Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
WITH ATTITUDE
「ファッションを衣料にしない」。「気分を感じる」。などの言葉を生み出す古泉さんのコラムはいつも私たちの心にすーっと馴染みます。今回はふとしたきっかけでファッションへの意欲が高まり、心がシンクロすることでよりお洒落に、そして人生へと輝きをもたらす、そんなストーリーを紹介します。
秋服へと気分を切り替えるきっかけ
夏から秋へと加速を高めたある日、早くも来春へのブリッジであるクルーズコレクションの取材で、グッチのブティックに出かけた。店に入り、エスカレーターで2階のフロアに上がる。すると、どこからともなくふわっとグラマラスな香りが鼻腔に広がった。「あ、外国の匂い……」と、具体的にどこの土地ということでもないのだけれど、海外の華やかな情景が脳裏に映し出された。その瞬間、まだ暑いから、とだらだらと着続けていた夏服から、秋のおしゃれがしたい! と気分が切り替わった。
そんな中、雑誌のVOGUEが主催しファッションを活性化するイベント「ファッションズ・ナイト・アウト」通称FNOが東京でも行われ、青山界隈は多くのおしゃれな男女で溢れていた。存在は知っていたが実際参加したことはなかったので、社会見学気分で仕事帰りに、ふらりと表参道あたりを歩いてみることにした。個人的にもお気に入りのプラダのブティックへ。数組の大人のカップルがゆったりとシャンパンを片手に、あれこれ試着し吟味している。そんな情景はこれもまた東京にいながら、海外の店に訪れているような浮き立った気分にさせ、さほど物欲があったわけでもなかったのに、小花の刺繡を施したグレーのカーディガンという、私の心を鷲掴みにする一着に出会ってしまった。
服は「頭」ではなく「心」で選ぶ
テレビのあるドキュメンタリー番組で、老舗の鰻屋を営む主人がまだ若い職人たちに「仕事を “作業” にしない」ということを肝に命じるよう話していた。それはモノづくりを気持ちの入らない流し仕事にしないということで、その心掛けひとつで、でき上がりに雲泥の差が生まれる。このことは私も仕事をしていくうえで、何より大切に思っていること。だから私は基本的に企画立案からスタイリング、執筆までトータルに担当するファッションエディターを仕事としている。自分が考えたコンセプトを最終的にもっとも強く発信できるから、であり、その誌面が輝きを放つかどうかの決め手である「魂=心」が入れやすいからである。
それはおしゃれも同様で「ファッションを衣料にしない」。単なる衣料には時代の空気や気分といった「心」は加味されていない。ファッションには「心」に作用する+αが込められている。そもそも服を着るという行為は、義務でやるものじゃない。考えないよりは考えるべきではあるけど、「頭」で考える成功ルールに縛られてばかりでは頑張りばかりが透けて見え、決しておしゃれには見えない。”この色、好き” “ハズシ方に惹かれる” “素材感が気持ちいい”……そんなふうに「心」が反応した服かどうか、それが着たときに素敵にみえるかどうかの鍵。
どう装うかはどう生きるか
この秋、セレクトショップでも、エストネーション六本木ヒルズ店やサロン アダム エ ロペなど、ファッション以外にコスメはもとより、もっと広くライフスタイルのアイテムを扱う店が増加中。服、ヘアメイク、生活と、ひとりの女性を取り巻くバラバラだった点がひとつの線になり、成熟へと向かっているのだろう。服がひとり歩きすることなく、どんな生活をする=どんな生き方をする女性でいたいかによって、服選びは変わる。服だけが浮くことなく、生活に自然と馴染んでいる女性は、肩の力が抜けているから格好よく見えるのだ。
ニューヨーカーの2013秋冬テーマは「ホテル・フローラ Emotional Life」。架空のホテルに招かれたようなプレゼンテーションで、フローラ=花をイメージしたカラー別の部屋が並べられ、そこに集う豊かな人生をおくる男女のスタイルがディスプレイされていた。端的に今季のテーマや注目アイテムなどが紹介されるだけでは、見る側は印象には残らない。ニューヨーカーのスタイル提案に「気分を感じる」ことの大切さを改めて知らされた。
服で自分の生き方を表現する。それは豊かさの証。充実した秋の始まりに、おしゃれを通して、自分らしさを見つめ直し、さらに深めてみてほしい。
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古泉洋子
ファッションエディター&ディレクター。大学卒業後、『ハーパースバザー』から『Mcシスター』まで、幅広い世代&ジャンルの編集部に在籍。現在は大人の女性誌のほか、新聞、ファッションブランドの広告などで誌面のトータルなディレクションを手掛けるほか、執筆も担当。著書に、信条である”着る人の内面を映し出すおしゃれ”を描いた『この服でもう一度輝く』(講談社)がある。
公式サイト http://koizumihiroko.com/
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