Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。
サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...
WITH ATTITUDE
N.Y.と聞いて思い浮かぶ風景や内容はひとそれぞれ。情報の発信源でもある街N.Y.は常に活気に満ち溢れています。今回で最終回となるこのコラムでは、N.Y.を舞台に、古泉さんが見て感じたこと、ファッション史やスタイルを紹介します。
I ♡ N.Y.
“キレカジ”を覚えているだろうか。’90年代前半、一大ブームとなった、キレイめのカジュアル。ニューヨーカーのアイコンでもある金ボタンで紺色のブレザー、通称「紺ブレ」をカジュアルに着こなした”育ちのいい”アメリカンスタイルが、男女問わず大流行した。そしてその流れをさらに推し進めたのが、伝説のファッションBOOK『Chic Simple Women’s Wardrobe』。
ワードローブに必要なエッセンシャルアイテムをシンプルなヴィジュアルで紹介した一冊で、できそうでできない潔く上品なスタイルはまさにN.Y.スタイルそのもの! この一冊をきっかけに、私のN.Y.熱も一気に高まった。私は当時の編集長を口説き落としてN.Y.取材を決行。アップタウンではきらめきに引き寄せられるように老舗デパート、バーグドルフ グッドマンへ。
さほど広くはないが重厚感のある店内は威厳を感じさせ、キラキラとした”特別” があふれていた。先頃公開された映画『ニューヨーク・バーグドルフ 魔法の デパート』には、きっとあのときめきが凝縮されているはず。そして有名ジャーナリストやセレブのおしゃれはシンプルなのになぜか華やかで、その秘密を盗もうと細部までウォッチングした。なかでも素足にポインテッドトゥのバックストラップシューズをはいて颯爽と歩く姿の、無造作なかっこよさには本当に惚れ惚れしたもの。その後、私は熱をそのままにN.Y.を代表する雑誌『ハーパース・バザー』の日本版立ち上げにも参加。歴史ある雑誌の基本理念” well-dressed woman well-dressed mind (”身なりのいい女性に高い精神が宿る)に象徴される、内面と服の関係にN.Y. 流の真髄があるのだと学んだ。
エッセンスはヴィンテージ感とハッピー感
シンプルな服は時として大味になったり、奥行きがなくなったりしがちだが、N.Y.スタイルをより魅力的にしたデザイナーがいる。それは10年以上務めたルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクター退任との噂が出ているマーク・ジェイコブス。’90年代にグランジと呼ばれる反逆的なアプローチで衝撃的に登場し、コンサバなアップタウン的シンプルに対抗。得意とする「ヴィンテージ感」で味わいを加え、新しいN.Y.のリアルクローズを導いていった。
そういうファッションの変化は活気づくエリアさえ変える。以前はアップタウン、マーク・ジェイコブスが注目され始めた’90年代半ばにはダウンタウンが、そして現在はブルックリン界隈が注目されているように。もうひとつ、N.Y.流に欠かせないエッセンスが「ハッピー感」。例えば N.Y.ブランド、GAPやコーチなどの広告ではモデルたちは躍動感を感じさせ、 幸せの感情をストレートに表現。誰もがわかりやすく共感できるポジティブさは、N.Y.を生きる人々そのもの。
おしゃれはもっと自由でいい
頻繁にN.Y.出張をしていた頃、あるファッションピープルの住む部屋を取材し、シンプル好きではあるものの正統的な枠に収まれず、つい相反するものでハズしてしまう自分のスタイルを表現する的確な言葉に出合った。モダン、エスニック、ヴィンテージ……とテイストの異なるものをミックスしながら調和させ、独自の雰囲気に仕上げたインテリアのことを、その部屋の主は「エクレクティック(折衷主義)」と呼んでいた。話を聞きながら「そうそう、こういうこと!」と妙に納得したことをよく覚えている。
N.Y.を舞台にした海外ドラマ『セックス・アンド・ザ・シティ』が、爆発的人気となったのには理由がある。このコラムに書いたN.Y.の魅力がすべて詰まっていたからに違いない。登場する4人の女性は、常にポジティブで人間味に溢れ、着こなしはシンプルをベースにしながらも決して形式ばっておらず、そこに個々のスタイルが感じられた。そしてアップタウンとダウンタウン、街が持つ両面の魅力渾然一体となりN.Y.にしかないキラキラとした独特の華やかさと温かみが共存していた。
N.Y.スタイルの魅力 ――異なる文化をルーツに持つ人々が暮らす街だから、個性を認め、それを引き出すスタイル。人生を生きる幸せを享受し、常に前向きに努力する真摯な姿勢。そこにはルールではなく自由がある。「自分らしく!」とN.Y.が教えてくれる。
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古泉洋子
ファッションエディター&ディレクター。大学卒業後、『ハーパースバザー』から『Mcシスター』まで、幅広い世代&ジャンルの編集部に在籍。現在は大人の女性誌のほか、新聞、ファッションブランドの広告などで誌面のトータルなディレクションを手掛けるほか、執筆も担当。著書に、信条である”着る人の内面を映し出すおしゃれ”を描いた『この服でもう一度輝く』(講談社)がある。
公式サイト http://koizumihiroko.com/
ラクじゃないものにこそ艶は宿る
何を着るかは「心」で決める