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リーガル ウィングチップシューズ 2235


Oct 1st, 2014

text_jyunki yamada
photo_kazumasa takeuchi

米国で誕生したロングウィングチップ。
その傑作中の傑作は、ジャパン・メイド!

先月(2014月9月)、独立の是非を問う住民投票でスコットランドの独立が否決されましたが、このニュースで同地が元来、イングランドとは別の国であることを再認識しました。スコットランド人はブリテン諸島先住のケルト系で、4~5世紀にアングロサクソン人が同諸島に移り住んだことから、北方、すなわち現在のスコットランドに押しやられた歴史をもっています。

ところで、タータンキルト発祥の地として有名なスコットランドは、じつは靴においても重要な貢献をしてきました。すなわち今日、英国靴の重要な意匠として知られる「ブローグス」の誕生地なのです。ブローグスとはブローギング(抜き飾り)が施された靴の総称で、ブローギングは、メダリオン(トウに施される徽章風抜き穴飾り)、パーフォレーション(革の切り替えや履き口などに沿って送り穴状に配列された抜き穴飾り)、ピンキング(革の切り替えなどに施されるギザ抜き飾り)の3種類に大別されます。

これらは元来、雨対策から考案されたと言われています。この点については別の機会に考察したいと考えますが、いずれにしても、ルーツが16~17世紀頃、スコットランドの高地、およびアイルランドに暮らすケルト系のゲール人らが労働時に履いたクアラン、あるいはラリオンなる短靴であることは確かです。

それが19世紀に入ると英国貴族らのハンティングブーツ、すなわちカントリーブーツへと変容し、さらに20世紀に入る頃には、オックスフォード(内羽根式のドレス靴)の定番意匠として定着しました。

これらのうち、上記3種のブローギング全てが施されたウィングチップはフルブローグと呼ばれ、これが1920年代に人気を博すのですが、とりわけ第一次大戦後の好景気にわく米国で大流行。以後、アメリカントラッドシューズの代表的意匠となりました。

また、中でもウィングチップ両端がバックステイまで延びた意匠で、外羽根式+ダブルソールの短靴をロングウィングチップと呼びます。これは米国独自の意匠のため、アメリカンブローグとの別称があります。

さて、そのロングウィングチップ。アメトラが返り咲いたこの数年で改めて注目されるところとなり、多くのブランドが展開しています。そんな中、本場米国で製造されたアメリカンブランドで言えば、オールデンのみというのが実際のところ。しかし、それ以上に私たち日本人にとってなじみのあるモデルがあります。それがリーガルの「2235」。同ブランドの“顔”とも言えるモデルにして、日本にウィングチップを定着させたエポックメイキングな存在です。

1960年代、米国ブラウン製靴社がリーガルのブランド名で展開していたモデルを、日本製靴社(現リーガル コーポレーション)が日本人の足型に合うように木型から作り直して再現し、新宿にある某有名百貨店の別注として販売したのが、このモデルのルーツです。その数年後、品番「3235」として1968年春に全国販売されるに至りました。

1972年に現行の品番「2235」に品番変更し、その後アッパーを大手製革会社ニッピに別注した八方揉み革から、現在のスコッチグレイン型押し革に乗せ替えられるなど多少の変更は加えられてはいるものの、40年以上を経てなお104個のパーツ・130工程はそのままに、ジャパン・メイドで貫かれ、その姿を変えることなく販売され続けているスーパーロングセラーなのです。

前述したように、本国はおろか、その他の国でもこれだけ手間の掛かる工程で長期間作り続けられているロングウィングチップは存在していないはず。しかも、いまなお売れ筋なのですから、まさに日本が誇るべき名靴と言えるでしょう。

では、この靴をどう履くべきかとなりますが、じつはコーディネートにおける汎用性は高く、アメトラはもちろん、スーツからジャケットスタイル、はてはジーンズまでさまざまなスタイルにマッチします。ボリューム感ある無骨なフォルムなので、パンツも裾幅も選びません。ただし、ブローギングやグレインレザーがしっかり自己主張しているので、合わせる服は無地などシンプルなものがオススメです。

(問い合わせ先)
リーガル コーポレーション
電話:047-304-7261
価格:23.0~26.5cm/33,000円+税 27.0~28.0cm/34,000円+税

Navigator
山田 純貴

55歳/東京出身/雑誌・書籍のフリー編集者・ライター。 中学時代に靴の魅力に開眼。1993年以降、靴道の伝道者として雑誌等に執筆中。著書に『靴を読む (本格靴をめぐる36のトリビア)』(世界文化社)

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