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サンダースのキングジョージブーツ


Nov 4th, 2015

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

3アイレットのチャッカブーツはチャッカブーツではない?

秋冬カジュアルの足元に重宝するチャッカブーツ(以下、チャッカ)ですが、そのルーツは19世紀末頃にイギリスで誕生した、ポロ競技用のアフターシューズでした。要は、元来がスポーツシューズなのです。そして1920年代~30年代、ポロ競技の愛好者でもあったエドワード8世、すなわちウィンザー公が好んで履いたことで、街履き靴として一般に浸透。なにせワイドスプレッドカラーシャツの別称がウィンザーカラーシャツであるとか、ネクタイの結び方にウィンザーノットがあるのは、同公爵が当時のファッションリーダーだったことの証左でしょう。そういえば、ダブルモンクも同公爵がロンドンのジョン ロブに作らせたのが起源でしたっけ。

ところで、皆さんがご愛用のチャッカブーツは2アイレット(シューホールが2段)ですか、それとも3アイレット(同3段)ですか? もし3アイレットなら、それはチャッカではなく、ジョージブーツ(以下、ジョージ)と呼ばれるべきかもしれません。実はチャッカは2アイレット(稀に1アイレット)が基本デザイン。対してジョージは3アイレットで、シューホールが1段多い分、筒丈が少し長い(つまり履き口がやや高い)のです。

また、ジョージはヒールリフトも少し高めで、アッパーは伝統的に、チャッカがスエードなのに対し、ジョージではスエードのほか、スムースカーフやエナメルレザーも使われてきました。しかし、この2者が“似て非なるモノ”とさえいえるのは、出自が全く違う点なのです。チャッカは元来がスポーツシューズだと先述しましたが、ジョージはなんと、ミリタリーシューズ由来だからです!

1951年12月、当時のイギリス国王ジョージ6世(現国王エリザベス2世の実父)が、それまでロングブーツだった陸軍将校用ブーツの新デザインを承認。それは夜会にも履くことができるよう、フォーマルにデザインされたアンクルブーツでした。そして、これが一般にも浸透していき、同国王の名から「ジョージブーツ」と呼ばれるようになったのです。筒丈が少し長く、アイレットがやや高い位置にあるのは、パンツの裾からシューレースが見えるのをジョージ6世が好まなかったからとか。このような“生い立ち”から、ジョージはチャッカよりも、概して重厚でエレガントな印象であるわけです。

が、面白いことに、両ブーツは出自は違えど、兄弟と呼びたくなる関係にあります。というのも、チャッカを広めたウィンザー公はジョージ6世の前王にして、なんと実兄だからです! つまり兄弟王つながりで、靴同士も兄弟関係だともいえるのです。もっとも、現在はジョージもチャッカの1タイプにくくられることが多いのですけれど……。

さて、そのジョージの代表として、英国靴の聖地ノーサンプトンの老舗サンダース(社名はサンダース&サンダース社。1873年、ウィリアムとトーマスのサンダー兄弟によって設立)の、その名も「キングジョージブーツ」を取り上げました。同社はイギリス国防総省(MOD)をはじめ、世界各国の軍や警察などにオフィシャルシューズを供給していることでも知られる名門メーカーです。

このブーツは同社のミリタリーシューズのアーカイブをもとに、木型から企画されたもので、無骨に見られがちなグッドイヤー靴ながら、端正なフォルムの木型やポリッシュドレザーのアッパー、実用的ながらレザーソールのようにスマートな英イッツハイド社製スタッドソールなどの組み合わせにより、エレガントでシャープな1足に仕上げられています。

結果、チャッカのようにビジカジや週末カジュアルに品よくハマってスタイルを格上げしてくれるばかりか、スーツはおろか、よりフォーマルなスタイルにも合う、実にコーディネートの守備範囲が広い1足になっているのです。

価格:56,000円+税

問い合わせ
グラストンベリーショールーム
電話:03-6231-0213

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

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