チロリアンシューズって何? 今秋、誕生70周年を
迎えた名靴「ミカエル」で検証してみました
この秋、パラブーツの“顔”的存在「ミカエル」が誕生から70周年を迎えました。ということは、第2次世界大戦終結と同年ということですね。さらにパラブーツを展開するリシャールポンヴェール社(1908年、仏イゾーにてレミー・リシャール・ポンヴェール氏により設立)の創業者の孫で3代目の、現会長ミッシェル・リシャール・ポンヴェール氏が生を授かった年でもあり、じつは「ミカエル(ミッシェルのラテン語読み)」というモデル名は同氏の名に由来するのです。
この靴はチロリアンシューズを世に広め、あまた他社のフォロープロダクトを誘ってきた歴史的名靴です。チロル地方はオーストリア西部、ならびにイタリア東北部一帯を指し、チロリアンシューズはその山深い地方で労働靴として履かれてきた民族靴でした。同地と北で接する独バイエルン地方にハファールシューズなる、やはり山岳民族の靴があり、それは無骨フォルムのプレーントウホールカットシューズなのですが、チロリアンシューズやチロルダンスシューズにはこれに似たタイプが存在する(じつはパラブーツにもハファールのデザインを取り入れた、ズバリッ「ハファール」なるモデルがあります)いっぽう、「ミカエル」のようなモカシンタイプも履かれていたようです。
こうしたチロリアンシューズは山地の生活に適う特徴を備えており、「ミカエル」もそれらを踏襲しています。第一に、防水性を高めるべく、アッパーに油分をたっぷり含ませた肉厚オイルドレザー(「ミカエル」では「リス・レザー」の名をもつオリジナルのオイルドレザー)が使われている点です。岩などで傷つきやすい環境下ゆえ、この革を傷が目立ちにくいスエード使いにした靴もあったようです。また、やはり雨や雪、砂などの浸入を防ぐべく、アッパーとソールのつなぎ目にストームウェルト(テープ状の革の短手をL字に折り曲げて縫合されたウェルトのこと)を採用。しかも、それがノルウィージャンウェルテッド製法で堅牢に縫い付けられているのも大きな特徴です。このオイルドレザー、およびストームウェルト&ノルヴェイジャンの組み合わせは伝統的な登山靴のスペックですから、チロリアンシューズはその一種と考えてもよさそうです。
さらに、甲のモカからも雨などが浸入しないよう、その縫合部分に1本の革テープが縫い付けられていたり、厚手のソックスを履いていても容易に脱ぎ履きができるよう、シューレースを緩めるだけで履き口が大きく開口する設計であるのも、「ミカエル」が伝統的なチロリアンシューズから受け継いだスペックなのでしょう。ちなみにポヴェール社は世界で唯一、ラバーソールの自社生産ができる革靴メーカー。この靴が備える「マルシェⅡソール」(耐摩耗性やグリップ力に富み、内部のハニカム構造により、衝撃吸収性にも優れる)も当然、100%自社製であるのはいうまでもありません。
ところでパラブーツにはもうひとつ、チロリアンシューズの定番があります。「モジーン」がモデル名の現行最古のモデルで、1920年代には存在したそうで、じつは「ミカエル」はこの靴をより洗練化させたものなのです。一見、同じモデルなのですが、「モジーン」はモカが手縫いで(「ミカエル」は機械縫い)、ヒールカップ外壁左右に補強用のダブルステッチが3本施されていたり、印象的なストームウェルトのギザが台形であったり(「ミカエル」ではフェストラウンドと呼ばれる半月形のギザ)……。と、「モジーン」は、より無骨で、本来のチロリアンシューズにより近い靴といえるのです。
さて「ミカエル」ですが、本国などでは昔も今も売れ筋No.1であるとか(日本ではUチップ「シャンボード」に次ぐ人気)。この人気の最大の理由は、やはりコーディネートの守備範囲がすこぶる広い点でしょう。ポッテリとしたフォルムに大ぶりのモカが相まって、足元にほどよいボリューム感がつくため、パンツの丈や裾幅を選ばず、ジャケットスタイルからワーク、ミリタリー、スポーツなどさまざまなスタイルに違和感なく合うのです。しかも大人の足元を品よく、かつ小粋にも見せてくれるのですから、これはもう、世界中で支持されているのも当然だと思うのです。
パラブーツ青山店
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