Reading the leading shoes

フランチェスコ ベニーニョ シングルストラップ


Dec 3rd, 2014

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

「スクエアトウを試してみたい」とお考えなら、
ほんのりと色気ある、この靴から始めてみては?

1990年代半ば、メンズ高級ファッションの世界はクラシコイタリアのブームに沸いていました。靴も例外ではなく、その流れを汲んだスクエアトウが台頭。しかも、面白いことにクラシコが沈静化するにつれ、そのトウがどんどんロングノーズになっていき、やがてイタリアブランドのみならず、英国の名門までがそうした靴を展開するように。2000年頃にはベーシックなラウンドトウの靴が、どうにも不格好に見えてしまうという珍現像が起こったほど、ロングノーズ・スクエアトウが優勢になったのでした。

一転して、今のトレンドは捨て寸ほどほどのラウンドトウが主流。ですが、街でウォッチングすれば、意外にもロングノーズ・スクエアトウを履いたビジネスマンが多いという事実に気づくはずです。実際、こうした靴には依然、根強い人気があると聞きます。

さて、ここに紹介するフランチェスコ ベニーニョは、そのロングノーズ・スクエアトウのトレンドを縁の下から支えた、イタリアのファクトリーが展開するハウスブランドです。

1926年、ルイーザー・ベニーニョ氏によって創設された同ファクトリーは、イタリアやフランスの有名ブランドなどの製品を多数手掛けてきた実力派。スクエアトウ・ブームの立役者だった某有名ブランドの靴も、ここが生産を担いました。聞けば、クラシコイタリアからブリティッシュスタイルまで幅広くこなし、レディスシューズや、なんと革鞄も製作するというのですから、これには驚かされます。

クラシコイタリアをベースに、そこに大胆にクリエイティビティを加えたスタイリッシュな靴のコレクションとして、日本に知れ渡ったのは2009年のこと。マッケイ製法であるため、見た目よりも軽く、反(かえ)りのよい履き心地です。

今回、このシングルモンクストラップを選んだのには2つの理由があります。ひとつは、かつてのスクエアトウ・ブームを彷彿させるかのように、トウがしっかりとしたスクエアシルエットを描いている点です。木型名は「エネア」。前方になだらかに傾斜するトウに、屹立するサイドウォールが組み合わされた、いわゆるチゼルトウがロングノーズと相まって、その印象は実にエレガントです。

2つめは、このブランドが擁する色付け職人たちの手仕事による大胆なカラーリングです。素仕上げ(生なり)のカーフ「クラストレザー」に下地処理を施したのち、複数の色を塗り重ね、筆や刷毛、コットンクロスなどを使ってムラを出し、ワックスと水を塗布して磨き上げていくのですが、この手間ひまのかかる一連の作業、とうてい効率的とはいえません。

また、代表的なカラーリングにはそれぞれモチーフがあって、たとえばこのシングルモンクでは、暮れなずむイタリアの夕空を表現。下にいくにつれてダークカラーが深まっていく「トラモント(イタリア語で「夕暮れ」の意)」なるカラーが採用されています。しかも、このモデルの場合、プレーントウのモンクというシンプルなデザインであるため、この工芸品のようなカラーリングが非常に際立って見えます。

ちなみにアンダー5万円と、さほどムリのないプライスなので、スクエアトウ好きのみならず、以前から「スクエアトウを試したみたい」と考えていた人の入門靴としても相応しい1足ではと思うのです。

ただし、シャープなロングノーズ・スクエアトウなので、合わせるパンツは細身であることが大前提。丈もノークッション、ないしハーフクッションがよいバランスでしょう。この条件に適っていれば、スーツパンツからデニムまで、意外にもコーディネートの幅は広いのです。

(問い合わせ先)
シェラインターナショナル
電話:03-3477-7498
価格:47,000円+税

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

トリッカーズ モルトン

L.L.ビーン メイン・ハンティング・シューズ


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