Reading the leading shoes

パラブーツのアドニス


Aug 13th, 2014

Text_Jyunki Yamada

この「PICK UP」コーナーで大好評の南井正弘さんの靴エッセイ。私自身、毎回楽しく読んでいますが、このたびナビゲーターのひとりとして執筆させて頂くことになりました。南井さんはご自身の体験をベースに、スポーツシューズなど多彩な靴を取り上げていらっしゃいますが、私はトラッドな装いにも似合う、ドレス系の革靴を案内していきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

NAVIGATOR
山田純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。
中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)


日本人好みのゴム底に変更され、さらに履きやすく!
オン&オフの足元を品よくクラスアップします。

さて、猛暑が続くこの時期の足元は、やはり軽快に見せたいもの。その上でショートパンツに素足履きといった週末スタイルにはもちろん、セミカジュアルなクールビズにも合わせやすい1足をとなれば、やはりローファーが最右翼でしょう。

そこで、数あるローファーから今回選んだのがフランスの名門リシャール ポンヴェール社(1908年創業)のパラブーツ「アドニス」。というのも、昨今のフレンチトラッド回帰を受け、純然たるメイド・イン・フランスの、このローファーが俄然注目されているからです。

フランス語で「甲サドル付きモカシンシューズ」を意味する「ヴァレッタモカシン(Barrette moccasin)」の異名をもつ「アドニス」は「ドレスライン」の1モデル。2005年の同ライン初投入と同時にリリースされました。どういう事情かは不明ですが、当初は意外にもイタリア生産でしたが、2011年以降はフランスにある同社の工場で製造されています。

これまではレザーソールでしたが、この秋冬から「ギャラクシーソール」に変更。パラブーツ好きにはよく知られていることですが、リシャール ポンヴェール社は自社でラバーソールを生産する、おそらくは世界唯一のシューズメーカー。独自の技術により、生ラテックスから成型されるそれらはクッション性とグリップ性に優れ、かつ擦り減りにくいことで定評があります。「ギャラクシーソール」も当然、100%自社製で、しかも「アドニス」の場合、素足履きに対応すべく、ウエスト(土踏まず周辺)をことに薄く仕上げることで反(かえ)りのよさを高めてあります。

製法(底付け法)は、ソールのコバと、そこに施されるアウトステッチがアッパーを全周するオールアラウンドグッドイヤー製法ですが、そのコバの張り出しが極力抑えられている(ことにヒール周り)ため、きめが細かく、繊維の整った上質なフレンチカーフの風合いと相まって、靴全体の佇まいには品があります。

ローファーはアメリカが発祥地ですし、アメリカントラッドシューズの象徴的スタイルでもあるわけですが、その影響を受けつつも、甲サドルの飾り穴をモダンなトライアングルパターンとし、無骨に見えがちなビーフロール(甲部のモカ縫い両端に太番手糸で施される補強縫製)を廃するなどし、エレガントなフランス流に変容させているのが、このモデルの個性であり、最大の魅力なのです。

ちなみに、この秋冬では既存の黒、タン(薄茶)に加え、バーガンディとともに、このダークネイビーが初投入。リゾートカジュアルからジャケパンスタイルまでコーディネートの守備範囲が広い「アドニス」ですが、とりわけダークネイビーはどんな色とも相性がよいうえ、フレンチトラッドを象徴する色ゆえにイマの気分にもハマります。聞けば、もっか某セレクトショップも別注をかけているとか。今後、さらなる評価が高まって、いずれはローファーの傑作と謳われるのではと思うのです。

(問い合わせ先)
パラブーツ青山店
電話:03-5766-6688
価格:66,000円+税

トムスシューズのパセオス

オールデンのタッセルローファー


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