Reading the leading shoes

ハインリッヒ・ディンケルアッカーのリオ コードバン トリプルソール フルブローグ


Oct 7th, 2015

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

ベーシックな編み上げデザインはドレッシーな着こなしにもマッチ!

ドイツ人は足の健康に強い関心をもつ民族です。国内のいたる所にフットケアサロンがあったり、足のケアやマサージ、靴選びのガイドなどを行うフスフレーガー(フットケア技術者)の公的資格制度が設けられていたり…。靴についてもコンフォートは大前提で、古くからオーソペディックシューズ(整形外科に基づいて作られた靴)も盛んに製作されてきた歴史があり、こうした姿勢は、同じくコンフォートシューズ先進国のアメリカ以上に徹底されている印象さえあります。

ご紹介のハインリッヒ・ディンケルアッカー(ブランド名は創業者の名に由来)は、そんなドイツ靴の伝統を継承するブランドです。1879年の創業以来、オーソペディックシューズなどを生産。1960年代に経営は創業家から離れたものの、ブランド名は、それまでに培われた技術などとともにハンガリーの首都ブダペストの郊外にある工場に委譲され、現在、30名ほどの職人たちによって、年8000足という少量生産のハンドメイドシューズが作り続けられています。と聞けば「それなら、もうハンガリーのブランドでは?」と思われましょうが、ドイツ南西部の古都ビーティッヒハイム=ビッシンゲン市に本社が置かれ、ドイツ人によって営まれているので、依然、ドイツブランドなのです。

では、代表的定番はといえば、誕生から60年以上にわたりベストセラーを続けるハンドソーンウェルテッド製法の「リオ」ではないでしょうか? とりわけフルブローグのダービータイプ(「リオ」にはプレーントウタイプなども存在)は、そのラギッド、かつ威風堂々たる姿がとても魅力的で、それゆえに日本でも大変人気があります。

写真は、その「リオ」のコードバン×トリプルソールバージョン。独ワインハイマーレーダー社のカーフなど他の素材が使われたバージョンもありますが、コチラはあの米ホーウィン社のコードバン製。しかも色はディンケルアッカー特注の、深みあるネイビーです。また、本底にドイツの名門ジョーレンデンバッハ社の堅牢なオークバークレザーが使われたトリプルソールは、なんと厚さ1.5cm! そもそもダブルソールはカントリーブーツなどにしばしば採用されますが、トリプルは大変珍しいのです。

木型「リオ」も大変無骨で、これがまた、靴全体の佇まいをいっそう堂々たるものに。この木型もそうなのですが、トウや甲が高く、トウ&サイドのウォールが垂直に屹立したフォルムは、俗にブダペストスタイル(ディンケルアッカーの工房がある街!)と呼ばれ、ドイツのビルケンシュトックやハンガリーのヴォーシュなどドイツ、および東欧の靴にしばしば見ることができます。しかも、いずれもがトウが内側に屈曲した、いわゆるインサイドストレート&アウトサイドカーブの形状で、これは人の足形などから編み出されたコンフォートラストのひとつの証し。当然、木型「リオ」も同様であり、このことからもディンケルアッカーは正しくドイツのブランドであるといえるのです。

それにしてもこの分厚いソールですから、さぞ硬い履き心地であろうと想像するのは無理もないこと。そこで愛用者に聞いてみたところ、階段の昇り降りでは重さを感じるものの、歩き心地は一般的な革底靴と変わることはないとのこと。しかも反(かえ)りもよく、足裏が硬くて痛くなるようなことはなく、「聞いた話だけど、インソールにスポンジが入っているとかで、それでフワッとした感じがある」とも。ただ、履き口が高めゆえにくるぶしに当たることがあるので、その場合は中敷きを足したほうがいいとのアドバイスもありました。

まるで重戦車のようなゴツイ姿の「リオ」ですが、意外にもコーディネートの守備範囲が広いのも人気の理由のようです。パンツの裾幅や丈を選ばず、スーツからジャケパンまでビジネススタイル全般をカバー。さらにチノやデニムなどとも相性がいいので、週末靴としても活躍してくれるのです。

価格:145,000円+税

問い合わせ
株式会社アイダス
電話:06-6245-5076

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

バディのスエードスニーカー

ウルヴァリンの1000マイルブーツ


FEATURED ARTICLES

Mar 2nd, 2017

ICON OF TRAD

Vol.51 トラッドな春夏スーツ服地の知識を蓄えれば仕事も快適にこなせる。

サマースーツの定番服地となるウールトロについて、ニューヨーカーのチーフデザイナーの声と共にその特徴を予習。今シーズンのス...

Mar 9th, 2017

HOW TO

ジップアップ パーカ Vol.01

氷雪地帯で生活をしていたアラスカ先住民のイヌイット民族が、アザラシやトナカイなど、動物の皮革でフード付きの上着(アノラッ...

Oct 20th, 2016

HOW TO

ストライプ スーツ Vol.02

Vol.01のディテール解説に続き、Vol.02ではストライプスーツを着こなすスタイリングを提案。Vゾーンのアレンジで印象はぐっと変え...

Mar 2nd, 2016

ICON OF TRAD

Vol.39 女性がほんらい男物だったトレンチコートを着るとき

そもそも男性服であったトレンチコートは、どのようにして女性たちの間に浸透していったのだろうか?

Aug 25th, 2016

HOW TO

ネイビーブレザー Vol.01

アメリカントラディショナルファッションの代名詞ともいうべきネイビーブレザーは、日本では《紺ブレ》の愛称で親しまれている。...

Jan 12th, 2017

HOW TO

トレンチコート Vol.01

トレンチコートが生まれたのは第一次世界大戦下でのこと。イギリス軍が西部戦線での長い塹壕(=トレンチ)に耐えるために、悪天...


YOU MAY ALSO LIKE