけではない。正しく服を着て普通にヘアメイクを整えてスタジオに立ったが、服自体に華やかさがあるわけではないのでどうにも決まらない。私はスタイリング担当として、彼女に対して大きめだった服のサイズ感を見えない箇所でピン打ちし、こなれ感を出すために袖をたくし上げた。
次にメイクで凛とした強さを加えるために眉をほんの少し太く描く。ヘアは逆毛を立てた上でブラッシングし、量感を加えた。最後に彼女は鏡に映る自身の雰囲気を確かめ、改めてスタジオに立った。するとどうだろう。地味で真面目だった最初の印象から、自信を持って微笑む彼女の姿は「この服、素敵!」と思えるキラキラとする輝きを放った。この撮影ではおしゃれに見えるということは、服以外の演出に寄るところが大きいと改めて感じた。
自己プロデュースが人生を決める?!
冴えない女性がどんなふうに磨きをかけ、おしゃれを極めていくかは、映画のストーリーでも学ぶことができる。古くは本屋に務める文学少女がフォトグラファーに見出され、女性として洗練されていくさまを描いたオードリー・ヘプバーンの『パリの恋人』。最近ではファッションエディターを夢見る女性を演じるアン・ハサウェイが、名物編集長の過酷な要求に応えていく『プラダを着た悪魔』が記憶に新しい。どちらも意図せずおしゃれを極めたことによって、女性として輝き、おしゃれにならなければ見えない世界があることを教えてくれる。
自分自身が他人からどんな風に見られているか、また見られたいか、自己プロデュースをしていくことは、たった一度の人生を揺るがす大きな問題。どう装うかは、大げさにいえばどう生きるか。もう一度自分自身を見つめ直してから、秋のおしゃれを考えるのも悪くない。
NAVIGATOR
古泉洋子
ファッションエディター&ディレクター。大学卒業後、『ハーパースバザー』から『Mcシスター』まで、幅広い世代&ジャンルの編集部に在籍。現在は大人の女性誌のほか、新聞、ファッションブランドの広告などで誌面のトータルなディレクションを手掛けるほか、執筆も担当。著書に、信条である”着る人の内面を映し出すおしゃれ”を描いた『この服でもう一度輝く』(講談社)がある。
公式サイト http://koizumihiroko.com/
何を着るかは「心」で決める
ディテールのこだわりが、印象を決める