1足は欲しいUチップは、スタイルを選ばず、
オン&オフをカバーする“全方位”靴なのです!
この十数年間の靴のトレンドから見ると意外にも思えますが、渋カジブームでワークブーツが若者たちにもてはやされ、ハイファッションの世界ではクラシコイタリアが台頭し始めていた20年ほど前、革靴のメインストリームは、実はUチップでした。
甲蓋をなすパーツであるモカがU字形であることからこう呼ばれています。お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、プレーントウやストレートチップ、ウィングチップなどには外羽根式も内羽根式もあるのに、なぜかこのタイプはほぼ例外なく外羽根式。おそらく、羽根革をアッパーの上に被せる構造の外羽根式なら、モカの両端を隠すことができるというデザイン上の都合と思われます。
Uチップの誕生はハッキリしませんが、イギリスで「ノルウェイジャンダービー」と呼ばれていることから、北欧のワークシューズがルーツかもしれません。それが紳士靴の定番デザインとして定着したのは1930年代頃のようで、当時制作された英国靴のカタログにこのタイプが掲載されているのを目にしたことがあります。また、ジェントルマンのカジュアルな街履き靴としてのみならず、ハンティングやマウンテン、ゴルフなどのスポーツシューズなどにも、このUモカのデザインが盛んに取り入れられました。
日本では1980年代に注目され始めましたが、メインストリームに“昇格”したのは1992年頃のこと。当時、正規輸入され始めていたジェイエムウエストンの「ゴルフ」が「フランス本国の報道関係者に愛用されているらしい」と注目されたのが、本格的なUチップ人気のきっかけになったように思います。そして振り返りますと、これがのちの高級靴ブームの発火点にもなりました。以後、エドワード グリーンの「ドーヴァー」やパラブーツの「シャンボード」といったモデルも人気となり、Uチップは休日靴としてのみならず“堅苦しく見えすぎない”オンタイムの靴というポジションを確立しました。
ところが1990年代の終わり頃になると、靴のエレガント化とともにロングノーズブームに。こうなると捨て寸の長いフォルムにしっくりこないことの多いUチップは、トレンドから外れざるを得ませんでした。10年ほど前に始まったアメトラブームで多少なり復権した観もありますが、かつての勢いを取り戻すことはないまま現在に至ります。
とはいえ決して人気がないわけではなく、それどころか、街でビジネスマンの足元を観察すれば、多くの人たちが愛用していることがわかります。昨今のビジネススタイルのカジュアル化もあって、セミドレッシーに見えるUチップは、実はそうした着こなしに最もマッチする靴なのです。もちろん、デニムやチノなどのカジュアルなパンツとも相性がよく、基本的にパンツの裾幅を選ばないという、この汎用性の高さこそがUチップの強みです。たしかにトレンドではないけれど、このタイプをスマートに履きこなせれば、それこそがお洒落上級者といえるのかもしれません。
また、オン&オフで履ける“費用対効果”の高い靴ですので、高級靴入門者にもお薦め。ということで、ここではそうした人にも敷居が高くない、シューズショップ「トレーディングポスト」の4万円Uチップを取り上げました。
アッパーはカーフで、ソールは英ハルボロ社の「ダイナトソール」。リングパターンが特徴の、このゴム底材は「ゴルフソール」とも通称されるように、元来はゴルフのサブシューズ用に開発されたもので、この点で前述のUチップ「ゴルフ」と相通じるものがあります。また、パターンや木型が英国調ゆえに製法はグッドイヤーかと思いきや、実は軽快で反(かえ)りのいいマッケイ製法というのがユニーク。グッドイヤー靴が苦手という人も抵抗なく、気軽に履くことができます。ちなみに製靴は、マッケイを十八番にする国内の某実力派ファクトリーが担当。お値打ちとはいえ、全く申し分のないクオリティの高さを誇ります。
トレーディングポスト青山本店
価格:40,000円+税
お問合せ/電話:03-5474-8725