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ジョセフ チーニーのアストウェル


Jan 20th, 2016

text_junki yamada
photo_kazumasa takeuchi

ギブソンシューズは旬なワイドシルエットパンツと相性絶妙!

今年は英国靴の名門ジョセフ チーニーにとって特別な年となります。2016年は創業130周年であり、現工場の開業から120年目でもあるからです。チーニーの歴史は1886年、英国靴の聖地ノーサンプトンの近郊の街デスバラーでジョセフ・チーニー氏が創業したときに始まりました。当初は小規模な工場でしたが、その10年後には新工場を立ち上げて、自社一貫生産を実現。以後、今日にいたるまで同地にて、あまたのOEM生産などを通じ、さまざまな顧客からの要望に応えるべく技術と感性に磨きをかけ、ドレスからモード、カジュアルまで多様な靴をつくり続けてきました。

日本でも1991年から多くのブランドやセレクトショップに製品を供給し、お値打ち感あるプライスも手伝い、とりわけグッドイヤー靴のエントリーとして認知されています。

ところで、チーニーをチャーチのセカンドブランドと認識する人は少なくないようですが、たしかに1966年にチャーチの傘下に入ってからは、その位置づけにあったように思います。が、1999年にそのチャーチとともにプラダ・グループに組み込まれたものの、2009年チャーチの創業家がチャーチはそのままに、チーニーのみを買い戻し、翌年秋、同ブランドの実力をつぎ込んだ最高級ライン「インペリアル・コレクション」を投入。セカンドブランドのイメージから脱した新生チーニーをスタートさせました。

さて、今年の話に戻しましょう。現在、この記念すべき一年を祝し、「1886 コレクション」(「1886」は創業年に由来)が展開されているのですが、全7型のうち、ここに紹介する「アストウェル」は、その一つとなります。

同コレクションの第一のポイントは、同工場が開業100周年を迎えた1996年に誕生し、多くのブランドの別注にも使われた木型「1886」が再度採用されている点です。捨て寸や少し短めのラウンドトウでポッテリ丸みあるフォルムの特徴を持つ、この木型は甲幅に適度なゆとりがあり、ヒールカップが小ぶりゆえ、概して幅広で踵(かかと)が小さい日本人の足にも無理なく馴染みます。しかもパンツの裾幅がワイドシルエットへと移行するなか、そうしたボトムと相性のよいボリュームがあります。振り返りますと、この木型が誕生した’90年代中頃はこうしたフォルムがトレンドでしたから、20年の時を経て、靴のフォルムが一巡したのだと思います。

また、このコレクションが面白いのはドレス靴ながら、ダブルモンクを除く6モデルがすべて外羽根式だという点です。カントリーブーツは外羽根が基本ですが、ドレス系で外羽根というのは、実は英国靴においては主流ではありません。とはいえ伝統的なデザインであるのも確かで、このうち「アストウェル」などの短靴は、同国ではギブソンシューズと呼ばれ、ドレスとカントリーの中間的な靴として、たとえばジャケパンなどに合わせて履かれてきました。そして、こうしたギブソンタイプも前述の木型と同様、’90年代中頃のトレンドでしたし、当然、いまどきのパンツシルエットとマッチするのです。

さらに、もう1点。同コレクションは全モデルが黒のみの展開で、しかもアッパーのみならず、靴中も靴底も黒であるため、ちょっとモードな印象なのです。そして、実はこのモード系人気も’90年代半ばのトレンドのひとつでしたから、このコレクションは、ある意味で「ネオ90’s」的な靴であるともいえそうです。

ちなみに「アストウェル」ではアッパーに、独ワインハイマー社が良質な牛革の産地とされるアルペン地方の原皮を使って製革した最高級ボックスカーフを採用。艶やかでキメが細かく、繊維が整ったこの革と上質な仕立てと相まって、この靴をエレガント、かつモダンなものに見せていて、この点においては20年前のトレンドとは少々異なる味わいを感じさせます。また、ソールはカントリーの流れも汲んでダブルレザーソールに。これが丸みあるアッパーと非常によくマッチしています。

太めのパンツと合うと先述しましたが、実はこうしたボリュームのある靴は裾幅を選ばず、逆にスキニーなパンツにもスマートに合います。また、これに外羽根、オールブラック、上品なカーフ、ダブルソールといったエッセンスも加わって、「アストウェル」はスーツやジャケパンからモード、デニムまでとコーディネートの守備範囲が大変広いのです。ですから旬な着こなしにはもちろん、ファッションのトレンドが移ろっても末長く履き続けることができるのです。

価格:59,000円+税

問い合わせ
BRITISH MADE 青山本店
電話:03-5466-3445

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)がある。

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